2026年からF1のパワーユニットに関するレギュレーションが変更され、これを期にレッドブルは自社グループ内のレッドブル・パワートレインズ(RBPT)でオリジナルのF1パワーユニットを開発・製造することになっている。

 このRBPTのプロジェクトをサポートするのがフォードで、電動関連のコンポーネントなどを中心に、開発に関与すると発表されている。

 そのフォード・モータースポーツ・パフォーマンスのグローバルディレクターを務めるマーク・ラッシュブルックは、RBPTのPUに関する全ての目標は2026年に達成できると考えているものの、ライバルメーカーにが多くの経験があり、その目標値が妥当なモノであるかどうかは分からないと語った。また、フォードは当初の予定よりも広範囲にわたってRBPTの開発に貢献しているという。

■フォードが独自に設定した目標は達成

 F1は2026年に大変革を迎える。2014年から使われ続けてきた現行のPUレギュレーションが、MGU-Hが廃されるなど変更され、エンジンの出力と電気モーターの出力が50:50になる予定だ。またこれに伴い、シャシーのレギュレーションにも大きな変更が加えられる予定だ。

 シャシーのレギュレーションはまだ最終的に決着しておらず、開発が許可されるのも2025年1月からとなっている。しかし一方で、PUに関しては各メーカーの開発が既に本格化。RBPTもエンジンとERS(エネルギー回生システム)の開発を進めている。

 ただRBPTは、ホンダやメルセデス、フェラーリ、ルノーといった、既存のPUメーカーと対峙しなければいけない。また、アウディやキャデラックといった大手自動車メーカーも、F1参入を目指してPUを開発している。しかも、様々な実績を持つ人材を雇用しているとはいえ、RBPTは自動車メーカーではなく、エンジンもERSの開発も、いずれもゼロから行なわなければいけないわけだ。

 そのため、このRBPTのPU開発プロジェクトについては、うまくいっていないのではないかという指摘もなされており、それが人材の流出に繋がりつつあるのではないかとも言われている。マックス・フェルスタッペンが移籍を検討する一因となっているのではという示唆もある。

 フォードのラッシュブルック氏は、RBPTでの開発は計画通りに進んでいると強調するが、ライバルとなるメーカーの進捗が分からないため、自分たちの立ち位置も不明だと語った。

「他のプログラムと同様に、特定の目標とマイルストーンを設定する。現時点では我々は全ての目標を達成し、望ましいマイルストーンを達成できている」

 ラッシュブルックはそう語った。

「F1では、我々が活動している他のモータースポーツよりも、開発が非常に速く進んでいる。エンジン開発を始めてから、新しいレギュレーションの期間が終わる2030年まで、本当に全力だ」

 RBPTとフォードのプロジェクトが遅れているという指摘について、ラッシュブルックは次のように語る。

「私が言えるのは、我々の経験と2026年に成功するためには必要だと考えたことに基づき、PUに関する独自の目標を設定したということだけだ。だから我々の競争力がどのようなポジションにあるのか、ライバルの成長曲線がどのようなモノであるかは全く分からない。他メーカーと直接比較することができないが、成功するために必要なことを考えれば、我々は良い状態にあると思う」

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、RBPTのプロジェクトは、70年もの経験を持つブランドに、新人が挑むようなものであり、それが大きな課題になっていると語っている。ラッシュブルックはこれについて、「F1では常に大きなチャレンジである」と語った。

「フェラーリのようなブランドが、知識を持ち、人材もいて、既に機能しているシステムや経験を持っているというのは間違いなく真実だ。その点では、彼らがアドバンテージを持っている」

「しかし我々のチームは、2026年に使うエンジンにだけ取り組んでいるので、その点では我々にアドバンテージがあると思っている。今のPUに取り組む必要はないのだからね。我々はこのプロジェクトにだけ、集中しているんだ」

■RBPTとフォードにとって、最大の課題はERS?

 なおホンダのF1プロジェクトのラージ・プロジェクトリーダーを務める角田哲史エグゼクティブチーフエンジニアは今年2月の時点で、2026年用PUの開発は現状では2割程度のステージにあるとその進捗を明かし、「電動系はパーツを作るのにも時間がかかるので、まずはその電動系に力を入れています。ICE(エンジン)をやらなくてはいけないという訳ではないので、その部分でも必要なところに手を打っています」と語っている。一方でRBPTは、既にV6のエンジンをテストベンチで稼働させたが、それに組み合わせるERSがどう機能するかという部分には疑問の残る。この領域は、レッドブルにとってもフォードにとっても、未知の部分だからだ。

 電動部分が最大の課題かと尋ねると、ラッシュブルックは次のように語った。

「全てが大きな課題だ」

「我々はゼロからスタートした。この内燃エンジンは、我々にとってもF1にとっても新しい開発であるが、十分なパワーと信頼性を確保する必要がある。全てが挑戦なんだ」

 当初は電動部分を中心にRBPTのプロジェクトに関わるとされていたフォードだが、結局はエンジンにも、当初の予定よりも多く関与しているとラッシュブルックは明かした。

「内燃エンジンやターボは、我々が貢献するモノの最初のリストには入っていなかったんだ。しかしモデルを作ったり、テストを行なうことに関しては、その開発を助けることができる知識が我々にはある」

「ただし、我々の主な焦点は、常に電動コンポーネントである。ミルトンキーンズにいる我々のチームが、直接技術サポートを行なっている」

「具体的な人数については明確にできないが、多くの分野で貢献しているんだ」