近年、使われなくなった空き家をリノベーションし、新たな地域資源に変える活動が各地で盛んになっています。兵庫県たつの市は、古民家再生事業が活発な地域のひとつです。“播磨の小京都”と呼ばれる城下町の街並みはまるで映画などに出てくるような風情が漂い、若い女性を中心に注目されています。

 そんなたつの市で、江戸時代末期に建てられた歴史ある醤油蔵をリノベーションしたのが、カフェ「菊屋蔵(きくやぐら)」(たつの市龍野町)です。夏はかき氷専門店、その他の季節は創作和菓子の甘味処として営業しています。

 建物は、約240年前にこの場所で醤油づくりが始まったとされるほどの貴重なものですが、27年間使われることがないまま長年の経過で老朽化が進み、一時は半壊にまで追い込まれました。それを、入り組んだ立派な梁や柱をそのままにリノベーション。当時の面影が極力再現されているといいます。

 再生を進め、“蔵カフェ”として生まれ変わらせたのは、菊屋蔵オーナーで古民家再生事業を手がける有限会社井上晴登建設(以下、井上晴登建設)です。同社代表取締役の井上雅仁さんによると、同社と醤油蔵の出会いは、さかのぼること7年半前。地元NPO団体が、醤油蔵の整理や清掃を引き受けたのがきっかけでした。

 当時、醤油蔵はかなり朽ちており、雨漏りがひどかったのだそう。まずは雨漏りを防ごうと、醤油蔵内にあった物をきれいな状態にして販売し、ブルーシートを購入。穴をふさいで修繕を進めました。

 ところがそれでは間に合わず、蔵は倒壊し始めることに……。

 そこで同社が取った手段が “ワークショップ形式”でした。「古民家の魅力や、古民家再生の取り組みを身近に感じ、知ってほしい」との思いを抱いていた同社。SNSなどを活用して人を募り、毎週土曜日に欠かさず開催しました。学生も含め、多いときには20人ほど参加することもあったのだとか。

 そうして地道に基礎からリノベーションを進め、2年半の歳月をかけて蔵を復活させました。

 菊屋蔵として新たなスタートを切ることになった地域の財産。完成当初は休憩所として使われていた菊屋蔵は、リノベから2年後にカフェとしてオープンしました。温かみあふれる店として、今では地元の人たちに愛される存在となっています。

(取材・文=西真莉恵)

※ラジオ関西『谷五郎の笑って暮らそう』2024年4月28日放送回より