税理士である『クリエイター、アーティスト、フリーランスが読んでおきたい会計の授業 ギャラをいくらにする?』(堀内雅生 著、秀和システム)の著者は、2020年から日本大学芸術学部で「会計財務の基礎知識」という講座を開講しているのだそうです。

将来アートに関わるお仕事に就く可能性の高い日芸の学生に、「生きる知恵として会計の知識を理解してもらい、卒業後に自立して活動するために必要な力をつけていただきたい」という思いで開講しているのだとか。

つまり本書はそうした活動と連動したかたちで、会計の考え方や使い方を解説しているわけです。

ちなみに、どんな構成がわかりやすく意味があるのだろうと思案する過程で日芸の先生に相談したところ、「卒業後は興行の収支を考えたり、運営団体の数字を取りまとめたりといった仕事に就く学生も多いので、最低限は理解できるようにしてほしい」というアドバイスをもらったのだそう。

ただしそれは学生だけにあてはまることではなく、なんらかの形でアートに携わるすべてのクリエイター、アーティスト、フリーランスに必要なことであるはず。とはいえ、それは苦手意識を持ちやすいことでもあるかもしれません。

だからこそ、本書を参考にするべきなのです。

この本では、会計に「近寄りがたい」感覚をお持ちの方に、会計は事業を表現するための方法であること、その情報は重要なコミュニケーションツールになることを理解いただき、さらにご自身の未来を切り拓くための一助になれることを意図しています。(「まえがき〜会計とは数字でビジネスを『表現』した芸術作品」より)

会計記録のつくりかたはもちろんのこと、「売上・仕入」「在庫・資産・負債」の記録法など、会計に関するノウハウを凝縮した一冊。きょうは第1章「ビジネスの初歩をおさえよう」に焦点を当て、クリエイターにとってのビジネスのあり方を考えてみることにしましょう。

お金をもらうことを遠慮しない

アートに代表されるクリエイティブワークに携わりながらも、「お金をもらうことにどこか引け目を感じる」という方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、自分で描いていれば費用は実感できないでしょう。しかし、かかった費用と価値は本来は関係ないのだと著者は述べています。

価値のあるものを、価値を感じてくれる人に適正な価格で提供することは正当な経済活動で、経済的な自立を確保するための大事な手段です。(21ページより)

そこまで気負わないにしても、自分がつくったものに価値を感じてもらい、お金を払ってもらうのは気持ちのよいもの。しかも、作品を通じて喜んでもらえるのならなおさらです。

多くの方は誰かに喜んでもらう、楽しんでもらうことを目的に活動されていると思います。

その喜びが価値ですので、かかった費用にかかわらず、相応のお金をいただくことは正しいことなのです。(22ページより)

アートに「定価」をつけることはできませんが、きちんと価値を理解してくれる人と出会ったとしたら、相応のお金をいただくのは自然なこと。通常の商売で当たり前にやっていることは、アートの世界でも同じだということです。

そもそも商売もアートも、お金が回らなければ活動の継続自体が困難になってしまいます。そういう意味でも、お金のことを考えるのは決して卑しいことではないのです。(21ページより)

自分も「商売人」であると実感せよ

お金をいただいて何かをする行為を、商い、商売、商取引などといいます。会社にお勤めすると、毎月決まったお給料をいただくので、実感が持ちにくいかもしれませんが、これも働いた結果に基づいてお金をいただいているものですので、実は立派な取引で、雇用契約という契約に基づく行為です。

「価値を提供するからお金をいただける」のであって「価値がある(ように見える)からお金がもらえる」のではありません

少し言い回しを変えただけですが、これは大事な違いです。(24ページより)

いずれにしても、このように「お金をいただいてなにかをする」行為を、会計では「取引」と呼ぶわけです。そして会計は、この「取引」を記録する方法であるということ。(24ページより)

儲かっているのに倒産する?

「会計」と並んでよく聞くことばに「財務」がありますが、両者はなにが違うのでしょうか?

お金に関係するという点では同じですが、「会計」はお金の出入りを伴う取引をする方法。一方の「財務」は、お金自体の管理の方法。会計は過去の記録で、財務はそれを基に未来を予測するものだということです。そのため、実は「会計」では儲かっていても、「財務」ではお金がないという事態が起きたりするのです。

たとえば、2020年のコロナ禍の始まりを思い出してください。当時、飲食店に休業・時間短縮要請が出されました。

このとき会計(過去)で見ると3月までは黒字だったお店が、4月からの休業で急に売上がなくなり、財務(未来)の観点では、お金が入ってこなくて支払が困難になり、経営が苦しくなる事例が続出しました。大手の飲食チェーンや、ホテルチェーンも、資金不足に陥り多数の店舗を閉鎖しました。(27ページより)

つまりはこのように、会計の数字は過去からの集計なので黒字に見えるわけです。ところが急な環境変化で運営資金の不足が限界を超えてしまうと、モノの仕入ができない、借入の返済ができないなどの問題が生じ、黒字なのに倒産する可能性が出てくるということ。

もちろん、アーティストなどの場合は基本的に仕入や借入の必要は少ないかもしれません。しかし、そうはいってもお金については、このように過去と未来の両面から考える習慣をつけておいて損はないようです。前述したとおり、アーティストも商売人なのですから。(26ページより)


繰り返しになりますが、クリエイターにとっても会計知識はとても重要。避けては通れないものであるだけに、本書を活用しながら基礎的なノウハウを身につけたいものです。

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Source: 秀和システム