2月26日〜29日にスペイン・バルセロナで「MWC Barcelona 2024」が開催された。ご存じの通り、世界最大級のモバイルの展示会だが、筆者は5年ぶりに取材に出向いた。取材対象はスマートフォンをはじめとするデバイス。しかし、MWCに合わせて新製品を発表するメーカーは少なく、会場ではAIやオープンRANなど、技術の展示が目立っていた。スマホの進化を一段落したということだろうか? 

●AIがスマホの在り方を変えつつある

 今回のMWCで多くの来場客から注目を集め、個人的にも引かれたのが、Qualcommブースに展示されていた「AI Pin」だ。米国のベンチャー・Humaneが開発したピン型のデバイスで、主にタップと音声で操作する。軽く小さな本体にカメラ、マイク、スピーカーを搭載。カメラは撮影ではなく、主に被写体を認識するセンサーとして機能する。ディスプレイはなく、レーザープロジェクターを搭載し、調べた情報などを手のひらに投影できる。その際、ハンドジェスチャーで表示を切り替えられる、ユニークなユーザーインタフェースも備えている。

 AI PinはeSIMを内蔵し、インターネットに常時接続する。デモンストレーションを見ていると、誰でも簡単に使いこなせて、なおかつ操作が楽しそうに感じられた。日本ではソフトバンクが取り扱うことが決まったようだが、スマホに代わる次世代のデバイスになり得る可能性を感じられた。

 AI Pinとスマホの差分として、個別のアプリを使わないことも挙げられる。AI Pinは対話式でタスクをこなしていく仕組みで、いちいちアプリを起動したり、切り替えたりする必要はない。使用感としては「Googleアシスタント」や「Siri」の進化形のようにも思えた。

 AIによるシームレスな操作性は、ドイツの大手キャリア、T-Mobileのブースでも体験できた。同社はAIスマホのコンセプトモデルを出展し、“NATURAL AI”と呼ぶ機能のデモンストレーションを行っていた。例えば、航空券を検索して、予約して、現地の情報を調べるといった作業が、自然な会話だけで完遂する仕組みで、ユーザーはそこにアプリの存在を意識することはない。説明員によると、ユーザーに最適化した情報を提案することもできるという。

 MWCに初出展したKDDIのブースには生成AIマスコット「Ubicot」のプロトタイプが展示されていた。さまざまな生成AIと連携できる仕組みだが、出展されていたのはGoogleが開発した生成AI「Gemini」と連携するモデルで、既存のスマートスピーカーとは異なり、自然な会話で知りたいことを調べられる。

 これまでは、何かを調べる際にスマホやPCが欠かせなかったが、生成AIの普及によって、必ずしも大きなディスプレイを必要としないケースが増えるようにも思えた。例えば、常にスマホを持ち歩かなくても、eSIMを搭載した小型デバイス(AI Pinのようなピン型デバイスやスマートウォッチなど)で事足りるようになるかもしれない。

●スマホのディスプレイはどうなる?

 2024年のMWCでは、ディスプレイの進化も注目を集めていた。フォルダブルスマホは多くのメーカーが出展し、もはや珍しい存在ではなくなった。そして、新しい提案として複数のメーカーが出展していたのがローラブル(巻ける)だ。

 モトローラ・モビリティは「アダプティブディスプレイ」を採用したコンセプトモデルを出展していた。6.9型の縦長のディスプレイは腕に巻くことができ、U字状に折り曲げて卓上に立てて使うことも可能。現在の縦開きのフォルダブルスマホよりもフレキシブルに使える趣向だ。なお、サムスンディスプレイも同様のコンセプトモデルを出展していた。

 中国の新興メーカー・TECNOは、スクリーンが伸びるスマホ「TECNO PHANTOM Ultimate」を出展。通常は6.55型のスクリーンが、ほんの1〜2秒で7.11型に拡張する。ディスプレイの一部が背面に回り込んでいて、ボタンを押したり、画面をスワイプしたりすると、その部分が表に出てくる仕掛けだ。商用化未定のコンセプトモデルだが、完成度は高く感じられた。説明員によると、さらに大きい画面にして、画面サイズの可変度合いを変えることもできるという。

 実は、同様のギミックを搭載するスマホは2020年11月にOPPOがコンセプトモデルを発表している。結局、商用化されていないので、ローラブルに市場ニーズがあるのか否かが気になるところだ。

●ミッドレンジに “掘り出し物” を発見! 音楽特化の「nubia Music」

 2024年のMWCに出展されたスマホで注目を集めていたのは、Xiaomiが発表した「Xiaomi 14」シリーズや、サムスンが1月に発表した「Galaxy 24」シリーズなど。今回は「こんなスマホもあるのか!」という変わり種は少なかったように思う。

 そんな中で、筆者が個人的に引かれたのは、ZTEが出展していた「nubia Music」だ。3月に日本市場への本格参入を発表した「nubia」ブランドの音楽特化モデルで、背面にDTX:X Ultra対応の大型スピーカーを搭載していることが特徴。一般的なスマホの内蔵スピーカーの約6倍の音量で出力できるという。

 実際に音楽を再生して、ボリュームを上げてみると、うるさいと感じるくらいに鳴り響いた。シングルスピーカーだが、厚みのある音質で、ボリュームを上げても音が割れたり、ゆがんだりしなかった。ホームパーティーで音楽を流したり、アウトドアにて大勢で音楽を聴いたりしたいときに適しているだろう。

 イヤフォンジャックを2つ搭載していることも特徴だ。カップルで一緒に音楽を聴いたり、映画の音声を聴いたりできるわけだ。ただし、ワイヤレスイヤフォンが普及する中では、時代のニーズに逆行する機能のようにも思えた。

 もう1つ筆者が引かれたのが、IIIF150という中国メーカーのタフネススマホ「B2 Ultra」。耐久性をセールスポイントとするスマホ「B2シリーズ」の1つで、6.8型のフルHDディスプレイを搭載し、2億画素カメラを搭載するなど、機能も充実。さらに1万5000mAhの大容量バッテリーを搭載。一般的なスマホの3倍以上の容量で、しかも65Wの急速充電にも対応している。

 取材時に価格を聞き忘れたのだが、あとで調べたところ、現在の価格は日本円で3万円台(2023年秋の発売時はもっと高かったようだが)だった。ハードウェアのスペックは高めだが、5Gには対応していないところが安さの理由のようだ。

 筆者が5年前までの取材に来ていたMWCでは、斬新な機能はハイエンド端末に搭載され、デザインもとがっていたように記憶している。2024年のMWCでは、ハイエンド端末はカメラやAIの機能を進化させるなどの正常進化を続けて、むしろ、ミッドレンジの機能やデザインの選択肢が広がっているように感じた。買いやすい価格帯で個性的なモデルが増えることは大いに歓迎したい。ぜひ、日本でも発売してほしいものだ。