山口県の下関で、主に韓国から輸入したあわびを各地に直送しているナンスイ株式会社。今回は、その代表取締役社長 足立一輝さんに、日本の水産業界における課題と今後の展望について伺った。 

日本の水産業界における課題といえば、人手不足だ。日本は、世界でもトップクラスの漁獲水揚げ量を誇り、古くから漁業が盛んな国だが、近年は少子高齢化や過疎化などを背景に、漁業の人手不足が進んでいる。山口県も水産業に参入する若者が減少しており、同社でも人材確保に尽力をしているが、難航しているのが現実だという。 

その他の日本の水産業界の課題について足立さんに尋ねると、次のような回答が返ってきた。 

「正直言うと、水産業界のこと、まったくわかっていないんです。ですから偉そうな話をする気もありません。もちろん水産業界にはいますけど、気持ち的には『水産やってます』とは思っていません。今までにない業種ととらえ、やり方も変えてやりたいと思っています。今後も、自分がこれがいいかもと思ったことをやっていきたいです。 

あわびだけで終わる気もありません。いまは結婚式場にもあわびを納めていますが、あわびだけでなく、将来は肉も納めてもいいですし、結婚式の衣装を納めてもいい。何でもできると思っているんです。いい仕事をしていれば『誰かいない?』と声をかけられますしね。水産にこだわらずやりたいと思っています」。 

そして足立さんは、ただものを売るだけでなく、売った先の人がさらに誰かに何かをするという、「人と人とのつながり」を重視していると語る。 

「ものを売って、その先にもう一つ、また買った人が何かする、そこにもつながっていきたいと思っています。これから人口が減るなかで、いかに人の結びつきを強く持っておくかが大事。自分のつながるパイプの強さと濃さをどんどん強くしていかないと、いまから大変になるのでは。それはお客さんだけでなく、従業員に対してもそうだと思います」。 

また、日本の食品業界で深刻な課題となっている食品ロスは、水産業でも同様の課題であり、対応も必須だ。 

「従来は生産者も漁師も、漁獲した魚を市場に入れて終わりでした。それが市場で売れ残ろうが、廃棄しようが関係ありませんでした。しかし食品ロスの問題が起きています。これからは無駄にならないように、必要なだけ買ってもらい、活きや一次加工など必要な形でお客さんに提供したいと考えています。食品ロスということは、買ったユーザーさんも損しているということ。お客さんが損しないように提案しています」と足立さんは話す。 

また、「そして売って終わりではありません。売ったあわびは誰が食べているのか、とそこまで気になります。有名老舗旅館から、大量にあわびの注文きたときに、理由が気になって聞いてみたところ、県民の集まりがあると知り、しっかり消費されているんだなとわかりました。自分が納めたものが結局、どういうことになっているのか気になります。そうすることで、お客さんから『これはどこのもの?』と疑問を持ってくれたら嬉しいですね」と足立さんは続けた。 

今後の展望について、足立さんは「日本全国のお客さんのどんな要望にも答えられるようにしていきたいです。いまは、まだ東北以北には『活き』の状態であわびを届けられていない状態です。また、まだ大々的にはできていませんが、今後は個人宅へ届ける形をとりたいですね」と述べる。 

また昨今の円安や物価上昇による日本への影響を受け、足立さんは「日々、値上げで人々が困っているのを見ていると、世界相手の仕事をしている以上、何かしら貢献したいと最近、思います。輸入だけでなく、将来は日本ならではの付加価値をつけた上で輸出も手がけて、日本の価値も一緒に上げたいですね。日本は海外に対する力が弱いことから、それにも貢献したいと考えています」と語った。 

最後に足立さんは自身の仕事について次のように締めくくった。 

「人がやっていないことを、人から指さされてなんぼと思ってやっています。それに対して『生意気やん』と言ってくる偏屈なおじさんを口説き落とすのが好きですしね」。