過去の成功体験に固執し、時代の変化や顧客の欲求を重視しないお店が衰退していってしまう…多くの業界で「あるある」な状況ですが、今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんは、その事態を改善しV字回復を遂げた、二つのお店に関わったキーマンを紹介しています。

「味の民芸」を業績回復させた「和食・麺処サガミ」チェーン鎌田敏行の手腕

いつもそうなのですが、プロを自認する人々では過去の成功体験や作り手側の慣性と思い込みに固まり安く、顧客の欲求や時代の変化については無感覚となり遊離し、破綻へと追い込まれがちになります。意外ですが、長年暖簾を守っている老舗は革新的なところが多くあります。それは、商品・サービスに満足して対価を支払ってくれるのは顧客だということを熟知するからで、顧客と時代性を軸に考えて実行できるからです。

テレビ番組「カンブリア宮殿」で、破綻の一歩手前まで追い込まれて“マーケティング”に立ち戻ることで、V字回復させた「和食・麺処サガミ」のことが紹介されていました。それを行ったのは外部の伊藤忠商事から来た元商社マンでした。

またいつもそうなのですがを続けますが、大方の低迷させる事業家に共通するのは、生きたマネジメントの基本機能たる“マーケティング”の効力に無案内で、なすべきことを知らずして徒労を繰り返します。成すべきことの指針は“マーケティング”「顧客の欲求からスタート」することで、このことを知らないのでは端から勝負にもならないのです。

「和食・麺処サガミ」はファミリーレストランスタイルの和食店で、時代の波を受けて業容を拡大してきたのです。しかし、流行(はやり)が巡ると月並みとなり、飽きられるのです。そんな時にとった販促が、月並みを重ねる割引クーポン発行で50%引きまで行った2010年には、過去最大の29億円赤字となったのです。

そんな時期2011年に社長に就任したのが元商社マンの鎌田敏行さんで、現状を立て直そうと、常に現場に出向きヒントをつかもうとしたのです。ある日に思わぬ場面に出くわして「あれ」と思ったのです。お客が、定食のあまりのボリューム感に困惑し半分残したのです。担当に確認すると「満足してもらうには」という答えだったので、そこで「従業員全員の発想を変えていかなければいけない。」と気づいたのです。

「サガミの常識は世間の非常識」として、「時代のニーズに合った真の客目線の徹底」と大胆なメニュー改革を、そのために行ったのが「100万人アンケート」です。「料理は品数を増やし少しずつを」、「高くてもお値打ち感のある内容のものを」、「高齢者には座敷ではなく椅子席で」、これら多くのアンケートを吟味し「顧客の声」に沿って大幅な変革を実施したのです。

サガミの店の入り口には石臼があるのですが、お客の半数以上が“そば”を注文、「挽きたて」「打ち立て」「湯がきたて」で大評判。2013年には黒字達成し、コロナも乗り越えたのです。「大盛、ボリューム感で顧客の欲求を満足させよう」「割引クーポンで顧客の呼び戻しを」といった顧客視点を持たない発想は大誤算だったのでした。 

「和食・麺処サガミ」チェーン鎌田敏行さんは、今度は「味の民芸」という業績悪化していた手延べうどんを表看板にする業態の業績回復も任されることになりました。この時は、自分の右腕である大西尚真さんに一切を委ねました。大西さんは鎌田さんと同様にひたすら現場である店舗を回り続けたのです。

そんな中で一筋の光が、浮かび上がってきました。現場で働く従業員の店に対する思いで「もっと自分たちは、おいしい料理を作りたいんです。でも今、現実的にできていない。それが悔しいです。」それまでに業績回復のために行っていたのは「コストカット」一辺倒で、間接照明はつけないは、食材の原料は徹底的に抑えるはでした。

差別化の切り札として思い至ったのは「手延べうどんの大改革」でした。最高品質の原料を使い手間を惜しまずに、これに賭けようとしたのです。ところでこの案はみんなの賛同を得たのかというと、よくあるパターンです。「リスク」を恐れる幹部たちは一斉に大反発したのです。「リスクを冒せないのが、最大のリスク」のよくある場面だったのです。

この時、トップマネジメントの最終意思決定を下しました。それを受けた現場従業員の健闘のもとに半年間かけて、原料、製法見直しで「ツルツル感」「喉越し抜群」のうどんを作り上げたのでした。結果は、値段は高くなったのですが、こだわり料理は評判をよんで「ありがとう。おいしかった。また来るね。」とまで言わしめるようになったのです。この改革後、一年で黒字化を果たせました。

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