ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルの構成要素を9つのブロックに分類し、それを1つのキャンバス上で表現することで、ビジネスモデルの特徴や要素間の関係を表現するフレームワークです。このフレームワークを利用することで、既存既存のビジネスモデルを理解したり、新しいビジネスモデルを構想したりすることができます。

 その利便性や汎用性の高さから、ビジネスモデルの分析や構想におけるコミュニケーションのためのフレームワークとして、世界中に普及しています。

 ビジネスモデルとは事業の構造や要素を抽象化した概念モデルであり、事業の全体像を表すものです。ビジネスモデルキャンバスは、上記の図のように9つのブロックでビジネスモデルを表現しています。

●ビジネスモデルキャンバスの使い道

 各ブロックの解説は表の通りです。(1)から(9)の順番で記述すると比較的作成しやすいです。

 ビジネスモデルは事業全体に関する概念であるため、その議論において事業の個別の要素に深入りしてしまうと、ビジネスモデル全体が俯瞰(ふかん)できなくなる恐れがあります。そのため、ビジネスモデルについて検討するときには、ビジネスモデルキャンバスを用いるなどして、検討しているビジネスモデル全体を俯瞰することが重要です。

 まずビジネスモデルキャンバスは、既存のビジネスモデルを理解するために活用できます。成長している事業には、優れたビジネスモデルが備わっていることがあります。理解したい事業について情報を収集し、ビジネスモデルキャンバスの視点で整理してみましょう。その事業の成長の理由が理解しやすくなると思います。

 さらに、ビジネスモデルキャンバスは、新しいビジネスモデルを構想するために活用できます。自社の特定の事業で実施している主要業務や活用している主要経営資源をもとに新しい価値提案を構想し、新たな顧客を獲得することを検討してもよいですし、自社の特定の事業の顧客セグメントに対して、異なる価値提案をすることを検討するのもよいでしょう。1つのキャンバスでビジネスモデル全体を表現できるため、メンバー内のコミュニケーションを促進させる共通言語としても活用できます。

 このように、ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデル全体を俯瞰したり、要素同士の関係性を表現したりする場合は有効ですが、一方で、ビジネスモビジネスモデルの外部環境や各要素の詳細については表現できません。

●使い方

 ビジネスモデルキャンバスは、次の図の通りに大きく左右2つのエリアに分けて考えることができます(中央に配置されている「価値提案」は、顧客に対して自社が提案する価値です。ここで顧客と自社が重なり合います)。

右側:顧客との関わりについて整理するエリア

左側:価値を創出するための自社の活動について整理するエリア

 顧客と自社に関する情報を収集したり、仮説を検討したりしたうえで、情報をキャンバスで整理しましょう。

 なお、「ビジネスモデルキャンバスには競合の視点が入っていない」という指摘がよくありますが、競合の視点がないのではなく、競合や既存の解決策と異なる点を意識して描くというのが、適切な使い方です。何らかの新しさを持ったビジネスモデルは、競合や既存の解決策と異なる新しい要素があるはずです。ビジネスモデルキャンバスでは、そこに注目して表現します。

 ビジネスモデルキャンバスで表現する際に、9つあるすべてのブロックに新しい要素を含めたいと感じることがあるかもしれません。しかし、すべてのブロックに新しい要素が含まれている必要はありません。競合や既存の解決策との違いがある点を意識しながら、ビジネスモデルを表現してください。

●事例・参考例:コンビニエンスストア

 私たちにとって身近な小売業態であるコンビニエンスストアのビジネスモデルをビジネスモデルキャンバスで表現してみます。コンビニエンスストアは、その他の小売業態とどのような点で違いがあるのでしょうか。コンビニエンスストア以外の小売業態との違いを意識して、ビジネスモデルキャンバスで表現してみましょう。

 完成したビジネスモデルキャンバスは、下図の通りです。

 各ブロックの詳細な解説は、次の表の通りです。なお、コンビニエンスストアの多くはフランチャイズシステムによるものですが、ここでは直営店を想定して表現しています。

 このように、ビジネスモデルキャンバスを用いると、他の小売業態とは異なるコンビニエンスストアのビジネスモデルの特徴を端的に表現できます。

 コンビニエンスストアは進化し続けているため、必ずしもこの特徴に合致するものだけではありませんし、さらに詳細に表現することもできますが、抽象化して表現することでビジネスモデルの全体的な特徴がつかめます。

●事例・参考例(2)Spotify

 ビジネスモデルには、多様な顧客セグメントに対して異なる価値を提案しているものがあります。例えば、情報を提供するメディアビジネスでは、閲覧者には有益な情報提供に取り組んでいるのに対し、そのメディアに広告を出稿する広告主には広告掲載によるプロモーション支援に取り組んでいます。

 ビジネスモデルキャンバスでは、異なる顧客セグメントと価値提案が含まれる場合でも、色を分けたりすることでわかりやすく表現できます。音楽ストリーミングサービスであるSpotifyを事例として、その表現方法について理解しましょう。

 Spotifyのビジネスモデルを表現すると、下図の通りです。

 Spotifyには主な顧客として3種類の顧客がおり、それぞれに異なった価値を提案しています。

 1つ目の顧客セグメントが「音楽リスナー」です。音楽リスナーに対する価値提案は「ストリーミングによる制限なしの音楽鑑賞」であり、多種多様な音楽を楽しむことができます。

 2つ目の顧客セグメントが「音楽クリエーター」です。音楽クリエーターに対する価値提案は「世界中の音楽リスナーへのコンテンツ提供」であり、Spotifyを利用している世界中の音楽リスナーに自身が制作した音楽を届けることができます。

 3つ目の顧客セグメントが「広告主」です。広告主に対する価値提案は、Spotifyにおける広告配信による「商品やブランドのプロモーション支援」です。

 このように異なる顧客セグメントと価値提案がある場合は、図で示したように色分けをするなどして、表現するとわかりやすいです。

 Spotifyのチャネルは「ウェブサイト」や「アプリ」であり、顧客との関係は「システムによるサービス提供」です。収益の流れとしては、主に「サブスクリプション課金からの収益」と「広告収益」があります。

 価値提案を実現するための主要経営資源としては、Spotifyという「開発したプラットフォーム」に加え、「魅力的なコンテンツと音楽クリエーターとのつながり」があります。それらを獲得するためには、主要業務として「プラットフォームの開発と運用」と「魅力的なコンテンツの獲得」が不可欠です。魅力的なコンテンツの獲得では、コンテンツの権利を有している「レーベル会社」との連携が必要であり、これが主要パートナーです。コスト構造としては、「プラットフォーム運用費」「コンテンツのライセンス料」「人件費」が主なものでしょう。

この記事は、『ビジネスフレームワークの教科書 アイデア創出・市場分析・企画提案・改善の手法 55』( 安岡寛道、富樫佳織、伊藤智久、小片隆久/SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。