砂アニメが怖かった!そもそも日本のアニメなのか?

「♪アー、アー、ア!エッエッエ!イッ!イッ!イッ!」

 ある特定の世代の人からすれば、この文字列を見てなんとも奇妙で単純な砂のアニメーションとともに、特定のメロディが流れたことでしょう。1990年代に教育テレビ(Eテレ)の「プチプチ・アニメ」シリーズとして、繰り返し放送されていた謎の砂のアニメーションがありました。

 今なおネットでは、「みんなのトラウマ」として話題にのぼります。果たしてあれは何だったのか? 本当に放送されていたのか? 高熱にうなされてみた夢だったのではないか? そんな疑問を解消すべく、内容とともに振り返りたいと思います。

 このアニメのタイトルは、そのままずばり『アエイオウ(原題:A.E.I.O.U.)』で、1話5分の全13話からなるサンドアニメーションでした。

 小高い丘のような場所にいる5人の子供たちのうちひとりが、毎回出かけた先で「恐ろしい何か」と出会い、魔法のバイオリンを駆使してやっつける、というのが大筋でした。たとえば、制作会社(後述)の公式YouTubeに上がっている「THE GHOST」というエピソードを観てみましょう。

 いつものように単純な面がまえの少年が、何やら言語らしきことを口にしながら麓の方へと降りていくと、巨大なお化けに遭遇します。そのお化けにいたずらをしかけられ翻弄されるも、得意のバイオリンで応戦し、最後は5人が力を合わせて退治するのでした。

 文字だけで書くと、なんてかわいらしいストーリーでしょうか。これのどこに「トラウマ」呼ばわりされる所以があるのかといえば、やはり独特すぎる「砂の絵」と「声」でしょう。

 絶え間なく描かれては消されて進むサンドアニメーションは魔法のようであり、同時に予想だにしない動きをするので、確かに不気味です。そしてなんと言っても「声」でしょう。明らかに日本語ではない言葉を口ずさむ主人公に対し、お化けもこれまた耳馴染みない言葉をとんでもなく「野太い声」で話します。これが幼児心からすれば恐かったのでした。

 さて、この『アエイオウ』はどこが制作したアニメなのかといえば、ミッセーリ・スタジオ(Misseri Studio)という、イタリアのフィレンツェにある制作会社です。

 そう、このアニメはイタリア生まれでした。実際「A.E.I.O.U.」というタイトルは、イタリア諸国の母音の並びでもあります。日本では1990年代に広く知られるようになりましたが、実際は1970年代に制作されたものでした。NHKの長寿番組『おかあさんといっしょ』でも、1979年4月から1981年3月まで放送されています。

 さてイタリアで制作されていたとなれば、筆者の耳には「アヤヤヤ ホホウ ヘヘーイ!」くらいにしか聞こえていなかったあのセリフもれっきとしたイタリア語であり、ちゃんと意味があった、ということでしょうか。ということで、公開されている2エピソードに音声通訳アプリをかざしてみたのですが……これがどうにもうまくいきません。

 砂絵のキャラたちが何かを口にしても、言語として認識してくれないのです。少なくとも何か単語らしい言葉は発しているようなのですが、やはりちゃんとしたセリフではなかったのでしょうか。

 ミッセーリ・スタジオの公式サイトに、その答えがありました。こちらのアニメは、「ノンバーバル(non-verbal)」であることが明記されています。つまり、最初から言葉に頼ることを意識せず制作されていたのです。

 ちなみに公式の概要欄には、「子供たちは音楽を通じて恐怖心を克服する方法を学ぶことができます」といった旨の記載もあります。公式にも子供たちを怖がらせる意図があったようですが、果たして私たちは恐怖を克服する術を学べたのか。公式サイトより幼き日の「トラウマ」に会いにいきましょう。

 ア・エ・イ・オ・ウ!