●店主・砂川さん体力の限界「感謝しかない」

 能美市内で唯一の銭湯である寺井町の寺井湯が6月5日で営業を終える。1931(昭和6)年に創業し、おがくずを使って沸かす湯は肌にやさしいと好評で、近隣住民が足しげく通ってきた。2代目の砂川信一さん(83)が体力の限界を感じ、後継者もいないことから、93年の歴史に幕を閉じる決断をした。砂川さんは「寂しいが、これまで支えてくれたお客さんには感謝しかない」と最後の日まで良い湯を届ける。

 寺井湯は砂川さんの父茂信さんが現在地で創業し、茂信さんが71年に死去して以降は、砂川さんが妻千津子さん(79)、母せきさんと切り盛りしてきた。

 建物は風情漂う外観で、店内には薬風呂や気泡風呂など四つの浴槽とサウナを備える。

 おがくずで沸かす湯は人気で、小松、白山市からもファンが訪れるが、製材所から調達した大量のおがくずを釜に運ぶ作業は重労働だ。砂川さんは1日12時間、火の番として釜に張り付き、休日も店内清掃やタオルの洗濯に励むなど、夫婦で休む間もなく働いてきた。

 「父から引き継いだ大切な釜を絶やしたくなかった」という砂川さんだが、腰を2度手術するなど体には長年の疲労が蓄積、今は歩くのにもつえが必要になった。

 廃業を考え始めたのは昨年夏ごろ。相談相手だった姉が他界し、会社員の息子2人に厳しい仕事を継がせるのは忍びないとの思いが募った。「妻が元気で、自分もまだ余力があるうちが引き際」とのれんをしまうことを決めた。

 今年に入って脱衣場に5月末の閉店を伝える貼り紙をしたところ、常連客からは営業の継続を願う声が多く寄せられた。感謝の気持ちが少しでも伝わればと、創業時から続けてきた菖蒲湯(しょうぶゆ)を6月4〜5日に行ってから店を閉じることにした。

 砂川さんは「最後までいつも通りの仕事をする。心も体も温まるような良い湯につかってもらいたい」と穏やかな表情で語った。