選挙活動の自由と公正さをどう両立させるか。候補者が他候補を大声で追い回すなどの「選挙妨害」を巡り、波紋が広がっている。

 先月の衆院東京15区補欠選挙で、諸派の新人候補と所属する政治団体が、他陣営の街頭演説中に大音量で叫んだり、車のクラクションを鳴らし続けたりして、演説がほとんど聞こえない状況にした。

 警視庁は、公選法上の選挙の自由妨害が疑われるとして警告を出したが、団体側は選挙運動の一環と主張。同様の行為を続け、その映像を投稿サイトで配信した。

 映像を見ると、他候補の妨害が主目的なのは明らかで、目に余る乱暴さだ。有権者から投票判断の材料を得る機会を奪うことにもなり、決して許されない。

 公選法は、候補者らの集会や演説を妨害した場合、4年以下の懲役か禁錮、または100万円以下の罰金を科すと規定する。

 ただ、選挙中に候補者らの行為を強制的に封じれば、「公権力による介入」との批判を招く恐れを考慮し、警察は慎重な対応を取ったとみられる。

 選挙妨害を受けたとする政党幹部からは対策の強化を求める声が相次ぐ。日本維新の会は、具体的な妨害行為の明記や罰則強化を含む同法改正案の概要を発表した。

 選挙での街頭演説は、候補者などが肉声で政策を伝え、有権者も話しぶりや熱意が知れる貴重な機会だ。繁華街などで複数の陣営が出くわしたとしても、大きな混乱は避けられてきた。互いに言論を尊重することが民主主義を守るという共通理解があるからだろう。

 だが、近年は交流サイト(SNS)の普及を背景に、わざとマナー違反を犯して注目を集めたり、ネットで収益化を図ったりする動きが指摘されている。公選法が想定しない状況で、対策を議論する時期にきている。

 ただ、規制強化が招く負の側面には十分注意したい。

 街頭演説は聴衆が意見を表せる場でもあり、やじを含め言論の自由は守るべきだ。

 2019年に札幌市で安倍晋三首相(当時)が街頭演説した際、やじを飛ばした人とプラカードを掲げた人が道警に現場から排除された。対応の是非を巡る訴訟が争われている。

 恣意(しい)的な運用や過度な規制は表現の自由を萎縮させかねない。

 政党からも、法改正が自由な選挙活動を制約する「もろ刃の剣」になる危惧が聞かれる。国会で専門家の意見も聞き、党利党略を超えて対応策を探ってほしい。