ロシアによるウクライナ侵攻から丸2年が経過し、国内外で多くのメディアがこの戦争の現状を改めて伝えました。中には、中国が「漁夫の利を得た」という見方を示すものもあったようですが、実際はどうなのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、「ロシアが勝利すれば中国の台湾侵攻を助長する」との見方については「子供っぽい」と一蹴。この戦争で中国が得た教訓と、かつてないほど深まった中ロ関係について解説しています。

3年目に突入したロシア・ウクライナ戦争、中国が「漁夫の利を得た」という指摘は的を射ているのか

「狂った野郎(crazy SOB)」──。国際政治の舞台で他国のトップをこれほど悪しざまに罵るのは北朝鮮の指導層だけかと思っていたら、そうでもないらしい。アメリカのジョー・バイデン大統領だ。

発言が飛び出したのは選挙資金集めのイベントでのこと。「人類にとって最後の存亡の危機は気候(変動)だ」と強調する流れのなかで「プーチンのような狂った野郎がいて、核戦争の懸念は常にあるが」と前置きしたのだ。気候変動問題の大切さを語るためのおまけの発言ともとれるが、それにしても刺激的だ。

今月14日、ウラジミール・プーチンはロシア国営テレビのインタビューで「バイデン大統領とトランプ前大統領のどちらがロシアに望ましい大統領か」と問われ、「バイデン氏だ」と答えたばかり。そのプーチンに冷や水を浴びせかけたのだから、ロシアの反応に注目が集まった。

しかしプーチンはこれを冷静に受け止めた。国営テレビに出演し〈「われわれは(アメリカの)大統領が誰であれ協力する用意がある」とした上で、笑みを浮かべながら、「ロシアにとり、バイデン氏の方が好ましい大統領だと確信している。今回の彼の発言から判断すると、私は断然正しい」と述べた〉(ロイター通信2月23日)のである。

先週も触れたが、ロシアに「トランプ待望論がある」との見方は西側メディアに定着している。ゆえにプーチン発言はその裏をかいたものなのか。それとも「誰が大統領になってもロシア弱体化の試みをアメリカが放棄するわけではない」という意味なのか、憶測を呼んだ。

いずれにせよドナルド・トランプかバイデンかという問いにはあまり意味がない。アメリカの、どの利益を代表して他国と向き合うのかの違いであり、中国やロシアが利益を拡大しようとすれば必ずどこかでアメリカの利益とはぶつからざるを得ないからだ。

個人的な関係はその衝突を解消してくれるわけではなく、別の形になるだけのことだ。トランプは「習近平を尊敬している」と言いながら中国製品に高い関税を課し、人権問題では「無関心」と批判されながらも政権の後半にはウイグル問題で中国に強く干渉した。同じようにプーチンを高く評価しながらも、ノルドストリームを激しく攻撃し、欧州のロシアへのエネルギー依存を放棄させようと圧力をかけ続けた。

つまり中ロにとってはどちらが大統領になろうと、扱いにくさに多少の違いが生じるだけで、一長一短なのだ。ただウクライナとヨーロッパにとってトランプの再登板は、やはり悪夢かもしれない。明らかにウクライナ支援に消極的だからだ。

ロシア・ウクライナ戦争は3年目に突入し、メディアの注目もガザから再びウクライナへと戻った。報道ではウクライナの苦戦が目立った。なかには「ロシア軍を消耗させることに成功した」とか、「領土を奪い還した」といった戦果にスポットを当てウクライナの善戦を強調する報道も見かけたが、メインテーマはあくまでウクライナの苦境だった。

本来、第三者の視点に立てば「外国を当てにして戦争を起こすリスク」にも言及されるべきが、そうした問題意識は中国メディア以外でほとんど見られなかった。

また西側の報道の特徴として、ロシア・ウクライナ問題を中台問題と混同する記事も目立った。そのロジックは「ロシアの勝利は、習近平に台湾侵攻が許されるという誤ったメッセージを与える」というもので、三題噺の域を出ない子供っぽい発想だ。

なぜなら中国は「台湾侵攻こそがアメリカの国益」だと見ているからだ。中国は、民進党の裏側で独立を煽り、習近平政権が武力でそれを食い止めなければならない状況を作ろうとしていると警戒している。

アメリカは自ら直接中国と戦わず、戦争に巻き込み、国際社会から孤立させ経済制裁によって発展を遅らせようとしている、と。台湾も日本も、そのアメリカの愚かな駒に過ぎない。それこそ中国がロシア・ウクライナ戦争から得た教訓だ。

一方でロシアとの関係では、中ロ関係の強化という「棚ぼた」が中国を利したという見方もある。アメリカはロシア・ウクライナ戦争の勃発と同時に「中ロ」を一括りにして国際社会から孤立させようと動いた。中ロはその圧力の下で手を結んだとも言われるが、決してそうではない。

中ロ首脳会談が「限界のないパートナーシップ」を宣言したのは北京の冬季オリンピックでのことで、ロシアがウクライナ侵攻する3週間ほど前のことだ。そして侵攻後のロシアの孤立は、中ロ関係を未曽有の深みへと導いた。

アメリカの政治雑誌「POLITICO」はメールマガジン(2月22日)で、元国防副次官補のエルブリッジ・コルビーの発言を引用。ロシアは「北京との協力に依存する虜囚的なジュニア・パートナーになった」と評価したほどだ。つまり中国は〈2年前には想像もできなかったレベルのロシアへの経済的影響力〉を手に入れ、いまでは〈ロシアの消費財の大部分を供給する〉までになった、と。

中国の輸出業者には巨大な専用市場が生まれ、人民元決済の拡大で元の存在感も高められるだけでなく自らのアキレス腱でもあったエネルギー問題で、ロシアの石油とガスを安く入手できるルートを確保できたのだ──

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年2月18日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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