女性ユーザーの増加

 近年、女性が自動車を運転するシーンが一般的になり、運転手の道を選ぶ女性が増えている。特にトラックドライバーやタクシードライバーは増加の一途をたどっており、時短勤務や職場の雰囲気改善、負担軽減といった印象が広がっている。

 2023年の日本自動車整備振興会連合会の統計によると、女性整備要員(整備士免許を持たずに整備工場で働く女性)の数は1万9237人。前の年と比べて

「632人」

も増加しており、整備業界でも女性の活躍が目立つ。また、プライベートで車を所有する女性も増えた。スズキのジムニーは、「ジムニー女子」と呼ばれる女性ユーザーの比率が男性を上回り、納車は1年待ちの人気ぶりである。

 女性の自動車ユーザーの増加を受け、自動車メーカーは、女性ユーザーの需要に応える自動車の商品展開を行っている。

 BMWは女性ユーザー向けの限定車「118i ファッショニスタ」を発表。購入者には特典としてクリスチャン・ルブタンのバッグとチャームがプレゼントされる。この発表から『エル・ジャポン』とコラボレーションしたキャンペーンを行っている。また、日産も室内に裏デニムを使用したビームスとのタイアップ車「ルークス ビームス カスタマイズド コンセプト」を公開した。女性をターゲットに

・特別感
・自動車を選ぶ楽しみ
・自動車を所有する喜び

をアピールする狙いがある。

女性視点の商品開発

 女性トレンド総研が2023年4月に発表した調査結果によると、家庭内の購買における女性の影響力は75.5%に達している。このため、自動車の購入にも女性の意見は影響力を持つことが予想できる。

 自動車メーカーは、女性の視点を重視し、商品開発から販売戦略まで幅広く女性のニーズに応える取り組みを進めている。そのひとつに積極的な女性社員の採用がある。ホンダは以前まで女性の採用比率は10%ほどだったが、2017年以降は約20%まで増加している。

 女性はライフステージの中で「女性」「娘」「母」「妻」「嫁」など、さまざまな立場で活動を行う人が多い。自動車メーカーは、同じ立場の女性社員の雇用で、彼女たちの意見を取り入れ、自動車開発に反映した取り組みもひとつの戦略と考えているからだ。

 例えば、

・企業内保育所の設置
・子どもが2歳まで育児休職を付与
・子の看護休暇付与

など、子どもを育てやすい環境づくりの整備である。これによって、育児を理由に離職する人が女性社員が減り、長く働ける自動車メーカーが増えている。

 すでに結果に表れている事例もある。女性管理職のチームが女性のニーズを自動車の商品開発に取り込んで販売した結果、車の販売台数が大幅に伸びた事例も報告されている。

女性ドライバー(画像:写真AC)

多様性への対応

 女性の使いやすさを重視した自動車は、女性に限らず多様性にマッチする魅力的な特徴を備えているといえる。

 リアバンパーの下に足をかざすだけで、ハッチバックが自動で開く「オートパワーゲート」は、子どもを抱っこしているママが荷物を載せやすい利点がある。この機能は、ゴルフバッグふたつを両手に持った紳士やサーフボードを持った男性にも便利な機能である。

 また、トヨタ、レクサス、スズキ、三菱、ジャガー・ランドローバーなど主要な自動車メーカーのモデルに搭載されているナノイーX搭載エアコンは、女性の肌や髪に保湿効果のあるペットやタバコの匂いを抑える脱臭効果やカビ・ウイルス・花粉の抑制も期待できる。

 360度モニターや駐車支援機能などの先進技術は、運転に苦手意識を感じている女性にうれしい機能であり、地方で必要に迫られて運転している高齢者ドライバーにとって心強い味方になるだろう。

 紫外線(UV)カットガラスやシートヒーターなどの装備、正しいドライビングポジションをサポートするテレスコピックステアリングやメモリ機能付き電動シートなど「あったら便利」な機能は、女性ユーザーはもちろん、幅広いユーザーに快適なカーライフを提供できる。

 このように、女性ユーザーが

「使いやすい」
「便利だ」
「欲しかった」

と感じる自動車のポイントは、多様性にマッチした自動車の提供につながっている。

ユーザー志向の進化

 現在、環境に配慮した電気自動車や、安全機能が搭載された自動車、多様なシーンにマッチした積載量の多い自動車など、さまざまな自動車の開発が行われている。

 この流れは、女性の自動車ユーザー増加により、女性をターゲットにした自動車開発と合わせて、今後も続くと予想される。

 女性ターゲットから、ユーザーフレンドリーな自動車の開発は、幅広いユーザー層にとって有益である。自動車がより使いやすく、快適で安全なものになることは、より多くの人々の自動車利用を可能にするだろう。

 このような取り組みが、より持続可能で、より利用しやすい未来の自動車社会を築く一助となることを期待している。