「鼻水をすする」行為に不快感を示す人は多い

 風邪や花粉症などのアレルギーで、無意識にながれてくる鼻水。ティッシュを持ってない場合、ついついすすってしまったり、癖になっている人も多いのではないでしょうか。実は、海外では不快を与えるNGマナーとされており、国内でもまた、人の鼻水をすする音は不快だ、と考える人も多いようです。子どものうちから「すする癖」はできるだけ直してあげたいですね。子どもの心を傷つけないように、どのような声がけをすれば良いのでしょうか。看護師と公認心理師の資格を持つ心理カウンセラーの伊藤優子さんにお話を伺いました。

鼻水はどこからくるの?

 まず始めに鼻の役割からお話しします。鼻から吸い込まれた空気は鼻腔内を通り肺へと送られていきます。空気は体内よりも低温であるため、鼻腔内では温度と湿度を適度に与えたり、細かいほこりなどの異物を除去してくれています。そのことから鼻腔内は適度な
湿度を保つために鼻粘膜から粘液が分泌されています。

 体が弱っていたりと免疫が低下している時に、鼻粘膜に細菌やウイルスが付着したり、また個々のアレルギー物質が鼻粘膜に付着すると、体を守るためにそれらの異物を排出しようと働いてくれます。それがくしゃみ、鼻水、鼻詰まりという症状になって表れてきます。
そのことは防御反応ともいわれており、鼻水は付着しているものを体の外へ排出しているものであるといえます。
それ以外の理由としては交感神経や副交感神経のバランスが何らかの原因にて崩れてしまうことにより、鼻水が沢山分泌されてしまうこともあります。

鼻水をすするとどんな影響がある?

鼻水をすするとどんな影響がある?

 鼻の粘膜からは常に粘液は分泌されていることから、喉から食道や胃に自然に入っていっている部分もあります。風邪をひいている状態の時の鼻水や、ひいていないときの鼻水でも、それぞれの状態で鼻水をなめる行為をしたとしても、とくに大きなリスクはないといわれています。

 しかし鼻は左右の耳管と繋がっているため、鼻を強くすすってしまうと耳管を介して中耳腔が陰圧となり、耳に影響がでてしまいます。代表的な疾患は中耳炎です。滲出性中耳炎、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎等鼻をすすると絶対に中耳炎になるというわけではありませんが、起こる可能性は否定できないため、鼻をすする癖がある人は注意して症状の有無や程度をみていく必要があると思います。

鼻水をすする癖はどう直したら良い?

鼻水をすする癖はどう直したらいい?

 子どもの場合、鼻をすする行為をしている、それがやめられない、ティッシュペーパーで鼻をかんでくれない、などがあると親としては心配もあり注意したくなりますよね。

 対処法として、まずはどうして鼻水をすするのか理由をきいてみてください。子どもの理由として、例を挙げると、気に入ったティッシュペーパーじゃない、鼻をかんだ時に耳が痛くなった、うまくかめず手についた、鼻をかんだ時の音を友達にからかわれた等、様々な理由があると思います。その理由をちゃんと聞いて、一緒に考えることも大切です。

 また、理由がティッシュペーパーを持っていくのが面倒くさいという場合、ティッシュペーパーを持っていって鼻をかまなくても、すすったり、なめたりして、その場をやり過ごすことができたという成功体験になっている可能性もあります。人間は失敗した経験から学ぶことも、成功した経験から学ぶことも両方大切なことですが、この場合ですと、まずは成功したと子どもが思っているのならば、まずはその想いを受容し「ちゃんと対処できたんだね」と認めてあげてください。

 それから、鼻水をティッシュペーパーでかんだり、拭くことの必要性を教えてください。その時に、気を付けていただきたいことがあります。

 鼻水をすすったりなめることは汚い、人から汚いと思われる、親の躾がなってないといわれる、などの言葉は世間体を気にしている発言です。子どもは親が自分のことをちゃんと見てくれていないと敏感に感じとってしまいます。世間体ではなく、子どものことを思う親自身の正直な気持ちを子どもにきちんと伝えてみてください。その思いは幼い子どもであっても伝わると思います。

 それでも行為がすぐに改善されない場合もあるかもしれません。しかし、伝え続けることも大切なのです。子どもは親の愛情を試す行動をとる場合もあるからです。また、成長するにつれて親の気持ちに気づくこともありますので、改善されなかったとしても思いを伝える、伝え続けることは無駄ではないと思います。

 他に考えられる原因があります。自分の声がひびいたり、耳が詰まった感じがする症状がある耳管開放症を患っている人は、鼻をすすることで耳管が陰圧になると、不快な症状が一時的に改善されやすくなるため、無意識に癖になってしまっている場合もあります。鼻をすする癖がなかなか治らない場合は、鼻や耳、その他に何か問題がある場合もあるため、一度専門医に受診していただくことも必要だと思います。

正しい鼻のかみ方、NGな鼻のかみ方

 最後に、正しい鼻のかみ方も紹介します。口から息を吸って、鼻をかむ反対側の鼻をおさえて、片方ずつゆっくり少しずつかみましょう。最後までかみきったら、反対側の鼻も同様にかんでみましょう。

 また、やってはいけない鼻のかみ方も紹介します。「激しく鼻をかむ」ことです。鼻の中が傷ついてしまい鼻血がでてきたり、耳の圧力が高まり鼓膜が痛くなったりと影響がでてしまうおそれがあります。「両方の鼻を一緒にかむ」のもやめましょう。鼻腔内の圧力が高くなってしまい、耳管を通じて鼻水を中耳へと送り込んでしまうと中耳炎になるおそれや、鼻の奥へと送り込んでしまうと副鼻腔炎のおそれがあります。

 小さい子どもはうまくできない場合が多いと思いますので、保護者がゆっくり丁寧に教えてあげるといいでしょう。

(伊藤優子(いとう・ゆうこ))