今週放送された『ブギウギ』(NHK朝ドラ)で、「仕事と子育ての両立」が破綻寸前のスズ子(趣里)は崖っぷちに立たされていた。子連れ出勤で現場に同行させていた愛子(小野美音)がケガをして映画の撮影が2日間ストップしてしまうなど、スズ子がいくら「1人で頑張りますわ」と言ったところで、結局は周囲に皺寄せがいってしまう。

第19週「東京ブギウギ」、第20週「ワテかて必死や」、第21週「あなたが笑えば、私も笑う」と、愛助(水上恒司)亡きあと3週にわたって、たっぷりとスズ子の「ワンオペ育児の限界」を描いてきた。そんなスズ子を見て、歌に全身全霊を捧げるために青森に我が子を置いてきたりつ子(菊地凛子)はきっぱりと言う。

「女が1人で仕事も子育てもなんて生半可じゃ務まらない。連れ回しても、面倒見られないんじゃ意味がない」

そしてりつ子はスズ子に、同郷・青森出身のベテラン家政婦、大野晶子(木野花)を紹介する。大野の「押しかけ」にはじめは戸惑うスズ子だったが、戦友・りつ子からの紹介だからこそ、大野を信頼したのだろう。

2月23日放送の101話では、愛子が心配で心配で、仕事場から走って帰ってきたスズ子が、大野の完璧な仕事ぶりと、どっしりとした安心感を目の当たりにして、張り詰めていた糸がプツンと切れたように泣き崩れてしまった。観ている視聴者も、スズ子と同じ気持ちになったのではないだろうか。

この、とてつもない説得力を持つ大野の役どころと、演じる木野花の魅力について、制作統括の福岡利武さんに聞いた。

■ 視聴者からはスズ子のワンオペ育児に疑問の声も

実際、3週にわたって描かれたスズ子の「ワンオペ育児」には無理があり、視聴者からも「現場付きのベビーシッターを雇えば・・・」「なぜ家政婦を雇わない?」という主旨の感想がSNSに多数寄せられていた。福岡さんは、そうした視聴者の声もある程度は予測していたとして、「愛する人を失い続けたスズ子の、『愛子と離れたくない』という思いと、育児の大変さをしっかりと描き切ったうえで、大野を登場させたかった」と語る。

福岡さんは、「実社会では、なかなか助けを借りることのできない状況で子育てをされている方もたくさんいらっしゃるなか、やはりスズ子にいとも簡単にヘルプが入ってしまう展開にするわけにはいきませんでした。101話に持っていくまでの3週間は、必要なストロークだったのかなと思います」と持論を展開する。

加えて、101話の「お花の障子紙」と「洗濯物を畳むお手伝いをしながら、お利口さんでスズ子の帰りを待っていた愛子」という、短いシーンで大野の底力をこれでもかと見せてくれた作劇について、「今週の脚本を担当していただいた櫻井剛さんがしっかりと考えてくださって、とてもいいシーンになったと思います。やはり、こういう『具体例』がないと説得力って生まれないんですね。大野の人柄と、『この人はやりますよ』ということが、スズ子にも、観ていただいているみなさんにもしっかり伝わらなければいけませんから」と説明した。

■ 木野花のアイデアで「説得力が増した」大野さん

大野晶子は、史実にはないオリジナルキャラクター。大野を演じる木野花について福岡さんは、「りつ子と同郷の青森の人ということで、青森県出身の木野さんに演じていただけて本当に良かったです。木野さんは台本をとても深く読み込まれていて、さらに『現場の空気を捉えて芝居しますね』とおっしゃって。木野さんご自身が現場で『ここはこうしましょう』『こういうふうに持っていってはどうか』と、さまざまなアイデアを出してくださり、ものすごく説得力のある大野になっていると思います」と絶賛した。

また、「ブギウギは、ステージが目玉ではありますが、それと同じぐらいに『生活感のドラマ』であると思っています。大野の登場により、愛子の子育てを通じた日常描写が、さらなる見どころとなっていきます」と、大野が今後の展開のキーパーソンになっていくことを示唆した。

さらに次週、22週では、大野のバックグラウンド、そしてりつ子との関係性が明らかになっていくという。福岡さんは、「大野がこれまでどう生きてきたかが、次週語られます。前向きな気持ちで生活することの大切さや、これまでもずっと描いてきた『スズ子が、いろんな人と家族になっていく』というテーマが、大野の存在によって新たに描かれていきます。ご期待ください」と結んだ。

これからも、『ブギウギ』が描く新たな家族像に期待したい。

取材・文/佐野華英