もう子どもではない。かといって、成熟にはまだまだほど遠くて……30代は、そんな微妙な年齢。さまざまな作品に出演し独自の存在感を発揮しつつある俳優・白洲迅さんにとっても、32歳になる今年は、壁を打ち破る年になりそうです。

チャンスは、来るべきときに来る。大作を自分のターニングポイントに

白洲迅さんが現在取り組んでいるのは、自身初のシェイクスピア劇となる『ハムレット』の稽古。デンマーク王家を舞台に展開する愛と血の因縁を描いた傑作悲劇ヘの出演オファーに、当初は驚き、迷いも感じたといいます。

「正直、ビビりました(笑)。舞台は2年ぶりだし、難しいイメージを持っていたシェイクスピア劇が、自分にできるだろうかと……。でも、僕も30歳を超えて、俳優として勝負をかける頃。自分のターニングポイントにしたい作品だと思い、挑戦させていただくことにしました。チャンスって、来るべきときに来るんだなと、今は感じています」

演じるのは、主人公のデンマーク王子・ハムレットの親友であるホレーシオ。学者としての知性と温厚な人柄から、家族や周囲への疑念に苛まれるハムレットが唯一心を許せる人物として造形されています。

「常に主人公の側にいて、受け止める存在……大役ですよね。でも、ハムレットがどんどん追い詰められていくなかで見せる心の揺れや変化にちゃんと気づいて、寄り添える親友になれたらいいなと。僕個人も、周囲に居心地の悪そうな人がいると、わりと気にしてしまう方です。でも、気がついているくせにフォローできないときもあるので、まだまだダメ人間なんですけど(笑)」

稽古場での緊張を癒やす秘密のリラックスタイムとは?

白洲迅さん

演出を手がけるのは、吉田鋼太郎さん。白洲さんとは俳優同士として何度も共演し、舞台人としては30代からシェイクスピア作品に一途に打ち込んできた、偉大な先輩です。

「ドラマで共演するときはエネルギッシュな俳優であり、ユーモアたっぷりの面白いおっちゃん(笑)。そんな鋼太郎さんの演出家としての一面は、とにかく格好いいんです! 一見、難しい言い回しが長々と続くハムレットの台詞に、人間が持ちうる限りの感情や思考がいかに盛り込まれているか、それを熱く、丁寧に読解してもらうことで気づくことがたくさんあって……。毎日の稽古で、本当に贅沢な時間を過ごさせていただいているんだなと実感しています」

ここ数年は映像への出演が主だった白洲さんですが、デビューは舞台。稽古、公演中は「自然と健康的になれますね」と、その日々を明かします。

「稽古時間はだいたい決まっていますし、本番が始まれば、さらにキッチリとスケジュールが定まりますから。でも、一回一回全力投球なので、やっぱりすごく疲れる! 喉を含め、普段よりはいろんなケアをしています」

緊張が続く日常のリラックス法は、お風呂に長く浸かること。そして、さらにとっておきの時間があるというのですが……。

「頭を空っぽにするという意味では、YouTubeのゲーム実況を見ること。本当はゲーム自体をやりたいんですが、時間がないし、やり始めると止まらなくなるし。実況する方って、本当にゲームが上手で、あっという間に先に進むんですよね。だから、僕までやった気になれる(笑)。その間、無心でいられるのは大きいです」

選ばれた人だけが演じられる役。そこに、いつかは自分も……

白洲迅さん

現在、稽古を進めながら徐々に役への集中を高めている白洲さん。柿澤勇人さん演じるハムレットの苦悩を隣で見守りながら、あらためてシェイクスピア劇の最高峰といわれる作品の頂の高さを実感するといいます。

「特にハムレット役は、本当に大変。膨大な台詞量、それを紆余曲折するストーリーのなかで表現していかなきゃいけないので、側で見ていて『メンタル、保てるのかな?』と感じてしまうくらいです。でも……」

そのなかで、奇妙な〝モヤモヤ〟を感じる瞬間がある、と白洲さん。

「この役を任される役者がいるんだ、ということですよね。鋼太郎さんも『役者人生のなかでハムレットをやれるのは、本当に選ばれた人だけ』だとおっしゃっていて、そうか、そうなんだなと……」

いつかは、自分も――そんな感情が芽生えるのも、自然なこと。まずは今、自分の役をやり遂げ、その先に見える世界を楽しみにしていると、白洲さんは言います。

「これまでも、決して楽な道を選ばないようにしてきたつもりだし、今回も、だからこその大きな挑戦。この作品、ホレーシオという役を演じ終えたときに、自分がどうなっているんだろう、どんな景色が見えるんだろう……今は、それしか頭にありません。想像もつかない自分になれていたらいいなという期待でいっぱいなんです」

舞台 “彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』”公演情報

彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』

《いまの世の中は関節が外れている、それを正すべくおれはこの世に生を受けたのだ!》
1998年、故・蜷川幸雄氏のもとで始まったシェイクスピア全37戯曲完全上演。2023年に成し遂げられてのちの第2シーズン、その冒頭を飾る門出の上演は「鋼太郎さんが、ありとあらゆる方法で観客の皆さんを楽しませようとしていますので、どうぞお楽しみに」と白洲さん。

作:ウィリアム・シェイクスピア 
翻訳:小田島雄志
演出・上演台本:吉田鋼太郎
出演:柿澤勇人 北 香那 白洲 迅 渡部豪太 豊田裕大 正名僕蔵 高橋ひとみ 吉田鋼太郎 ほか

埼玉公演/2024年5月7日(火)〜26日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
宮城公演/2024年6月1日(土)・2日(日) 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
愛知公演/2024年6月8日(土)・9日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
福岡公演/2024年6月15日(土)・16日(日) J:COM北九州芸術劇場 大ホール
大阪公演/2024年6月20日(木)〜23日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ


PROFILE

しらす・じん/1992年生まれ。東京都出身。2011年、舞台『ミュージカル・テニスの王子様2ndシーズン』で俳優デビューし、映像にも活躍の場を広げる。最近の出演作にドラマ『君が心をくれたから』『恋愛戦略会議』『ゼイチョー〜「払えない」にはワケがある』『刑事7人 第9シリーズ』など。舞台は22年の『夜来香ラプソディ』以来2年ぶりの出演。



[衣装クレジット]ブルゾン¥116,600、シャツ¥39,600/メゾン キツネ(メゾン キツネ カスタマーセンター 0121-667-588)、パンツ¥18,920/アバハウス(アバハウス 池袋パルコ店 03-3987-8025)、靴¥35,200/アルフレッド・バニスター(アルフレッド・バニスター ルミネエスト新宿店 03-6380-0310)、その他/スタイリスト私物

photograph:Aya Sunahara styling:Yousuke Mochida hair & make-up: Ryo Matsuda(Y’s C) text:Michiko Otani

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