スタンドの変革

 昨今の原油価格の高騰や電気自動車(EV)の台頭は、ガソリンスタンドにも影響を及ぼしている。

 日本ソフト販売(東京都中央区)が行った調査によると、2022年4月から2023年4月までの1年間のガソリンスタンドチェーンの店舗数は、全体で

「1.6%減少」

した。大手チェーンは軒並み減収となった。

 このようにスタンドの存続が危ぶまれるなか、近年は“一体型”のスタンドが増えている。例えば、東京都渋谷区には

・昭和シェル石油
・ピザハット

が共同で運営する店舗があり、給油とピザの持ち帰りができる。また、出光のスタンドには「パンの壺」というベーカリーもあり、給油ついでに焼きたてのパンを買うことができる。

 特筆すべきは、スタンドとコンビニエンスストアが一体化した店舗だ。

・飲料
・菓子
・雑貨
・弁当

などが売られており、給油ついでにちょっとした買い物ができる。本稿では、なぜスタンドとコンビニが一体化しつつあるのか、その背景を掘り下げてみたい。

セルフ式スタンドが併設したローソンMK神戸空港前SS店(画像:ローソン)

1か所での複数ニーズ

 その魅力は多岐にわたる。

 まず、スタンドにコンビニが併設されることで、燃料の販売だけでなく、燃料以外の商品の販売による収益の増加が期待できる。これは事業の多角化に寄与し、経営の安定性を高める。

 また、ドライバーは給油のついでに食料品や日用品を購入できるようになり、1か所で複数のニーズに対応できる利便性が高まる。

 さらに、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もある。例えば、ドライブスルー型のコンビニができれば、車での買い物がさらに便利になるかもしれない。また、EVの普及にともない、充電スポットが設置されれば、新たな顧客層を獲得できる。

 このように、一体化は、増収、利便性向上、新たなビジネスチャンスなど、多くの魅力を持っており、これからの時代にふさわしい新しいビジネスの形といえるだろう。

コンビニで買い物をする人(画像:写真AC)

地域コミュニティの拠点化

 コンビニが少ない地域では、コンビニ併設スタンドは、地域住民にとって重要な生活インフラとなっている。地域住民の日常生活を支え、地域経済にも貢献している。社会的役割も大きい。

 また、地域コミュニティの一部となり、地域住民の集いの場ともなりうる。

 特に、高齢者や体の不自由な人にとって、近くにあるコンビニ・スタンドは、生活必需品を手に入れるための重要な場所である。また、災害時の避難場所や情報提供の場として、地域の安全にも貢献している。

 これらの店舗が果たす社会的役割は、単に商品を販売するだけでなく、地域コミュニティの一員として機能し、地域の人々の生活を支えるという大きな意義がある。

宇佐美に併設されたコンビニの店内(画像:宇佐美)

一体化の課題

 ドライバーの利便性向上と収益性向上の傾向は今後も続くと予想される。この流れは消費者ニーズの変化や市場動向によって形成されており、今後の動向が注目される。

 しかし、いくつかの課題がある。

 まず、十分な土地面積が必要である。都市部など土地が限られている場所では、このような大規模な施設の設置は難しいかもしれない。第二に、スタンドとコンビニの両方を運営するには維持費がかかる。建物の修繕費、設備の更新費、電気、水道、ガスなどの光熱費、人件費などである。

 また、スタンドは揮発性の高いガソリンを扱うため、火災などの危険性があり、消防法の厳しい規制を受ける。具体的には、

・火災時の対応計画
・消火設備のメンテナンス
・可燃物の保管

などである。

 消防法については、2018年から経済産業省で規制緩和が検討され、方針も発表されているが、具体的な内容や改正内容は未公表のままだ。そのため、スタンドなどの一体店舗は徐々に増えているものの、消防法に抵触するスーパーや飲食店の併設は基本的に認められていない。

 こうした理由から、スタンドとコンビニの一体化は一見便利に見えるが、実際には多くの課題が存在する。これらの課題を解決しながら、利便性と採算性をいかに両立させるかが今後の課題となりそうだ。