毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「仲間たちの無念」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
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女性法律家のさきがけ・三淵嘉子をモデルとする、吉田恵里香脚本×伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の第6週「女の一念、岩をも通す?」が放送された。

法学部最終学年になった寅子(伊藤)たちは初めて高等試験に臨むが、意外にも寅子たち同期女子は筆記試験で全員不合格に。女子で唯一筆記を通過した先輩・久保田(小林涼子)も二次の口述試験で不合格となったが、もっと意外だったのは、花岡悟(岩田剛典)と稲垣だけが合格したこと。ちなみに、ストレスに弱い優三(仲野太賀)がまたも不合格だったのは悲しいが、予想通り......。

この結果を受け、大学は来年以降の女子部新入生募集中止を発表する。本来、受験者数の男女比を考えると、大多数を占める男子が2人しか合格していないのだから、女子の合格者0は当然だろうに、女子はすぐさま結果を求められる理不尽に「はて?」。しかし、そこですぐさま抗議の声をあげ、学長に直談判し、女子の誰かが高等試験に合格すれば募集を再開するという約束を勝ち取ったのは、寅子でもよね(土居志央梨)でもなく、崔香淑(ハ・ヨンス)だった。

寅子は働きながら次の試験を受けることに。しかし、そんな中、明らかになったのは、香淑の兄が思想犯の疑いをかけられ、帰国していたこと。香淑は女子部のみんなと後輩たちの可能性をつなぐために残ったが、日中戦争の影響もあり、帰国を決意する。悔しい思いを抱えつつ、良い思い出で別れるため、寅子はみんなで海へ行くことを提案。「いつもの5人で」と言ってから、涼子(桜井ユキ)お付きの女中・玉(羽瀬川なぎ)を見て「6人で」と言い直す梅子(平岩紙)に泣かされるし、別れる間際に、国での名前を尋ねる涼子にも、「チェ・ヒャンスク」と聞くとすぐに「ヒャンちゃん」と新たな愛称で呼ぶ仲間にも、海辺で戯れる女子たちの姿にも、その輪から少し距離を置きつつも、涙をぬぐったように見えたよねにも、何度も泣かされる。ちなみに、そこは曇天の空に寂しくよどんだ海で、思っていたような光景ではなかったが、香淑の幸福を祈るように、うっすら光が射していった。実はこれは撮影中に実際に起こった奇跡だったそうだ。

しかし、悲しい別れはまだ続く。涼子の父親が芸者と駆け落ちしたことで、涼子は母のため、家のために男爵家の子息と婚約したため、高等試験を断念する。言いたいことは山ほどあるだろうが、涼子に自分の思いを真っすぐぶつけることも、自分の価値観を押し付けることもせず、涼子の立場や境遇に思いを馳せ、誰より辛いはずの涼子の思いを汲んで祝福する寅子。寅子を人として心底信頼できるのはこういう点だ。

しかし、試験当日、梅子の姿も会場になかった。実は梅子は夫から試験日に離婚届を突きつけられ、三男を連れて家を出たのだった。妻を見下してきたモラハラ夫は、妻が合格すると自分と同じ地位になることを恐れ、最も効果的なタイミングと効果的な方法で心を壊しに来たのか。共同親権の問題点が指摘される中、この「モラ夫あるある」の解像度の高さは一部視聴者たちの間で話題になっていた。

寅子、よね、優三、轟(戸塚純貴)、中山(安藤輪子)は筆記試験を通過。しかし、口述試験前日に寅子は生理になってしまう。実際、筆記試験やスポーツの大会などに生理が重なると、実力を全く発揮できなくなる人もいれば、妙な集中力で自己最高記録を出すような人もいる。そのくらい生理の問題は人それぞれだが、ピルなどでコントロールする選択肢もある今ならいざ知らず、この時代を生きる寅子の辛さは...。しかし、もっと辛いのは、体調不良で実力が発揮できなかったはずの寅子が合格し、久保田、中山、轟も合格したが、優三は不合格になったこと。寅子のおかげで緊張せずに臨むことができ、実力を発揮できたはずが、それでも越えられない高い壁...。

優三は一瞬の落胆と悲しみの後、心の整理をし、笑顔で寅子を祝福する。優三の表情の変化だけで泣きたくなるが、桂場(松山ケンイチ)は同じ成績なら男の方をとると言った。これは近年も医大の女子差別問題が明らかになったように、令和の今もいろんなところでまかり通っている理不尽だ。そして、そうした理不尽を乗り越えて合格した寅子たちのぶっちぎりの実力を目の当たりにした優三が、潮時を感じるのは無理のないことで、厳しく残酷な現実だったろう。寅子にとって本当は一番嬉しいはずの合格のとき、共に戦ってきた仲間たちはもういない。

寅子たちの合格はマスコミをにぎわし、女子部の志願者は激増。しかし、記者たちの前で、法改正がなされても続く女の不利・理不尽への思いをぶちまける。その大いなる「はて?」は、寅子だけのものじゃない、去って行ったヒャンスクや涼子、梅子、あと一歩まで来たのに理不尽に落とされたよね、その他多くの女性たちの無念の上にあるものだ。

きっとここはまだ地獄の始まり。この先どんな地獄が描かれるのか注目していきたい。




文/田幸和歌子

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。