日本が世界に誇る長編物語

『源氏物語』は、平安時代中期、11世紀初めに成立した紫式部(むらさきしきぶ)による長編物語です。光源氏(ひかるげんじ)の誕生から晩年までの五十数年と次世代の若者たちの十数年、4代の天皇の時代にわたる物語です。光源氏の恋愛遍歴を軸にしながらも、親子関係、家の継承、政治闘争などといった貴族社会のさまざまな人間模様が描かれています。

現在伝わる『源氏物語』は、全54巻です。今日一般に物語の内容から三部に分けます。第一部は桐壺(きりつぼ)の巻から藤裏葉(ふじのうらば)の巻までの33巻、第二部は若菜上(わかなのじょう)の巻から幻(まぼろし)の巻までの8巻、第三部は、匂宮(におうみや)の巻から夢浮橋(ゆめのうきはし)の巻までの13巻とされています。

光源氏

「物語」に対する評価を一変させた記念碑的な物語

平安時代、文芸の中でも最も重んじられていたのは漢詩で、男性貴族の基礎教養でした。和歌は男女を問わずたしなむもので、平安中期に至るとその社会的評価は次第に高まってきていました。一方、『源氏物語』のような「物語」は、まだ女性や子どもたちの遊びとみなされていました。しかし、『源氏物語』は世間の価値観を覆すように、幅広い読者を得て高く評価されます。

蛍(ほたる)の巻で光源氏は、物語に熱中している玉鬘(たまかずら)をからかう一方で、「日本紀などは、ただかたそばぞかし。これらにこそ道々(みちみち)しく詳しきことはあらめ」と、六国史(りっこくし)などの歴史書は、ものの一面しか書いておらず、より大事なことは物語にこそ詳しいと語ります。光源氏にいったん物語を軽視させて、改めて高く評価するところに、当時の状況と紫式部の自負がうかがえます。

紫式部

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』高木 和子 監