「009」も「アトム」も死亡して完結?

 現代ほど作品数が多くなかった、昭和中期ごろのマンガといえば、手塚治虫氏や石ノ森章太郎氏、永井豪氏といった巨匠たちの作品が大衆の人気を得ていました。さらに、物語の最終話で後味の悪い展開となる「バッドエンド」が多いのも特徴のひとつといえるのではないでしょうか。今回は、昭和の名作マンガのなかから、ラストで主人公が死亡してしまう作品を振り返ります。

●『サイボーグ009』

 石ノ森章太郎氏(発表当時は石森章太郎)の代表作のひとつである『サイボーグ009』は、「主人公死亡」展開が描かれた作品として有名です。主人公の「島村ジョー(009)」を筆頭に、9人が改造人間にされ、悪の組織である「ブラックゴースト」に立ち向かうというSFアクションマンガです。

 もともとは1964年から1965年まで、少年画報社「週刊少年キング」で連載されていたものの、打ち切りという不本意な形で終わってしまいました。しかし、別の出版社からも執筆依頼があり、1966年から講談社「週刊少年マガジン」での連載が始まります。「マガジン」では「地下帝国ヨミ編」が描かれました。

「地下帝国ヨミ編」のラストでは、009がバトルの末に宇宙空間に放り出されてしまいます。009を助けるため、「ジェット・リンク(002)」がやってきたものの、ふたりは大気圏に突入し、燃え尽きてしまいます。

 主人公の死亡という結末に対し、SNS上では「石ノ森作品は悲しいラストが多いけど、例にもれず『009』もそうで、ファンとしてショックな最終話だった」などの声があがっています。連載当時も、「ジョーの死」を受け入れられなかったファンが多かったようで、「マガジン」編集部に抗議の連絡が殺到したといいます。それがきっかけになったのか、009と002が生存していたという設定で、1967年より秋田書店「冒険王」で続編の連載が始まりました。

●『鉄腕アトム』

 手塚治虫氏の代表作であるマンガ『鉄腕アトム』も、主人公である少年型ロボット「アトム」の死が描かれました。1952年から1968年に光文社「少年」で連載された同作は、21世紀の未来を舞台に、10万馬力のアトムが活躍するSFヒーローマンガです。

 もともとは1951年から「少年」で連載された『アトム大使』にアトムが初めて登場し、そのアトムを主人公にして新たに連載が始まったのが『鉄腕アトム』でした。しかし、さまざまな媒体で多くの短編が発表されていることもあり、マンガの最終話は複数あるといわれています。

 そのなかのひとつである『アトムの最後』は、講談社「別冊少年マガジン」に掲載された作品で、アトムが活躍した21世紀からさらに幾年か経ったあとの地球が舞台です。アトムはロボット博物館で保管されて眠っており、それを「丈夫」という若い男性が起動させます。主人公はこの丈夫で、あくまでもアトムは脇役として描かれています。

『アトムの最後』の世界ではロボットが人間を支配しており、ロボットから逃げていた丈夫はアトムに助けを求めます。事情を把握したアトムは、追っ手のロボットと衝突します。しかし、ひとコマでアトムが爆破されたらしき描写がされます。アトムがあまりにもあっけなく破壊され、丈夫も殺されてしまうため、とても後味が悪く感じた人が多いであろう終わり方でした。

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立ったままで絶命した野球マンガの主人公

●『侍ジャイアンツ』

 野球マンガとして人気を博した『侍ジャイアンツ』(作画:井上コオ、原作:梶原一騎)は野球を描いた作品なのにもかかわらず、ラストで主人公が壮絶な死を迎えます。

 1971年から1974年まで集英社「週刊少年ジャンプ」で連載された同作は、巨人軍に入団した主人公の「番場蛮」が、さまざまな魔球を駆使しながらエースを目指す様子が描かれました。

 優勝がかかった中日戦が描かれたクライマックスで、番場が登坂します。あとひとり打ち取れば勝ちとなるシチュエーションで、番場の最大のライバルである「大砲万作」に打席が回ってきます。疲労困憊(こんぱい)の番場は最後の最後で、体に負担がかかる「分身魔球」を投げて、見事に万作を打ち取りました。

 巨人ナインが歓喜するなか、番場のもとに駆け寄った捕手の「八幡太郎平」が、「死んでる 番場は死んでる!!」と泣きながら叫びます。体を追い込みすぎた番場は、心臓麻痺を起こし、立ったままの状態で絶命していたのです。

 まさかのラストに驚いた読者は多く、SNS上でも「仁王立ちで死ぬって無理がありすぎる」「ラストひとコマで、空から番場が笑顔でピースしている姿に『強引に終わらせた』感を強く感じてしまった」など、思い出を語る声があがっていました。ちなみにアニメ版では番場は死なず、ハッピーエンドを迎えています。