ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。PGAツアーのメキシカンオープンで優勝したジェイク・ナップについて語ってもらった。

個性の強い選手がLIVゴルフに移籍したせいか、優等生が多い感のあるPGAツアー。そんななか異色の経歴を持つのが、ジェイク・ナップです。

1月のファーマーズで3位に入り、そのとき彼を紹介した記事がド肝を抜かれるぐらい面白く、いつか紹介したいなと思っていたら3週間後のメキシコオープンで優勝してくれました。

カリフォルニア生まれの、今年がルーキーイヤーとなる29歳。地元のUCLA時代は全米オープンに出場、伝統あるウエスタンアマでベスト4に入り、全米アマでもマッチプレーに進出。卒業まで半年を残した16年、3年で中退してプロ転向しました。

しかしエリートが集まるPGAではなかなか芽が出ず、カナダツアーに4年参戦。4年目の19年に2勝して、20年にPGA2部のコーンフェリーツアーに昇格します。しかしここでも厚い壁に跳ね返され、コロナ禍でロングシーズンとなった20-21年は36試合に出て20試合が予選落ちでした。

異色の経歴はここから。再びカナダツアーに戻る22年の開幕までの9カ月間、あまりのショックから「ゴルフと関係ない世界で働きたい」とナイトクラブの用心棒に。もともとトレーニング好きな細マッチョなだけに、腕っぷしには自信もあったのでしょう。

それにしても用心棒とは、なかなかプロゴルファーの経歴にはありません。しかし、この選択が後の飛躍の転換点に。22年にはカナダツアーで優勝も果たし、賞金ランク2位で再びコーンフェリーツアーに。23年、同ツアーで22試合に出場すると20試合で予選通過、うち半分の10試合はベスト10フィニッシュと化け始めます。そして賞金ランク13位でPGAに昇格した今年、前述のファーマーズで3位、メキシコオープンで優勝、世界ランキングも48位(3月31日現在)でマスターズ初出場と、用心棒時代の写真とともに注目を集める存在となりました。

自ら「ジェットコースターのような人生」と言うのもうなずけます。ゴルフを諦めようとした時期もあったようですが、彼の育ったメサベルデCCのヘッドプロから聞いた「竹の話」が、いつも頭の片隅にあったそうです。いわく「竹はなかなか顔を出さないが、その間、ずっと地面の中で根を張り巡らしている」。竹など見たことのないカリフォルニア生まれには新鮮でもあったのでしょう。用心棒時代も含め張った根が、まさに今年破竹の勢いで顔を出し始めました。

やんちゃなオーラのなかに、人懐っこさを感じさせます。シャツの右袖には、地元のアイスホッケーチーム「アナハイム・ダックス」のロゴ。たまたまホームコースで一緒に回ったメンバーがダックスのCEOで、以来、サポートを受けているそうです。

大きなフィニッシュで見える左腕の内側には、「いつも一緒に回っている」自慢の亡き祖父の名前の頭文字「GSFB」のタトゥーが刻まれています。子どもの頃から兄と気に入って使っている言葉はLTD(LivingThe Dream =夢に生きる)。このロゴのTシャツやキャップを作り、SNSのアカウントにも使用。さらなる大きな夢を追い求めます。

※週刊ゴルフダイジェスト2024年4月9日号「さとうの目」より一部加筆