日本において年間38万人以上ががんで亡くなるなか、大腸がんが女性のがん死因の第1位となっています。特に50歳を過ぎると罹患率が高まりますが、早期発見することで内視鏡的治療による完治が期待できます。今回は国立がん研究センターの斎藤豊先生に大腸がんの予防についてのお話をうかがいました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年4月号に掲載の情報です。

偏った食生活や生活習慣を見直して予防
大腸がんの主なリスクとなるのは、肥満、加齢、飲酒、喫煙、運動不足です。
また、がん発症には遺伝的な要因が関わる場合もあることから、両親などの直系の親族に大腸がんを患ったことがある人がいる場合は、罹患率が高まる特徴があり、注意が必要です。
もう一つ、日々の食習慣も、大腸がんを引き起こしやすい原因と考えられています。
「大腸がんは日本の食の欧米化とともに患者数が増加しています。遺伝的な要因がなくても、食事などの生活習慣により発症する人も多くいます」と、斎藤先生。
便潜血検査を毎年1回受け、毎回陰性だったとしても、偏った食生活を続けていると大腸がんの発症リスクが上がる可能性があります。
「特に女性の場合は、赤身肉や加工肉を多く食べていると、発症リスクが高くなる可能性があるという報告があります。野菜や果物、魚、乳製品などは大腸がんを予防するといわれていますが、とはいえ、肉を全く食べず、それらばかりを食べていると栄養が偏ることにもなりかねません。一つの食材にこだわるのではなく、さまざまなものを食事に取り入れて食べる習慣を心がけましょう」と、斎藤先生はアドバイスしています。
運動習慣も、大腸がんの予防に効果的とされています。
無理のない範囲で運動習慣を継続するとよいでしょう。
食事や運動など、日々の生活の中でのちょっとした心がけが、予防につながります。

達人のツボ①
さまざまな検査方法
一般的には、便潜血検査と大腸内視鏡検査が行われます。大腸内視鏡検査は、検査中に大腸がんのもととなるポリープが見つかった場合は、切除も可能。他に、カプセルのようなカメラを飲み込んで大腸の様子を見る「カプセル内視鏡」、CTで大腸内の様子を立体的に再現する「 CTコロノグラフィ」などの検査もあります。

達人のツボ②
大腸がんと遺伝の関係
大腸がんの中には、遺伝による先天性異常が関係するものがあります。大腸全体に多くのポリープが生じ、大腸がんを発症する「家族性大腸腺腫症」、他の臓器のがんを併発するといった特徴を持つ「遺伝性非ポリポーシス大腸がん(リンチ症候群)」などが知られています。若い頃に発症し、繰り返し発症する場合もあります。


予防するための生活習慣
赤身肉や加工肉を摂り過ぎない
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牛・豚・羊などの赤身肉や、ベーコン、ハム、ソーセージなどの加工肉の摂り過ぎは、発症リスクを高めます。魚類や大豆製品、乳製品、野菜などもまんべんなく食べましょう。
塩分を摂り過ぎない
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塩漬けの魚(塩魚)や魚卵の摂り過ぎは、発症リスクを上げるとする報告があります。また、他のがんや心臓病にもつながります。塩分は1日7g未満を目安に摂りましょう。
飲酒はほどほどにする
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過度な飲酒は禁物。1日の飲酒量の目安はそれぞれ、ビール大瓶1本、日本酒1合、焼酎120ml 、ワイン200ml程度なら、発症リスクはそれほど高くならないことが分かっています。
適度な運動を心がける
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国内外の研究によると、体を動かす習慣は発症リスクを下げます。歩行など適度な運動を1日60分行いましょう。65歳以上は1日40分が目安。無理のない範囲でOKです。

主な治療法
内視鏡的治療
早期発見の大腸がんに適用。内視鏡を肛門から入れ、電気メスや、スネア(針金の輪)でがんを切除します。短期間の入院で済むことが多く、治療後の回復も早く、身体的負担が少なめ。
外科的手術
内視鏡的治療が難しい場合に適用する開腹手術。肛門近くの直腸がんの手術では、肛門を残す場合と、人工肛門(ストーマ)を作る場合など、部位やがんの進行度合いで方法が変わります。
腹腔鏡下手術
おなかに小さな穴を数カ所開け、腹腔鏡の付いた医療機器を挿入して行う手術。進化したロボット支援下手術も保険適用になっています。開腹手術よりも術後の回復が早いのが特徴です。
薬物治療
抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など、さまざまな種類があります。がん細胞の持つ遺伝子によって薬を選択することで、より効果的な治療が行われています。
構成/岡田知子(BLOOM) 取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史



国立がん研究センター 中央病院  内視鏡センター長・ 内視鏡科長
斎藤 豊(さいとう・ゆたか)先生

1992年、群馬大学医学部卒。三井記念病院消化器内科医員/医長、国立がんセンター中央病院内視鏡部医長などを経て、2012年より現職。大腸がん内視鏡手術の名医として、日本消化器内視鏡学会などの指導医も務める。