中高年なら、子どもの頃の虫歯治療での選択肢は「銀歯」の一択だったはず。現在でも銀歯は虫歯治療の主流であり、何らかの形で銀歯が残っている成人は、全体の7〜8割を占めるとみられている。

「しかし、冷たいものや熱いものを口にすることで温度変化にさらされたり、噛むことで圧力が加わったりすることで銀歯から金属イオンが溶け出すようになります。その結果、金属アレルギーを引き起こしたり、老化を早めたりする弊害が指摘されています」と、アイムスデンタルクリニックの今枝誠二院長は言う。

 実は、そうした弊害を避けるため、すでにドイツやスウェーデンでは銀歯による治療が禁止されている。また、虫歯治療は「ミニマルインターベンション(最小限の侵襲)」が国際的な標準になっていて、なるべく削らない治療が行われているのだ。

 銀歯を詰めたり、はめたりするのに、虫歯の周囲の健康な部分の歯も削って形を整える必要がある。最後に銀歯をセメントで固めるのだが、経年劣化で隙間ができて外れたり、再び虫歯になったりする可能性が高い。銀歯の寿命は5年前後とされ、銀歯の治療を繰り返すうちに歯がなくなっていく。

「そこで削る範囲を最小限に抑え、ペースト状のプラスチック系素材であるコンポジットレジンを充填し、光を当てて凝固させる治療が、海外で主流になっていて、国内でも普及するようになっています」(今枝院長)

 コンポジットレジンによる虫歯の治療は保険の対象になり、自己負担3割で1本当たり700〜1000円で済む。ただし、素材がプラスチックなため、あまり長持ちしない。また、大きな虫歯には向かない。そこで、保険対象外の自由診療になるものの、選択肢に挙がってくるのが「セラミック」や「ジルコニア」だ。

「いずれも歯に近い材質で、銀歯と違って体に馴染みやすく、金属イオンが溶け出す心配もありません。見た目が自然で変色しにくく、虫歯菌が付きにくいという特徴もあり、定期的なメンテナンスを行っていれば、10年、15年と、長期にわたって使用することができます」(今枝院長)

 問題は治療費だが、1本当たり詰め物で4万〜8万円(税別)、かぶせ物だと8万〜12万円(同)ほどかかる。4000円前後で済む銀歯を選び、治療を繰り返すことで、最終的に歯を失ってしまうリスクを引き受けるか。それとも、それなりに費用はかかるが、セラミックやジルコニアを選択して、自分の歯をできるだけ長く残したほうがいいのか。十分に検討したうえで、判断するのがベストだろう。

「その意味でも、虫歯の治療には複数の選択肢があり、それらのメリットやデメリットをきちんと説明してくれる歯科医師に診てもらうことが重要です」(今枝院長) =つづく

▽今枝誠二(いまえだ・せいじ) 2004年、東京医科歯科大学歯学部卒業。23年からアイムスデンタルクリニック院長に。著書に「現役歯科医が警鐘 こんな歯医者に行ってはいけない」がある。

(伊藤博之/ジャーナリスト)