久々に会えば「歳を取ったもんだ」と、つい健康の話をしてしまう。40歳を過ぎてから、ちらほらと健康が気になり始めた方も多いのでは? 吉本興業所属のお笑い芸人兼医師・しゅんしゅんクリニックPさんの『40歳を過ぎるとなぜ健康の話ばかりしてしまうのか?』は、そんな悩めるアラフォー世代の健康にまつわる疑問を、生活習慣や健康、外見といったテーマごとに解説しています。しゅんしゅんクリニックPさんの医療知識や体験から感じたことを通じて、日常に潜む心配事に一つずつ向き合っていきましょう。
※本記事はしゅんしゅんクリニックP著の書籍『40歳を過ぎるとなぜ健康の話ばかりしてしまうのか?』(ヨシモトブックス:発行)から一部抜粋・編集しました。

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食生活を見直すコツはアメとムチの繰り返し
患者さんには「健康的な食事をしましょうね」と言っているのに自分は不健康な食生活を送ってしまう――これは医者あるあるのひとつなんですが、お医者さんたちの悲しきリアルでもあります。現場にいて思うのは、お医者さんの食生活は、残念ながら破綻していることが多いということ。忙しすぎて病院からほとんど出られないので昼ごはんはカップラーメン、夜は帰りが遅くなるからコンビニのお弁当。一般的に言われているような「ゆっくり」「バランス良く」「よくかんで」みたいな食事は、ほとんどできていません。そんな涙ぐましい食生活を送るお医者さんがいる一方で、予約困難な焼肉店や寿司店などで豪勢に会食を楽しむ、金銭感覚が麻痺したお医者さんもいらっしゃいます。夜ごとの暴飲暴食の結果、そのタイプの方々はこぞってぽっちゃりしているのも医者あるあるです。

とはいえ、すべてのお医者さんが不摂生なわけではなく、スタイル維持の努力をしている人、健康への意識が高い人ももちろんいます。若い世代に多い印象です。自分が不健康では、やっぱり患者さんに対しての説得力がなくなってしまいますもんね。ちなみに僕が勤めるクリニックの院長先生は、健康に対して異常なほどストイック。肥満や糖尿病、高血圧の生活習慣病の予防につながる〝地中海食〟(※3)を中心にした食生活を徹底しています。たとえば素揚げのナッツは常備。そして、昼食にはたんぱく質豊富な刺身を好んで食べています。
芸人さんたちの食生活は、さらにわかりやすく不摂生なものです。僕も昔はユニットコントライブのためによく深夜稽古をしていました。夜中11時に新宿の吉本本社に集まって、朝4時に終わる日々。朝にみんなでラーメン一杯食べて空腹を満たすのがルーティンになっていました。今では深夜の稽古はなくなったものの、打ち合わせなどで帰りが遅くなるのはしょっちゅうで、十中八九、終わった後に「軽くメシ行くか!」という空気になります。お酒の席の付き合いを大事にしている人たちはたくさんいて、肝臓の数値が心配な方が何人もいます。
僕も恥ずかしながら、まだまだ健康的な食生活を送っているとは言い切れません。お昼ごはんのお供は、ゼロじゃない〝ガチ〟のコーラで、コーヒーを飲むときは必ずガムシロップを投入し、夜は一日の〆にお菓子と牛乳のセットを。美容クリニックに勤めている毎週火曜日は、自分へのご褒美という口実で恵比寿の「HARBS」に行って大好物のケーキやアイスを食べています。糖分過多に思えるかもしれませんが、これでも一応、血糖値を評価する指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)(※4)の数値は、基準値内をキープしているんです! 健康にあまり良くないことはもちろんわかっているんですが、僕にとってのスイーツは、おいしさを味わうだけでなくストレス発散でもあり、しかも奥さんに買って帰れば夫婦のコミュニケーションツールにもなる。まさに一石三鳥なんです!
自分なりの食事ルールを見つけよう
そんなズボラな僕が唯一気をつけていることは、食事の際に〝ベジファースト〟を意識することです。ベジファーストとは、その名の通り野菜を先に食べること。食事で糖分を摂ると、体内の血糖値が上がります。ただし、その上がり方が急激であればあるほど、糖尿病の発症ないしは動脈硬化のリスクになり身体に悪い影響を及ぼします。その点、食物繊維を多く含む野菜は血糖値を緩やかに上昇させる効果があるとされていて、太りにくい身体を作ります。さらに野菜の後に食べる順番にもルールがあり、野菜の次に肉や魚などのたんぱく質、最後にごはんや麺類など糖質の多い炭水化物の順で食べます。同じ食事、同じカロリーでも、ちょっと順番を変えるだけでより健康な身体を維持できるんです。
食生活で言うと、「朝食は食べない」なんて方もいるんじゃないでしょうか。農林水産省の調査では、寝ている間に不足した脳のエネルギー源のブドウ糖を補給するために朝食は必要とされていて、医療の世界でも、同じカロリーを摂取するなら、朝食を含め回数を4回、5回と細かく分けて食べるほうがより肥満になりづらいというデータもあります。ただその一方で、1日3食、もしくはそれ以上の回数の食事は、それだけ胃腸に負担をかけているということでもあります。内臓の休む時間がなく、うっかり食べすぎを招きやすくもある。また、個人の体質にもよりますが、食べた分、眠くなったり身体が重くなったりして一日のパフォーマンスが落ちてしまうことだってある。タモリさん、齋藤工さん、柴咲コウさん......毎日ではないのかもしれませんが、1日1食生活を公言されている芸能人の方も少なくありません。
中には「痩せた」「肌ツヤが良くなった」「血色が良くなった」「目の下のクマがなくなった」と言われる方もいて、僕も非常に気になっています!(スイーツ我慢できるかな?)
一般的に理想的な食生活とは、栄養素のバランスが取れた食事を毎日3食規則正しく食べることだとされていますが、日々忙しい僕らにはなかなかハードルが高い。3食食べる日があってもいいし、朝起きて「食欲がないな」と感じたら、朝食を抜いたっていい。ストレスをためないためにも、そのぐらいフレキシブルにいきましょうよ。それより僕が大事にしたいのは「チートデイの翌日はウォーキングしてみよう」「仕事をがんばったご褒美にスイーツを買おう」というように、限られた時間の中でその人なりの「食事を楽しむ時間」「心が満たされる時間」をしっかり確保すること。今は、肉体的、身体的、社会的に満たされる状態=ウェルビーイング(※5)な暮らしが主流とされる時代です。引き締めるところは引き締めつつ、無理に型にはまらず自分に合った食生活を探してみてはいかがでしょうか。
※3 地中海食 イタリア、ギリシャ、スペインなど地中海沿岸の食事や食習慣を指す。肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病の予防・改善に効果的といわれ、心筋梗塞や脳卒中などの予防にも良いとされている。その特徴としては「オリーブオイルや乳製品(ナチュラルチーズやヨーグルト) を毎日摂ること」「牛肉や豚肉は月数回に抑える」「野菜や果物を多く摂る」などが挙げられている。
※4 HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー) 赤血球の中にあって酸素を運搬する成分であるヘモグロビンが血液中のブドウ糖=血糖と結合してできたもの。過去1〜2ヵ月間の長期の血糖の指標を表しており、6.5%以上の場合には糖尿病型と診断される。
※5 ウェルビーイング 英語でwell-being。世界保健機関(WHO)憲章で定められた「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にある」ことを指す。

笑いの処方せん
この先の人生で何回食事できるのだろうと思うと一食たりとも手を抜きたくない欲張りな気持ちが湧いてくる40代!



しゅんしゅんクリニックP
1983年7月2日生まれ。群馬県前橋市出身。吉本興業所属のお笑い芸人兼医師。アイドルグループ「吉本坂46」メンバー。2008年、群馬大学医学部医学科卒業。NSC東京校16期卒業後、2011年に漫才コンビ「フレミング」を結成して舞台を中心に活動するも2016年に解散。ピン芸人に転向後、医者あるあるの歌&ダンスネタ「ヘイヘイドクター」が注目を集めてブレイク。以降、テレビや舞台、YouTubeをはじめ、学園祭や医学系学会にも多数出演するなど、幅広い活動を行っている。史上最高齢で神保町よしもと漫才劇場の所属芸人となったおばあちゃんとの漫才ユニット「医者とおばあちゃん」としても活動中。