2023年2月15日に三菱はピップアップトラック「トライトン」の日本再発売を開始しました。同市場ではトヨタ「ハイラックス」が先に再販売されていますが、どのような違いがあるのでしょうか。またトライトンは次期「パジェロ」のベース(シャシ共用)とも言われています

三菱とトヨタのピックアップトラック、違いは? そして「トライトン」ベースの「パジェロ復活」はどうなる?

 一部メディアで三菱の「パジェロ」が復活を果たすと報じられました。ベース(シャシ共用)と噂されるのが2023年2月15日に発売された新型ピップアップトラック「トライトン」だと言います。
 
 その新型トライトンとはどのようなモデルで、同市場の先駆車となるトヨタ「ハイラックス」とはどのような違いがあるのでしょうか。

「アウトランダーPHEV」や「デリカミニ」で販売台数を伸ばしている三菱がピップアップトラックのトライトンを日本で再発売しました。

 トライトンは三菱「フォルテ」「ストラーダ」のDNAを継承する、タイ生産のピックアップトラックです。

 2006年に初代モデルが日本でも発売されますが、当時は一般ユーザーのピックアップ需要が少なかったこともあって市場で苦戦。2011年には日本撤退を余儀なくされます。

 しかし、2017年にトヨタ「ハイラックス」の8代目モデル(タイ生産)が日本に導入されると状況も変わります。

 トライトンの撤退で、久しくピックアップトラックが国内市場になかったこともありますが、ライフスタイルやクルマへのニーズの多様化により人気が上昇。

 地方の既存ユーザーを中心に台数が伸び、そこに新規ユーザーが加わります。結果、2022年、2023年とも年間販売台数1万台を越える好調ぶりとなったのです。

 この状況を見た三菱が、満を持して日本再販売したのが3代目となる今回のトライトンです。

 すでに多くのメディアや関係者が、ニューモデルを絶賛していますが、たしかにその乗り味は“トラック”の領域を越えているものです。そこには、令和という新しい時代に見合った価値観がふんだんに盛り込まれていました。

 トライトンの話をする前に、まずこの市場の成功車であるハイラックスについて触れる必要があります。

 ハイラックスは、トヨタの4WD車の中では「ランドクルーザー」に次ぐ名跡であり、かつてはピックアップトラックからSUVに派生させた「ハイラックスサーフ」という大ヒットモデルも存在していました。

 ハイラックスは、2004年に国内市場での低迷で販売を打ち切り、海外専用車に転向。7代目からは新興国やオーストラリア向けとなっていましたが、現行型から日本再販売が開始され話題を呼びます。

 このモデルから搭載された2.4リッターディーゼルターボエンジンがクリーンエンジンだったことも注目されました。1ナンバーであったことから、国内需要が心配されましたがヒットし、現在に至っています。

 日本導入当初は、ヘビーデューティタイプ(ハード)のリアリーフスプリングが装着されていたハイラックスですが、空荷状態での後輪の接地感不足、乗り心地の悪さから途中でコンフォートタイプに変更。

 また評価が微妙だったフロントマスクについても、北米向けトラック「タコマ」に似せた台形グリルに変更しました。

 足回りの変更により、初期型よりも後席の乗り心地が改善されたものの、2010年代前半の設計ということもあって、どこか前時代的なフィーリングは否めない部分があります。

 また、駆動方式はオーセンティックなパートタイム4WDを採用していることから、乾燥路面では4WDにシフトすることができないということがありました。

 一般のユーザーにしてみればさほど大したことではないと思いがちですが、荷台に荷物を多く積んだり、トレーラーを牽引をする機会が多いピックアップトラックは、強風にあおられると走行安定性が著しく低下します。ですが、4WDにすることでそれを抑制することができるわけです。

 また、ピックアップトラックのリアサスペンションも乗り心地や操縦性には不利な形式を採用していると言われています。

 トラックのリアサスはリーフリジッド式で、いわゆる「板バネ」を使います。板バネを使うメリットはいくつかあります。

 まず板バネがリンク類の代わりをするので足回りの構造がシンプルになり、荷台の容積を大きく取れます。

 加えて、何枚も重ねられた板バネがアームの代わりとなって、アクスル(ホーシング)と共に上からの荷重を支え、下からの強い衝撃を緩和する役割も担います。また、構造が簡単であることから、整備性がいいのも利点です。

 一方で、板バネを重ねるために柔軟性に乏しく、荷重がない状態(空荷)だと乗り心地が硬く感じてしまいます。また板バネのみで車軸の位置決めをしているため、路面追従性が低いというのも弱点です。

 ハイラックスも改良後はハンドリングや乗り心地が良くなりましたが、到底SUVにかなうものではなく、やはり“ピックアップトラックならでは乗り味を楽しむ”という部分があったわけです。

「従来のピックアップらしさ」を持たない新型トライトンとは

 こうした“弱点”を細かくつぶしてきたのが、新型トライトンです。

 まず一見すると分かりますが、そのデザインはピックアップトラック王国アメリカの現在のトレンドを完全に取り入れています。

 トヨタ「タコマ」「タンドラ」やフォード「Fシリーズ」を見ると分かりますが、イマどきのマスクは厚みがあってスクエアな“タフ顔”が主流です。その点、ハイラックスは仕様変更や特別仕様車で近づけようという努力が見られますが、やはりどこか昔のカオです。

 駆動システムも、トライトンはフルタイム4WDモードを持った「スーパーセレクト4WD II」を採用。このシステムは「パジェロ」譲りのもので、これに「アウトランダーPHEV」で高評価を得ているドライブモード(テレインセレクト)を装備しています。

 乾燥路面でも走行安定性を向上させる4WDが使えるだけだけでなく、高速仕様のタイヤを履いていても、信じられないほど簡単にオフロードステージを走り回ることができます。

 もちろん、ハイラックスにもトラクションコントロールが付いていますが、ステージごとに制御プログラムを変えているトライトンには敵いません。

 しかし、優れたパワートレーンがあっても、駆動力を伝える足回りが旧態依然としては意味がありません。

 トライトンは16年ぶりとなるラダーフレームの一新を実施。特にフロントサスの直後の接合部分の断面積を塾考し、ボディ剛性全体で1.5倍に向上させています。

 これだけでもサスペンションの動きが大幅に改善されていることが窺えますが、もちろんサスペンション自体も改良。

 フロントのダブルウイッシュボーン式はアッパーアームの位置を従来よりも上げることでストローク量を増大し、路面追従性を改善。

 ダンパーも大径化することで、より理想的な前脚の動きを実現しています。ポイントとなるリアのリーフスプリングは5枚重ねから3枚に変更することで柔軟な動きを実現。

 さらに、取り付け部分のブッシュ形状、一番下の板バネの横剛性を30%上げることでジオメトリーの変化を抑制し、コイル式サスペンションに劣らぬ路面追従性と乗り心地の良さを目指しています。

 このように、運動性能や乗り心地の基本となる部分を徹底的に煮詰め直した上に、かつての「ランサーエボリューション」で一世を風靡した「AYC(アクティブヨーコントロール」を前輪ブレーキに採用。

 トライトンはピックアップトラックでありながら、三菱がこれまで培った技術、そして新技術の集大成になっているのです。

実際「トライトン」に乗ってみると? 気になる「パジェロ」の復活は?

 実際に乗ってみると、もはやそのドライブフィールは高級SUVなみ。

 例えば、トヨタ「ランドクルーザープラド150系」と比較してもまったく劣っていません。

 オフロードの走破性は互角としても、オンロードでトライトンが優れていると思うのは、設計の新しさということでしょうか。

 開発陣に聞いたところ、タイなどより実用的な使い方をする新興国では、2WDやシンプルパートタイム4WDも用意されているようですが、基本設計はほぼ同じとのこと。

 これに5t近くの荷物積んで走っているケースもあるということですから、まさに質実剛健なピックアップトラックです。

 とは言え、どこか実用車的な香りが残っているハイラックスと比べると、トライトンは北米でいうところの「SUT(スポーツユーティリティトラック)」そのもの。

 内装も豪華ですし、積極的に後部シートに人を乗せても気兼ねすることはないと思います。

 トライトンは日本人のピックアップトラックの概念をガラリと変えてしまうのではないでしょうか。

 3月10日現在の状況では、受注はすでに1700台以上(月販200台)で、すでに半年待ち。

 グレードでは上級グレード「GSR」が、約90%を占めています。ハイラックス一択だったピックアップトラック市場、これからますますおもしろくなりそうです。

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 そして、この新型車の凄さを噛みしめると、どうしても脳裏に出てくるのが三菱の代名詞とも言える「パジェロ」です。

 海外では「パジェロスポーツ」で販売されていますが、パジェロは2026年から27年にかけて、日本で復活する見通しであることが一部メディアで報じられました。

 基本的なシャシやパワートレーンはトライトンと共用となり、日本では2019年に販売を終了していたパジェロが復活するとすれば、市場では大きなムーブメントになるのではないでしょうか。