連載「生成AI 動き始めた企業たち」第17回は、オーラルケア商品やせっけんなど日用品を幅広く手掛けるライオンを紹介する。同社は2023年5月、自社開発した生成AI「LION AI Chat Powered by ChatGPT API」を国内従業員約5000人に公開。資料整理やメール対応などの業務効率化に役立てているという。

 現在は、生成AIと検索サービスを組み合わせた「知識伝承のAI化」ツールの自社開発に取り組んでいる。同社が蓄積してきた技術的知見や実験データを、対話形式で効率的に取得できるようにするツールで、24年6月の導入を目指している。

 検証では、従来の情報検索では文書の取得に5〜10分かかっていたが、ツールを用いると2分以下と最大約5分の1に短縮できるなどの効果を得られたという。同社が描く、生成AIの活用戦略とは――。デジタル戦略部データサイエンスグループの百合祐樹氏に聞いた。

●Q. 生成AIはビジネスと社会にどんな変化をもたらすか

 生成系AIの導入は、ビジネスの効率化やスキルの幅を広げることにつながると考えています。実際にLION AI Chatの導入によって、各従業員が生成系AIを活用して資料整理やメール対応、コーディング(ソースコードを書く作業)といった業務の効率化を実現しています。また、プログラミング経験のない従業員が、生成系AIに問いかけながら業務の自動化にチャレンジするなど、スキルアップにつなげることでビジネス活動の質を向上させています。

●Q. 自社のAI技術の強みは何か

 自社開発を進めるAI技術は、当社が長年培ってきた技術や専門知識を活用することで、業務の深い理解に基づくサポートを従業員に提供することや、当社ならではの価値をお客さまへ届けることを目指します。

 特に「知識伝承のAI化」ツールについては、まずは研究開発部門の従業員を対象に、これまで蓄積してきた研究データに基づいて生成系AIが若手技術者の知識習得をサポートする役割を担います。これによって知識や技術の属人化を解消し、従業員が素早く専門知識を活用できる体制を実現したいと考えています。

●Q. 自社の競争優位性をどう確保するか

 競争の激しい事業環境の中、従業員が自身の専門性を最大限発揮できる環境を用意するためには、生成系AIを含む先端技術の活用が一つの解決策だと考えています。今後も先端技術の積極的導入と活用の見定めによって、組織全体の事業推進力向上に貢献することを目標として捉えており、そのための人材育成なども併せて行っていきます。

●Q. 生成AIがもたらすリスクと対処法をどう考えるか

 生成系AIを利用する媒体(※)や入力データ、生成物の活用方法によって情報漏えいや著作権侵害、誤った情報の生成などが発生するリスクがあります。企業においては、知的財産部門や法務部門と連携した上で、適切な利用範囲を明確にしたガイドラインを社内に発行することや、セキュリティやコンプライアンスの面で安全性が担保されている媒体の導入などが、リスクの低減につながると考えられます。

※ChatGPT/OpenAI社、Azure OpenAI Service/Microsoft社など、生成AIの提供媒体

●Q. 生成AI開発に関するルール整備をしているか

 当社では、従来の情報管理に関する規程に加えて、生成系AIの利用に関するガイドラインを社内に発行しており、生成系AIを利用する際のリスクや入力データ取り扱い、生成物の利用方法などについて指針を共有しています。

 また、生成系AIの開発・普及に携わるチームが主体となって、生成系AIの適切な活用をサポートするコミュニティの運営なども実施しており、従業員のリテラシー向上に貢献しています。