役所食堂の魅力

 筆者(下関マグロ、フリーライター)は、役所の食堂が大好きだ。

 初めて行ったのは予備校に通っていたときだった。地方の市役所の食堂が一般開放されていると知って、結構うれしかった。そして何より、値段の安さに引かれた。普段は一番安いカレーライスを食べていたが、お金があるときはカツ丼も食べたような記憶がある。

 上京してからは、区役所の食堂で食事をした。最初は住んでいる区の区役所の食堂だったが、散歩関連の原稿を書くためにあちこち歩くようになってからは、いろいろな区の区役所の食堂を訪ねた。

 東京23区の区役所食堂はそれぞれ特色があり、食べるのが楽しくて、しばらくはいろいろな区役所の食堂を食べ歩いていた。

 慣れない区の区役所に行くには、コミュニティーバスが便利だと気づいたのはつい最近のことだ。コミュニティーバスは、自治体などが地域住民のために運行するバスである。路線バスのように幹線道路を走るのではなく、住宅街の細い道を走るのが特徴だ。

 地域住民のために運行されるため、区役所やその近くに停車することが多い。

練馬区役所では6枚の路線図が配布されていた(画像:下関マグロ)

Kバスの日常風景

 今回、筆者は北区を選んだ。北区役所の食堂には、ユニークなカレーライスがあるらしい。まずは山手線に乗り込む。ちなみに、北区にはJRの駅が11駅もある。北区は東京23区で最もJRの駅が多いという。

 JR京浜東北線の王子駅から北区役所までは歩いて5分ほどだが、今回はKバスに乗ろうと、山手線の田端駅で降りた。Kバスの「JR田端駅」停留所は北口から徒歩2分のところにある。停留所には「北区コミュニティーバス」とだけ書かれていて、Kバスの文字はない。桜の花びらがKのマークを形作っているイラストがあるだけだ。

 筆者は「Kバス」という名前が好きなのだが、どうも浸透していないようだ。インターネットで検索してみると、三重県の北部に位置する桑名市が運行するコミュニティーバスが「K-バス」と呼ばれていることがわかった。

 このバスは2001(平成13)年に運行を開始した。北区のコミュニティーバスが本格運行を開始したのが2010年だから、桑名市のバスが先行していることになる。ハイフン付きの「K-バス」が桑名市、ハイフンなしの「Kバス」が北区である。桑名市は「けーバス」、北区は「けいバス」と読む。

 さて、JR田端駅停留所の時刻表を見ると、Kバスは1時間に3本ほど走っているようだ。ちょうど出発したところで、次のバスまでまだ時間があった。そこで、すぐ隣にある田端文士村記念館をのぞいてみることにした。入館料が無料なのがうれしい。田端は、大正から昭和初期にかけて多くの小説家や詩人の住んだ街だった。田端に住んでいた有名人には、芥川龍之介、萩原朔太郎、菊池寛、堀辰雄などがいる。

 停留所に戻る時間になると、間もなくKバスが到着した。小型のノンステップバスで、よくあるタイプのコミュニティーバスだった。ノンステップバスは和製英語で、出入り口の段差が少ないバスを意味する。前のドアから乗り、後ろのドアから降りるスタイルのようだ。運賃は前払い。現金のほか、パスモやスイカなどの交通系ICカードも使える。筆者はパスモで乗車した。運賃は100円だ。

Kバス(画像:下関マグロ)

Kバスの乗り継ぎシステム

 Kバスにはふたつのルートがある。ひとつは今回乗った「田端循環ルート」、もうひとつは「王子・駒込ルート」だ。北区役所の停留所は王子・駒込ルートにあるので、バスに乗ると運転手が乗り継ぎ券をくれた。

 田端循環ルートは、JR駒込駅からJR田端駅を経由してJR駒込駅に行く循環ルートである。このルートでJR駒込駅まで行き、「王子・駒込ルート」に乗り継ぐ予定だ。乗り継ぎ券はコミュニティーバスでよく使われるが、ちょっとわかりづらかったりする。

 まず、バスに乗るときに運転手に券をもらう必要がある。しかも、どこでも乗り継ぎができるわけではなく、できる停車駅が決まっていて、そこでしかできない。

 Kバスの場合、乗り継ぎが可能な停留所はふたつある。ひとつは「JR駒込駅バス停」で、これは両ルート共通の停留所だ。もうひとつは、田端循環ルートの「滝野川会館」と王子・駒込ルートの「旧古河庭園」で、相互に乗り継ぎができる。その他の停留所での乗り継ぎはできないので注意が必要だ

北区役所の食堂で提供されている「カレー王子」500円。価格は取材時のもの(画像:下関マグロ)

星型のコロッケがかわいいカレー

 というわけで、JR駒込駅で王子・駒込ルートに乗り継いだ。ちなみにJR駒込駅は北区ではなく、豊島区にある。王子・駒込ルートを走るバスもノンステップの小型バスだ。

 JR駒込駅から霜降橋、旧古河庭園、飛鳥山公園、JR王子駅を経て北区役所に到着した。それにしても、停留所のアナウンスを聞いているだけで、バスを降りて途中を散歩したくなるコースだった。

 北区役所の食堂に到着。ここの名物は「カレー王子」というメニューだ。区役所のある王子にちなんだものだろう。しかし、名前は「王子カレー」ではなく「カレー王子」である。ネーミングがすてきだ。食品サンプルケースには

「可愛い『星』コロッケが入ったカレーです。隠し味に北区滝野川の『トキハソース』使用」

とあった。地元の食材を使っているのだ。価格は500円。

 筆者はコロッケカレーが好きなのだが、この星型コロッケはカラッと揚がっていて結構おいしい。ポイントが高い。星型だからか、衣のサクサク感がすごい。

 決して奇をてらっているわけではない。それはカレーを食べてみればわかる。よく煮込まれていておいしい。ニンジンは柔らかい。そして結構スパイシーだ。食べ終わる頃には、辛いものが得意ではない筆者の額は少し汗ばんでいた。いやぁ、おいしかった。

 もちろん、帰りもKバスに乗ろう。来たときは座れたのに、帰りのバスは超満員だった。地元の利用者が多いのがわかる。

Kバス(画像:下関マグロ)

「浮間ルート」新設

 北区といえば、赤羽のイメージが強い。昼間から酒を飲みに散歩に出掛けたことも何度もある。

「いつかKバスが赤羽を走りますように」

などと最後に書こうと思ったが、2024年3月27日からKバスが赤羽を走っていることが判明した。それが「浮間ルート」だ。

 北赤羽駅、浮間舟渡駅などを通っているという。いやぁ、びっくり。気づかなかった。これはいい。今度、このルートのKバスに乗ってみたいものだ。