2012年に京都府亀岡市で集団登校中の児童らに無免許の少年の運転する車が突っ込み10人が死傷した事故は23日、発生から12年を迎える。「忘れたい。でも忘れられない日」。妊婦だった長女松村幸姫(ゆきひ)さん=当時(26)=を失った中江美則さん(60)は、例年に増して交通事故の理不尽さをかみしめる出来事に直面している。また、次女小谷真緒さん=当時(7)=を亡くした真樹さん(41)は、他の事故遺族との連携を深め、惨劇の記憶を伝えたいとの願いを強めている。それぞれの道を歩む遺族は、今年もまた、この日に集う。

 中江さんにとって4月は寒々とした感覚だけが募る季節だ。例年法要を営んでくれる僧侶、命日が近づくと電話をくれる警察官。亡き娘がもたらしてくれた縁に感謝の念を抱きつつ「やっぱりこの日は耐えきれへん」と吐露する。

 ただ今年はいつもより増して、心労が重なる。別の交通事故の後遺症を抱えてきた中江さんの姉(61)が、危篤状態で入院しているからだ。

 中江さんの姉は、約40年前に無免許運転の車に同乗して事故に巻き込まれ、約40日間、意識不明となった。退院後も、後遺症から歳月とともに記憶力は低下、歩くこともままならなくなった。中江さんの近くで、1人で暮らしていたが、数カ月前に肺炎で体調を崩して入院。意思疎通が難しい状態が続く。

 「姉の人生は何やったんや」。姉の余命は長くないと医師から伝えられている中江さんはつぶやく。亡き娘も生前、伯母の境遇は心配していた。姉の人生を狂わせ、娘の命を奪った交通事故。「俺らは、こういう悲惨な出来事を防ぐために声を上げるんや」。中江さんは署名活動を通じ、無免許運転の厳罰化などを実現し力強く活動を展開してきた。ただ、法要ではいつも「やっとの思いで立っている」といい、感情を抑えきれなくなることも多い。それでも身内を相次いで襲った惨劇の不条理を伝えるため、今年も法要に臨む。

 

 一方、小学2年だった小谷真緒さんの父真樹さんは、事故から積み重ねてきた経験を踏まえ、新たな活動も模索する。

 小谷さんは、中江さんらとともに、交通事故や犯罪で亡くなった人の等身大パネルの並ぶ「生命(いのち)のメッセージ展」に積極的に参加してきた。講演する時は「メッセンジャー」と言われる真緒さんの等身大パネルと会場に入る。「真緒の姉妹が成長して新しい生活を始めているのと同じように、真緒もメッセンジャーとして居場所を作っている」と考えている。

 小谷さんは今後、亡き娘との時間を大切にするため、同メッセージ展を主催するNPO法人「いのちのミュージアム」の活動により積極的に参加する計画を温める。裁判への向き合い方など、事故を通して経験したことを少しでも役立てるため、ほかの事故や事件の遺族の相談にも乗りたいという。

 23日午後には、京都市内のシンポジウムで遺族の思いを語る。もちろん、真緒さんのメッセンジャーも一緒だ。「真緒の命と引き換えに学んだことに耳を傾けてほしい」。小谷さんは、そんな願いを込めている。