世の中で最初に浸透したデジタルガジェットといえば電卓だろう。最近はスマートフォンアプリとして、バーチャルな存在として触れている人も多いと思うが、手のひらサイズのシンプルなマシンは、当たり前のように身近にあり、日々、数字の困りごとを解決してくれる。

 そんな電卓を作り続けているメーカーの1社がキヤノンだ。これまでに約400機種、累計で2億9000万台を出荷してきたという。2024年10月で発売から60年を迎えるにあたり、キヤノンマーケティングジャパンがメディア向けに説明会を開催。1964年に発売した初号機が見られるというので、品川の本社まで出向いてみた。

●初号機はシンプルにデカい

 同社が最初に発売した電卓は「キヤノーラ130」というモデル。普段目にする電卓は、手のひらサイズに収まるものだが、電卓の正式名称でもある「電子式卓上計算機」の字のごとく、卓上で使うものとして誕生した。重さは18kgだ。

 キヤノーラ130は、600個のトランジスタ、1600個のダイオードが使われており、コンセントに挿して使う。現代の電卓からすると間違いなく巨大だが、その昔にはより大きな真空管方式、リレー方式の時代があり、トランジスタを採用したおかげで「卓上に置けるようになった」という見方もできる。

 日本初の電卓は、キヤノーラ130より数カ月早く登場した、早川電機工業(現シャープ)の「CS-10A」で、桁ごとに数字キーが並ぶ「フルキー」を採用していた。一方で、キヤノーラ130はキーの数が少なくて済む「テンキー」式。現在主流の入力方式だが、これを採用した電卓はキヤノーラ130が世界初だったという。

 なお、1964年といえば最初の東京オリンピックが開催された年でもあるが、当時の価格は39万5000円だった(販売時の日本の平均所得は年額で約41万円)。

 展示されていたキヤノーラ130は残念ながら不動品のようで、稼働する様子を実際に見ることはできなかったが、その存在感には圧倒された。

●好調とは言えない電卓市場だが……

 最近の電卓市場は、下降傾向にある。2019年に454万台あった国内市場は、2023年には330万台に下落。少子化で教育現場での需要が減り続けているのに加え、さまざまなビジネスツールの登場、コロナ禍を経てリモート・ハイブリッドワークなど、出社機会が減少していることなどが主な要因と考えられるという。

 今後も市場が回復する見込みは薄いものの、専用機ならではの明快さであったり、税率計算などユーザーニーズにそった商品の需要は底堅いという。「代替となるデジタルツールが増える一方、アナログの良さが見直されているシーンも少なくない。市場のニーズに合わせた変革と、長年ご好評をいただいている点の維持を両立した、長く愛される製品を届けたい」(キヤノンマーケティングジャパン)としている。