新規事業であれ既存事業であれ必ず最初に「計画」を立てます。実は、この計画こそが事業の行き詰る一番の要因だと言ったら、皆さんはどう思いますか?

 「計画を立てる」と、多くの人は構想が形になりそうだと安心します。そして計画通りに進めようとしがちです。しかし、事業は生き物のようなもので予測不可能な面もあります。日々、環境が変化しているこの時代、当初の計画通りに進む方がまれです。そのため私は計画を最後に立てるようにしています。正確に言うと、計画は“立てる”ものではなく“育てる”ものであると考えています。

 「では、計画をする前に何をすればいいのか?」と疑問に思う読者もいるでしょう。順番としては「見立て」「仮説」があり、最後に「計画」がきます。この3つ全ての段階で「相談」が力を発揮します。順番に説明していきましょう。

 まず「見立て」とは、未検証のアイデアや思い付きのことを指し、自分一人だけで考えている状態です。例えば、「◯◯をやってみたい」「こんな事業ができたらみんな喜ぶんじゃないか」というイメージです。

 私自身、焼鳥居酒屋経営を始める前には「飲食店なら何となくできそう。全国展開しているようなチェーン店は難しそうだが、地元密着型の居酒屋経営なら素人の自分でもできるんじゃないか」「新しく店を出すのではなく、居抜きでやればカネもコネもない自分でも始められるんじゃないか」という見立てを持っていました。

 あくまで自分の頭の中で考えているだけなので「本当にそうか?」を検証する必要があります。だからこそ、自分の思い込みに気付くための相談が必要なのです。「見立て」は相談によって「仮説」へと進化します。

 「仮説」は、事業を推進する上で考えるべき重要項目である「1.目的(何のためにやるのか)」「2.顧客(誰のためにやるのか)」「3.商品・サービス設計(どんな商品・サービスを作るのか)」「4.マーケティング(顧客との関係をどう構築するか)」「5.制約(実現する上でどんな制約があるのか)」といった5つの要素について検証し、一次情報を得ている状態を指します。

 つまり、見立ての段階から「こういうことをやってみたいけど、やったらこうだった」と言えるようにすることです。逆に、こうしたことが一つもいえないのが見立ての段階です。頭で妄想しているだけなので、リアリティーも説得力もなく、思い込みでしかないため精度が低くて形になりにくいのです。

 相談によってネクストアクションが見えて、見立てや仮説の検証を繰り返すことで、「やってみたら〇〇だった」という一次情報、すなわち事実をアイデアに乗せられるようになり、徐々に仮説の精度が上がっていきます。

 何かにチャレンジするときには、さまざまなアイデア(見立て)が浮かびます。それら一つひとつに対して、相談と検証を繰り返すことで見立てが仮説に進化し、検証を繰り返すことで精度が上がり、物事が前進するのです。

 それぞれ要素の仮説が磨かれると、事業の構想だったのものに具体性が生まれ、実現の可能性が見えてきます。これが「計画」の段階です。

 気を付けなければならないのが、「ただ5つの要素を個別に磨くだけではうまくいかない」点です。

 5つの要素が磨かれてくると「事業計画書」の必須要項は埋まります。一見すると検証済みのアイデアが盛り込まれているため、「完成度の高い計画が立てられた!」と思いがちです。しかし、私が言う「計画」の段階とは、5つの要素が一貫性をもって説明できる状態のことを指します。実はこれが簡単なようで難しいのです。事例を紹介します。

 私の知人が「おじいちゃん、おばあちゃんをきれいにして元気になってほしい」といった目的を掲げて美容室を開いたことがありました。見た目が変わって、元気なお年寄りが町に増えてほしいと私もその思いに共感して応援していました。

 ところがオープンして数カ月後、店内には「あれ?」と感じる光景が広がっていました。

●目的を忘れるとやりたいことは実現できない

 店をのぞくと、若いお客さんであふれていたのです。聞けば、思うようにお客さんが集まらず費用対効果の高そうな大手のサロン検索・予約サイトに広告を出していたことが分かりました。

 サロン検索・予約サイトは若年層が多く見る宣伝媒体です。そのためガラス貼りの店内から見えるお客さんは若者が増え、オープン当初に来店していたシニア層が入店しづらい美容室になってしまい、当初想定していた顧客層が離れてしまいました。

 マーケティング施策としてさまざまな手法を仮説、検証し、最も効率的な選択肢を選んだつもりでも、目的が置いてきぼりになれば当初やりたかったことは実現できません。マーケティング施策に限らず、5つの要素全てに当てはまります。それぞれで積み上げた仮説は正しく見えても、それらが一貫していないとやりたいことを実現する計画の段階にあるとはいえないのです。

 当事者は目の前のことに必死でなかなか気付かないものです。一生懸命になるのは悪いことではありません。そうなることを見越して対処できるよう複数の人に相談すると軌道修正ができるはずです。

 相談と検証を続けて一貫性が出てくると、机上の空論ではなく多面的に検証できているため、最後の実現可能性の高い計画が自然とできるのです。

 ここまで読んで、気付いている人もいると思いますが、「見立て」「仮説」「計画」の3段階は一直線に進むものではありません。見立てから仮説へ進む際に相談と検証が必要なのは先述の通りですが、仮説の精度を上げる、5つの要素をつなぎ合わせて一貫性のある計画へと昇華する過程においても、相談、検証は欠かせません。

 相談結果によっては、進んでいた道を引き返し、新たな見立てを用意したり別の仮説を見いだしたりする必要が生じることもあるでしょう。つまり、事業とはこの3段階を常に行ったり来たりして前に進んでいくと言えます。

●「見立て」「仮説」「計画」の全てで相談が力を発揮する

 ここまで述べた通り、事業を進める上で欠かせない「見立て」「仮説」「計画」の3つの段階全てにおいて、相談が力を発揮します。

 一人で考えて行動していては、見立てがいいのかも分からず仮説を磨く視野も狭まり、計画に一貫性があるのかも確認もできません。自分の考えが思い込みに縛られているかも分からないまま、行き詰まった状況を打破するネクストアクションも見出だせないため、いつまでたってもやりたいことの解像度も上がりません。

 だからこそ、3つの段階全てにおいて「相談」というスキルを最大限に活用することが、事業を前進させやりたいことを実現する上での肝になるのです。

●相談Q&A

Q:優秀な社員(管理職)に相談の必要性を伝えたがなかなか相談しない。どうすれば相談するようになるか?

A:普段から足で情報を集めている人に相談する機会を作ってあげることをおすすめします。恐らくこの方(優秀な社員)は、これまで誰かに相談したものの「良い意見が出てこない」「自分より深く考えていない」など、相談して良かったという体験をしていないのだと想像します。

 この方に限らず、優秀な人は頭の中で多くの仮説を立てられる、いわゆる“地頭の良い人”が多いのです。裏を返すと、妄想やWeb上での情報、過去の経験など、自分の頭の中だけの狭い範囲で考えている可能性が高く、相談する人も限定的になっていることが多い印象です。

 反対に、地頭は良くないかもしれませんが足で現場の情報を集めている人は、普段からさまざまな人に相談しており、相談できるコミュニティーが広い場合が多いです。その場で自分の知らないことを知る人に出会えれば、過去の「悪い相談体験」が「良い相談体験」に変わるはずです。一人でできることには限界があります。そういう人とチームになれると一気に視野が広がるはずです。

著者:トイトマ 代表取締役社長 山中哲男