「初期症状は咽頭痛や発熱、下痢、嘔吐、筋肉痛など、インフルエンザの症状とよく似ています。しかしその後、急速に菌が全身に広がり、肝臓や腎臓などの多臓器不全に陥り、意識障害、呼吸不全などを引き起こします。感染すると致死率3割とされており、発症から24〜48時間で死亡することもある非常に危険な疾患、それが『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』です」

このように警鐘を鳴らすのは、日本感染症学会専門医で、東京歯科大学市川総合病院呼吸器内科の寺嶋毅教授。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、四肢などの筋肉周辺の組織を壊死させることから、別名“人食いバクテリア”とも呼ばれている。そんな恐ろしい感染症が、いま急拡大している。

国立感染症研究所によると、2023年の劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者報告数は941人。これまで最も多かった2019年の894人を上回り、過去最多を更新した。加えて、2023年7〜12月中旬に報告された50歳未満の患者65人中21人が死亡したことも発表された。

「劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、レンサ球菌による感染症です。いま、子どもたちの間ではやっているA群溶血性レンサ球菌は、ほとんどが咽頭炎や皮膚の感染症にとどまります。

しかし、大人が感染した場合、まれに通常は細菌が存在しない組織(血液、筋肉、肝臓、腎臓など)にレンサ球菌が侵入し、急激に症状が悪化することがあります。命が助かっても、壊死した手足を切断するというケースも。とくに30代以上の感染者に多いです」(寺嶋教授、以下同)

■感染経路が不明。傷はしっかりと消毒を

ある研究機関の調査によると、感染経路は、傷口や皮膚からの“接触感染”が約35%。喉や鼻などの粘膜からの“飛沫感染”が約20%。残りの約半数は感染経路が不明だという。

「接触感染のケースでは、足からの感染が多いという報告があります。目に見えない、気が付かない傷から菌が侵入することも考えられますので、常に足を清潔に保つことも大事です」

寺嶋教授は、手足のすり傷、切り傷などの傷口はしっかり消毒した後、ばんそうこうや包帯などできちんと保護をする、そして手術後の傷口、皮膚のやけどなどからも感染しやすいので患部を保護することを推奨している。

「冬の時季は乾燥による肌荒れで傷ができやすくなります。保湿クリームなどで皮膚を保湿することも大切です」

コロナ禍(2020〜2022年)の3年間で患者数が減ったことからも、飛沫感染に関しては、マスクの着用、手洗い、うがい、指先の消毒が感染対策になるという。

「糖尿病や肝臓の病気などの基礎疾患を抱えている方、そして高齢の方は免疫力や抵抗力が落ちているので、とくに注意が必要です。しっかりと感染予防をしていただきたいです」

初期症状の段階で、傷口周辺が赤く腫れたり、紫色になっていたら感染を疑い、速やかに医療機関を受診しよう!