「すでに痩せているのに美容やダイエットの目的で糖尿病治療薬を利用することは非常に危険です」

とは、これまで延べ20万人以上の糖尿病患者を診てきたAGE牧田クリニックの牧田善二院長。

美容のために痩せたいと、オンライン診療で処方された糖尿病治療薬購入によるトラブルが相次いでいる。問題になっているのが「GLP-1受容体作動薬」だ。

「2型糖尿病の治療薬としては画期的な薬です。ヒトが食事をすると小腸からGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)というホルモンが出て、これがすい臓に作用することで血糖値を下げるホルモン『インスリン』の分泌を促します。このGLP-1を製剤化した薬を血糖値が高い糖尿病患者に投与すると、数値を下げるとともに、食欲を減退させる働きも。体重の減少も期待でき、肥満症の解消にもつながります」(牧田院長)

こうした作用があることからダイエット目的での使用が後を絶たないなか、国民生活センターによると、問診が不十分だったり、定期購入した薬が「毎月3万円」「3カ月8万円」など高額かつ中途解約ができなかったりするというトラブルが多発。

コロナ禍でオンライン診療の増加に伴い全国から寄せられた、痩身目的での糖尿病治療薬の相談件数は2022年度が205件と、前年度の4.2倍に。2023年度は過去最高を記録する見込みだという。

「相談は女性が76.5%と多く、平均年齢は43.3歳。平均購入額は約12万円です。糖尿病治療薬を痩身目的で使うのは不適正で、安全性と有効性は確認されていません」(国民生活センター情報部)

■副作用のリスクが女性は男性の2倍!

糖尿病ではない人が使うことが承認されていない薬を、気軽にダイエット目的で使用することには大きなリスクが伴う。

「保険診療で使う薬とはいえ、当然、副作用があります。重大な副作用としては低血糖、急性すい炎、吐き気、めまいなど。また重要な有害事象として腸閉塞が知られており、便秘、腹部膨満感、腹痛など腸閉塞が疑われる場合はすみやかに投与を中止する必要が。

糖尿病患者に対しては、リスクと利益を勘案したうえで、医師による経過観察のもとで服用が行われます。しかし、オンライン診療の場合は、十分にそれが行われていない可能性が高い」(牧田院長、以下同)

昨年10月には、ダイエット目的で健康な人が糖尿病治療薬を使用した場合、すい炎のリスクが9倍になることをカナダのブリティッシュ・コロンビア大学の研究チームが報告している。

「女性は小腸で薬を吸収する速度が男性よりも遅く、男性よりも2倍も薬による副作用のリスクが高いことが報告されています。安易なダイエット目的で使用することで、生命に関わる重篤な健康リスクを招くこともあるのです」

薬で副作用が出た場合、入院治療費などの給付を受けられる「医薬品副作用被害救済制度」があるが、安易なダイエット目的で糖尿病治療薬を使っても「適正な使用」とは認められず、救済の対象外になる可能性は高い。

そんなリスクを冒してまでも、楽に痩せたい?