昭和には「飲酒」や「酔っぱらい」を賛美する楽曲が多数発表されました。近年あまり歓迎されない酔っぱらいですが、昭和の大人たちは酔っていて当然、むしろそれを賛美する傾向まであったのです。そこで今回は、昭和歌謡を通してわかる人々と飲酒文化の関わりについて、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が、考察を交えてラジオ番組で語り合いました。

※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2024年4月5日放送回より

【中将タカノリ(以下「中将」)】 ずっと夜の番組だったのが、4月からお昼どきに移動になって緊張しております。毎度、知的な教養番組としてお送りしている『昭和卍パラダイス』ですが、今回はお昼になった第一発目の放送を記念して昭和の飲酒文化について考えていきたいと思います。

【橋本菜津美(以下「橋本」)】 我々、けっこうお昼から飲むことが多いですしね。中将さんなんて朝からでも……(笑)。

【中将】 かの戦国時代の名将・北条氏康は「酒は朝飲め」なんて名言を残してますしね。ともあれ昭和は現代に比べると数多くの飲酒ソングが存在しました。お酒を飲むことが大人っぽくてカッコいいという価値観だったんですね。

【橋本】 最近は若者を中心にお酒を飲まない人が増えて、少しお酒に関するイメージが変わってきていますよね。

【中将】 そうなんです。今回は昭和の人が飲酒することにどんなイメージをもっていたか、当時の楽曲を通して考察していきたいと思います。まず1曲目にお届けするのは萩原健一さんで『ぐでんぐでん』(1980)。“ショーケン”のエキセントリックなイメージそのまま。「俺とお前はぐでんぐでん」と叫ぶ、逃げも隠れもしない泥酔ソングです。

【橋本】 「ぐでんぐでん」って、言葉の響きがイイですね! 萩原さんの声自体がすでに酔っぱらってる(笑)。

 最近、若い人たちとお話した時に「酒飲んだやつはめんどくさい」という話題が出たんです。私にとってはお酒が入ってみんなテンション高くなってる空間が面白いなと思うのですが、飲まない人にとってはそれが逆にウザいんでしょうか。

【中将】 イギリスから日本に来て学校教員になった人の話なんだけど、はじめ赴任先で新人紹介をしてもらったとき、あまりに反応が薄くてびっくりしたんだって。でもその夜の歓迎会になるとみんな日本酒やビールをお酌しに来て、一気に打ちとけたと。

 日本人って、もともとテンション低めな民族ですからね。だからこそ殻を打ち破ってコミュニケーションを深めるため、何かにつけ飲み会をする独特の飲酒文化が生まれたと思うんだけど、最近は個人の意思を尊重する風潮だからそもそも飲み会に参加しない。

【橋本】 自由だけど少し寂しい時代になってきているのかもしれませんね……。そう言えば中将さんってけっこう量を飲んでもぜんぜん変わらないですよね?

【中将】 自分の中では楽しく飲んでるつもりなんだけどね。逆に酔って暴言はいたり、奇行に走って記憶失くしてる人とか見るとうらやましいよね。酒であそこまで行けたら人生勝ちだなと(笑)。

 さて、お次もテンション高めな泥酔ソングです。沢田研二さんで『あなたに今夜はワインをふりかけ』(1978)。大ヒット曲『サムライ』のB面ですが、沢田さん自身が出演したキッコーマン・マンズワインのCMソングに起用され、A面に劣らない人気を博しました。「あなたに今夜はワインをふりかけ」という、よく考えるととんでもない歌詞ですが、それでもロマンティックなラブソングに仕上げてしまうあたり、さすがジュリーです。

【橋本】 こんな歌詞を堂々と華やかに歌って、なんとなく納得させてしまうのは沢田さんだからこそですね。私もちょっとされてみたい(笑)。

【中将】 (笑)。何言ってんだかよくわからない歌だけど、「ワイン」とか「酔わせたい」ってフレーズがカッコいいんですよね。

 さて、お次は日本人にとって典型的なお酒のイメージの曲だと思います。美空ひばりさんで『悲しい酒』(1966)。「ひとり酒場で飲む酒は 別れ涙の味がする」……今では演歌・歌謡曲の古典のような曲ですが、失恋してお店で一人お酒を飲むというのは当時では進んだ女性像だったかもしれません。

【橋本】 なるほど! 一人でもどんどん飲みに行っちゃうタイプなので、自然に聴いてしまっていました(笑)。最近、お酒を飲む若者が少ないという話をしましたが、逆にスナックは流行ってるみたいですよね。一人で飲みに行っても人と話ができて、飲んでカラオケもできちゃうのは、お酒好きにとってはありがたい空間です。

【中将】 20年ほど前、僕が20歳前後の頃はダサいオヤジ文化の象徴みたいに言われてたんだけど、時代って変わりますよね。

 さて、最後にお届けするのはとんねるずで『一気!』(1984)。とんねるずの本格デビューシングルで、その後長くコラボする秋元康さんを初めて起用した曲です。まったく売れないだろうという本人たちの予想に反し、オリコンウィークリーチャート最高19位という予想外の売上を記録。サラリーマン文化というか体育会系というか、当時の飲酒にアグレッシブな世相をよく反映しています。

【橋本】 「イッキ」は今では厳禁ですからね……つくづくすごい曲! でも冒頭でお話しいただいたように、お酒によって自己解放したり打ちとける部分って確かにあるので、日本の飲酒文化が時代に合った形で残ってくれるよう願いたいですね。

【中将】 そうですね。個々のペースで、楽しくお酒をたしなめる日本であってほしいですね。