・会社が私生活に干渉することを拒む

・プライベートな時間と、会社以外の居場所を大切にしたい

・会社という枠組みにとらわれず、自分自身の価値観に従って仕事をしたい

・転職も含め将来の多様な可能性を求めたい

・たとえミスをしても広い心で受け入れ、温かく成長を見守ってくれる「寛容型」の上司を求める

 ――これらはいずれも「新入社員意識調査アンケート結果」で明らかになっている、昨今の若手社員の特徴と傾向である。

 彼らを指導する立場の管理職世代の方も、かつては上司から「最近の若者は打たれ弱い!」「俺たちの若い頃は……」などと小言をいわれていたかもしれないが、いざ自分自身が指導する立場となると、同様の難しさを感じることが多いのではないだろうか。

 特に近年は企業のコンプライアンスやハラスメントに対して世間の目は厳しく、むしろ部下の側から「それってパワハラですよ」と指摘されることを恐れ、ちょっとした指示や指導さえためらう方もいるかもしれない。

●新入社員「任された仕事だけしたい、でも成長意欲は高い」……どういうこと?

 しかし、データをよく読めば、一般的な傾向だけでは分からない「若手社員の実態」が見えてくる。

 実は、彼らは「成長意欲」「貢献意欲」を持ち、「仕事の意義」や「タスクの意味」さえ納得できれば前向きに行動できる。そして仕事は長時間労働か否かよりもその「成果や質で評価されたい」し、仕事に必要なスキルや能力の獲得は「自己責任」であると、会社の仕事をある意味シビアかつドライに捉えていることが分かる。そのマインドに、管理職側も寄り添ってコミュニケーションを取っていくべきであろう。

 管理職世代が戸惑う点があるとすれば、若手社員の「働くうえで大切にしたいこと」への回答において「任された仕事を確実に進めること」の割合が過去最高となり、「何事も率先して真剣に取り組むこと」が過去最低となったところではないだろうか。

 「成長したいと言っておきながら、率先して行動するわけでもなく、与えられた仕事を頑張るとは一体どういうこと!?」と感じてしまうのも無理はないだろう。

 これは決して彼らにやる気がないわけではなく、失敗に対する不安感が大きいゆえの「堅実に仕事を進めていきたい」意思の表れ、と捉えるとよいだろう。

 彼らは、教育の変化によって厳しく指導されたり否定されたりする経験に乏しい。また、サービスの発展によって自発的に行動する経験も積みにくい時代を生きてきた。さらに、学生時代の貴重な数年間をコロナ禍中で過ごしたことにより、学外での活動を通した成功体験、失敗体験も充分に得られていないといった背景要因も考えられる。だからこそ、失敗への不安を早期に払拭し、彼らの成長意欲を着実にフォローするための「丁寧なコミュニケーション」が求められるのだ。

●意識すべき「3つのポイント」

 これらの前提を踏まえ、若手社員との良好な関係性を構築・維持するために有効な心構えとして、まず次の3点を意識して実践するとよいだろう。

(1)多様な価値観に寛容であること

 転職を前提としたキャリア形成志向、副業や兼業への興味、プライベート重視姿勢などを尊重すること。

(2)個々の部下に関心を寄せ、こまめに承認すること

 部下のキャリアプランやライフプランを把握した上で配慮し、彼らの成長や小さな変化に気付き、「日々の働きぶりを見ている」と知らしめること。

(3)部下が成長や貢献を実感できる仕事を与え、サポートすること

 仕事の意味や意義を伝えるとともに、部下の意欲を刺激して行動を促し、試行錯誤に伴走するなど、フォローを意識的に実施すること。

 以下、実際に上司が部下にどのような声掛けをしたらいいかなどの実例も踏まえながら、順番に説明していこう。

●(1)多様な価値観に寛容であること

 「社会人なら少々の理不尽に耐えるのは当然。苦労した分だけ成長できるんだ!」「自分が若いときは、残業や週末出勤など当たり前だった!」――上司が抱いているこのような前提が、部下とのコミュニケーションを妨げ、仕事の生産性を下げる要因となり、場合によっては「パワハラそのもの」と思われているかもしれない。

 大前提として「あなたと部下は大きく違う、まったくの別人」であるとの認識から始めなくてはならない。部下である相手は、社会人経験がまだ浅い。一方であなたはさまざまな修羅場を潜り抜け、管理職まで出世を果たした、社会人としてはむしろ「特殊なタイプ」だ。

 自分は厳しい指導を受けたり、放置されたりしたところで「伸びる」タイプだとしても、部下が同じレベルのストレスやプレッシャーに耐えられるとは限らない。あなたとっては「会社や仕事が一番」であっても、部下はあなたと同じように仕事はこなせないし、プライベートの充実こそが仕事へのエネルギーとなるタイプかもしれない。

 「相手の成長のため、良かれと思って」したハイレベルな要求や叱咤激励が、パワハラ認定されたケースもある。パワハラ的な指導に慣れ(むしろパワハラにあたる指導を受けてきた経験しかなく)「自分は打たれ強い」との自覚を持った人であればあるほど、打たれ弱い部下の気持ちを理解できず、「社会人ならこれくらいのプレッシャーは当然」といった信念を持ってしまいがちだ。

 「寛容な上司」を持った経験がない方に「上司としての寛容さ」を求めるのは酷かもしれないが、そもそもあなたと部下は別人であり、タイプも大きく異なるのだ。部下に迎合する必要は決してないが、大前提を共有していない人を相手にしていることを念頭に置き、「彼が仕事上で最も重視している価値観は何だろう」「彼女はこの仕事を通して、どんなライププランを実現したいと考えているのだろう」といった形で個々の部下の価値観を把握し、それらの価値観に対して寛容であるべきなのだ。

●(2)個々の部下に関心を寄せ、こまめに承認すること

 昨今、従業員の「エンゲージメント」つまり仕事や組織への主体的な貢献意欲をいかに高めるか、というテーマが注目を集めている。

 これは単なる「従業員満足」や「忠誠心」とは異なり、会社組織と従業員が相互に尊重し合い、愛着を持てているがゆえの自発的な行動を基とした「確固たる信頼関係」であり、従業員目線なら「この会社の社員であることが誇り! 周囲の人にもこの会社の良さを自慢したい!」と言える状態のことだ。

 各社ともエンゲージメントをいかに高めるか、知恵と工夫を凝らしている。その中でも実際に従業員エンゲージメントが高い組織は共通して「日常的なコミュニケーションの中で、従業員間の承認や動機づけが自然になされる組織風土」を維持すべく、地道な努力を継続している。

 「言うだけなら簡単! それが難しいから皆困ってるんだ!」と思われるかもしれないが、やるべきこと自体はシンプルなのだ。

 具体的には、管理職であるあなた自身が、

・個々の部下に対して積極的に強い関心を持ち、

・彼らのキャリプランやライフプランまで把握したうえで、

・日々の行動・言動を注意深く観察し、

・相手の個性や状況を踏まえた声がけをすること

 である。そうすることで、相手にとって受け容れやすく、また相手が意見を表明しやすい関係性を構築・維持できることになるはずだ。

 身近な例でいえば「なんとなく反応がにぶいから、この話は早々に切り上げて次の話題に移ろう」「スポーツ観戦好きだという相手に合わせて、サッカーに例えて話してみよう」「相手はハードワーク肯定派だから、単に『残業するな』じゃ通じないだろうな」などと、相手の状況や志向、価値観を意識しながらコミュニケーションを取るほうが、より意図が伝わりやすいことは自明であろう。そんな配慮のレベルをもう一段階上げるのだ。

 例えば、早くチームリーダーに昇進したいと考えている部下に対しては「自分のタスクが終わって余裕があったら、上司や他のメンバーで支援が必要そうな人のサポートに回ってみたらどうだろうか。チームリーダーは『自分がやりたい!』という人より、『あの人にリーダーになってもらいたい!』という人が任せられるものだぞ」と助言できるだろう。

 家庭重視の部下であれば「来週水曜に娘さんの授業参観があるんだろ? だったら今週中に仕事をここまで終わらせておいて、水曜は半休をとってもいいぞ」といった声がけをするのがいいかもしれない。このように、相手に合わせたコミュニケーションを日常的に心がけるとよいだろう。

 そうすれば部下は「ここまで自分のことを考えてくれているのか」と、あなたに対する信頼感は確実なものとなるはずだ。

 そして「承認」もまた、組織マネジメントにおいて頻出するキーワードでありながら、なかなかハードルが高いと感じる人は多いはずだ。そもそも、部下を承認すべき管理職自身が、これまで承認を受けてマネジメントされた経験に乏しく、何をどうすればいいのか分からない上に、「承認」=「部下を甘やかすこと」「ご機嫌をとること」などと勘違いしている人も一定割合存在しているためであろう。

 しかし「承認」は、甘やかしでもご機嫌とりでもない。いわば「相手を望ましい方向へ変化させるための有効な手段」である。

 例えば、あなたが新規取引先との大事なプレゼンテーションに備え、久々にパリッとしたネクタイとスーツでオフィスに出社したところ、目をかけている部下から「おっ、上品なスーツですね! いつも以上に威厳が感じられて素敵です!」などと言われたらどう感じるだろう。おそらくつい気分が良くなって、今後も気合いが必要な場では意識的に同じようなスーツとネクタイの組み合わせを選んでしまうのではないだろうか。

 これはまさに「承認」による、あなた自身の「行動の変化」である。この構図と同様に、組織にとって望ましい行動に対してあなたが適切な承認を与えることで、無理矢理指示をする必要もなく、メンバーの行動を促すことができるのだ。

 仕事の問題を常に可視化し、問題が発生してもすぐに解決できる環境を実現することを、仕事の「見える化」と言う。同様に、お互い本音を言い合える関係を作り、問題点や解決策を共有・対処できるようにすることは仕事の「言える化」と呼べるだろう。あなたが率先して組織風土を「言える化」することで、昨今同様に重要視される「心理的安全性」の確保にもつながることになるのだ。

●(3)部下が成長や貢献を実感できる仕事を与え、サポートすること

 従業員エンゲージメント向上にまつわる各社の施策を見る限り、愛社精神や仲間意識を高揚させる「組織エンゲージメント」に寄与するタイプのものが多いようだ。しかし、筆者としては、各自の仕事に対する愛着、すなわち「ワークエンゲージメント」を高める方を重視すべきと考える。

 なぜなら先述の調査結果の通り、若手社員は「自分の仕事」「自分の成長」に対する忠誠心は高いため、「自分のやりたい仕事」「自分の成長に資すること」であれば誠実に向き合えるからだ。

 例えば「ちょっと難しい仕事があるんだけど、やり方を考えてみてくれないか?」「次にお願いしようとしているプロジェクトには、こんな社会的意義があるんだ」といった形で、部下の知的好奇心を刺激したり、仕事の意義を実感させたりする声がけは有効であろう。

 同様に、あなた自身が組織内の仕事やタスク、それぞれの意義や意味を把握できていれば、新人や部下が希望の配属先や異動先でなかった際、いわゆる「配属ガチャ」だと嘆かれる前に布石を打っておけるのだ。

 例えば、マーケティング職志望の新人にコールセンター配属を言い渡す際などには「コールセンターは最前線の顧客接点だ。顧客の生の声を収集・分析することで、マーケットのリアルな反応を本社企画部門に届けられるし、新たなサービス創出にも寄与できる唯一の部署なんだ。マーケティングの全てがここにあるといっていい。ここでの気付きを、ぜひ今後のマーケティング施策企画に生かしてほしい」といった言い方もできるはずである。

 そのうえで、上司であるあなたは、部下が目の前にある仕事に集中できる環境を整え、結果が出るよう導くことに注力していただきたい。仕事へのモチベーションとは無理矢理「上げる」ものではなく、自分がやった仕事で結果が出ることによって「自然に湧き上がってくる」ものである。したがって、「愛社精神を持たせれば良い仕事をする」という考えは実は真逆であり、実際は「良い仕事を与えれば愛社精神が湧く」という順番で考えるべきなのだ。

 次回の記事では、新入社員を叱りたくなったときに注意すべきスタンスと、その要点について解説する。

(新田龍)