三姉妹の活躍で過去2作よりも明るく華やかに

 1987年頃、フジテレビおよび東映製作のTVドラマ『スケバン刑事III』は観たことがなくても、「風間三姉妹」を知らない人は少なかったのではないでしょうか。

 1986年より放送された『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』に登場した「唯(演:浅香唯)」「結花(演:大西結花)」「由真(演:中村由真)」の風間三姉妹は、そのままアイドルユニット「風間三姉妹」として番組主題歌を担当し、ドラマの枠を跳び越え活動します。1987年にはTBS系で放送されていた人気番組『ザ・ベストテン』など、他局の歌番組にも出演するなど、「スケバン刑事」フィーバーは絶頂を迎えました。しかしTVシリーズが3作で終了してしまったのも、実はこの「風間三姉妹」というキャラクターに原因があったようなのです。

 人気絶頂だったシリーズを終了させたのは、原作者の和田慎二先生御本人だったことが、白泉社文庫版『スケバン刑事』のコミックエッセイ「メイキング・オブ・スケバン刑事」にうかがえます。

 それによると、TVドラマ第1作『スケバン刑事』が放送された際、その内容については気にいらなかった様子(ハンマーでTVを壊す絵のみで表現)ではあるものの、初めて作品が映像化され「エンディングテロップで自分の名前が出たときはなんだかうれしかった」と語っています(なお、当のコミックエッセイはギャグマンガタッチで描かれている点にはご留意ください。以下同)。

 続いて第2作『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』は、原作とはストーリーこそ違うものの、アクションものでは常に添えものでしかなかったヒロインが、自分の意思とアクションで敵を倒していくという「私が長いこと望んでしかも得られなかったTVドラマだった」と絶賛していました。

 また、「二代目 麻宮サキ」も原作の「孤高」なイメージに近く、和田先生は「スタッフが原作から離れようとしてかえって近づいた……これはうれしいフロックだった」と述べています(フロック=思いがけない幸運)。TVシリーズ終了後に『スケバン刑事』のタイトルで映画化されたときには、ヨーヨー売りのおじさんとして出演します。

 しかし、第3作『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』について、和田先生は「忍者だと――っ!?」と大激怒します。

 確かに『スケバン刑事III』は、『スケバン刑事II』とはガラリと変わっていました。初代、二代目の「麻宮サキ」は宿命を背負った孤高のイメージでしたが、「三代目 麻宮サキ」の「風間唯」は明るいおてんば娘でした。初代、二代目は登場からすでに戦闘における強さを見せていたのに対して、唯はまだ未熟で、由真と結花、ふたりの姉の力を借りて成長しながら強くなっていきます。さらに、スケバンとはかけ離れた忍者ものでした。

 同じく「メイキング・オブ・スケバン刑事」によると、「ただのスケバンが強い敵を倒すのが『スケバン刑事』の面白さだ」「スーパーヒーローものがやりたきゃ他でやれーっ」「自分のためだけに戦う学生刑事があるかーっ」「学生刑事がなんのためにできたか忘れたかーっ」と大荒れに荒れた様子で、以降、一切観なくなったといいます。なお、それまでのプロデューサーは第2作の終了後、部署を異動していたそうです。

こちらがオリジナル。秋田書店 プリンセスコミックス『新装版 スケバン刑事』第1巻 書影

風間三姉妹フィーバーが続くなか第4作の企画は…

「メイキング・オブ・スケバン刑事」のなかで、『スケバン刑事III』終了の知らせの電話を受けた和田先生は、あくまでマンガとしての表現ではありますが、無言で受話器を置いており、それまでの流れを汲むと、第4作の制作を拒んだことが推察される描写でした。

 東映が編集に協力している『特撮ヒーローの常識 80年代編』(双葉社)によると、『スケバン刑事III』の後番組である1987年放送開始の『少女コマンドーIZUMI』は、元々スケバン刑事第4作として企画されていていたそうです。

 急遽オリジナル企画に変更され、『スケバン刑事』と差別化するため、タイトルに「コマンドー」とあるとおり、バズーカ砲やサバイバル・ソーなどの軍事兵器を使う本格アクションになりました。しかし、視聴者が見たかったのは美少女がスカートを翻してヨーヨーを投げる姿だったようで、本来の予定から大幅に短縮され全15回で終了してしまいます。

 和田先生とTVドラマ制作サイドの意思疎通ができていれば、『スケバン刑事』は「仮面ライダー」シリーズや「スーパー戦隊」シリーズのように、長く愛される長期シリーズになっていたかもしれません。しかし、そうなると、そもそも風間三姉妹は誕生せず、和田先生の意向通り孤高のイメージのままの麻宮サキが継承されていった可能性もあります。