国の未来を見据えているとは思えぬ、その場しのぎの政策を連発する岸田政権。先日も突如「所得税減税」の方針を打ち出しましたが、これに日経新聞が他紙に先駆けて社説で苦言を呈し、その存在感を見せています。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』〜時代の本質を知る力を身につけよう〜』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、「追及が中途半端な感はあるものの、大手メディアがはっきりと苦言を呈したことの意味は大きい」と評価。その上で、政局のために基幹税に手を出す首相を厳しく批判しています。

日経新聞が指弾。増税●●メガネに大手メディアが呈した苦言

ここのところ、権力に飼い慣らされてきた感の強い大手メディアですが、10月21日の日経新聞が『岸田文雄首相の所得減税指示は疑問だらけだ』という社説を掲げていて、思わず目を引きました。

「増税メガネ」と呼ばれることを異常なくらい気にしているという岸田首相は、いきなり所得税を対象とした減税を言い出し、23日から始まった今国会でも争点になると思われますが、岸田首相の脈絡のない迷走ぶりを批判する内容となっています。

「人気取りにもほどがある。」という書き出しで始まるその社説は、いつになく厳しいトーンで岸田首相を批判しています。それを読んで、私は思わず以下のようにX(旧ツイッター)へポスト(ツイート)しました。

突っ込みがまだまだ中途半端な感はあるが、珍しく #日経新聞 が社説で首相に苦言。世論に迎合しているだけかもしれないが、指摘すべきは遠慮会釈なくどんどん指摘して欲しい。

突っ込みがまだまだ中途半端な感はあるが、珍しく #日経新聞 が社説で首相に苦言。世論に迎合しているだけかもしれないが、指摘すべきは遠慮会釈なくどんどん指摘して欲しい。

[社説]岸田文雄首相の所得減税指示は疑問だらけだ – 日本経済新聞 https://t.co/P55VJA5Pcc

— 辻野 晃一郎 (@ktsujino) October 21, 2023

社説の要旨は、「岸田首相が、10月末に策定する経済対策の柱として、時限的な所得税減税の検討を与党幹部に指示した。経済成長で増えた税収を国民に還元すると言うが、必要性にも一貫性にも欠けるバラマキは止めるべきだ」というものです。

さらに、「増税論者とみなされるのを気にするあまり、22日の衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の補欠選挙に向けた単なる人気取りではないのか。昨年、防衛費の増強を決めて増税を見込んでいるのに、ここで減税を進めようとするのは矛盾している。足元の経済対策と基幹税見直しの議論は切り分けるべきであり、場当たり的な減税に走るのは無責任だ」と指弾しています。

まことにごもっともな指摘です。岸田首相は、減税を物価上昇に賃上げが追いつくまでのつなぎと位置付けるそうですが、手続きとしては、与党の税制調査会で年末までに詳細を決め、関連の法案を成立させねばなりません。成立しても、恩恵が生じるのは来春以降になる見込みで、消費ではなくて貯蓄に回る可能性もあります。また、「賃上げが追いつくまでのつなぎ」とは、まさに場当たり的ですし、賃上げが簡単に実現できるとでも思っているのでしょうか。

物価高対策ということであれば、消費税を下げる方が簡単で効果的と思われますが、それには財務省が抵抗するので、時限的な所得税減税という奇策を持ち出したのでしょう。しかし、その後の報道では、一人当たり年間4万円程度で検討するということで、これでは物価高対策にも景気浮揚にも到底つながりそうにはありません。

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税制についての正確な見識すらもない首相

この社説では、防衛費の大幅増強そのものの是非や、少子化対策のための安定財源確保の問題等には切り込んでいないので、追及が中途半端な感はあるものの、政権発足以来、支離滅裂で何をしたいのかが一向に見えない岸田政権に大手メディアがはっきりと苦言を呈したことの意味は大きいです。国民は、わずかばかりの一時的な減税などに惑わされてはいけません。防衛費増強その他の財源確保のため、結局は増税に向かうことは明らかです。本来であれば、社説もそこまで踏み込み、内訳さえ不明確なまま強行された防衛費の大幅増強の見直しそのものについて問題提起すべきです。

ところで、インボイス制度を前国会で議論していた時に、岸田首相は、消費税の法的定義について正しく理解していないことを幾度となくさらけ出していました。自身の政権維持にしか興味がなく、国家の運営にとって最も重要な税制についての正確な見識すらもない首相が、単なる一時的な人気取りや政局の為に脈絡もなく基幹税に手を出すのは明らかに一線を超えています。

今回取り上げた日経新聞の社説は、単に世論に迎合しただけなのかもしれませんが、「権力の監視」という本来メディアが果たすべき役割がまともに果たされなくなって久しいので、少し新鮮に映りました。

「経済、経済、経済」と連呼する岸田首相の所信表明演説で臨時国会が始まりました。「経済成長で増えた税収を国民に還元する」そうですが、短期的に好調に見えても、コロナ禍の落ち込みや物価高を加味すれば、日本経済は成長していませんし個人消費も伸びていません。参院本会議の代表質問では、身内である世耕弘成参議院自民党幹事長からも異例の突き上げを食らう始末です。今後の国会での議論とメディアの姿勢には引き続き注目していきたいと思います。

【おまけ】

毎日新聞が、25日の社説で、ここで取り上げた21日の日経新聞の社説とそっくりな内容の社説を掲げていました。明らかにコピペしたような言い回しも散見されました。他社の社説を恥じらいもなく自社の社説に転用する姿勢に、あらためて大手メディアの劣化を感じざるを得ませんでした。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』〜時代の本質を知る力を身につけよう〜』2023年10月27日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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image by: 首相官邸

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