欧州議会でユーロ7が採択

 自動車からの大気汚染物質の新たな排出基準などを定める新規則Euro7(以下、ユーロ7)について、3月中旬に欧州議会で賛成297、反対190、棄権37で採択された。

 2022年11月に、欧州委員会がユーロ7の案を公表してから1年以上経過して、やっと採択までこぎ着けたといったところだ。しかしながら、ユーロ7は当初案から

・自動車工業団体による技術的な難易度や実現性に関する疑問
・環境保護団体によるより厳しくすべきという主張

などさまざまな方面に物議を醸し出した結果、自動車工業団体と環境保護団体と政治家の三つどもえで決着したといってもいい。

 最終的には、規制内容が当初案より大きく後退するとともに、適用開始時期についても当初案では乗用車・バンは2025年7月1日、大型車は2027年7月1日としていたが、それぞれ施行から30か月後、48か月後と先延ばしとなった。総じて、自動車工業団体に配慮した形となったが、もちろん環境保護団体は

「現行のユーロ6と何ら変わりない」

と、反発したのはいうまでもない。

ブリュッセルの欧州委員会本部(画像:エムディー)

ユーロ7の主な変更内容

 ユーロ7のユーロ6からの大きな変更点は、次のとおりだ。

・排出ガス規則の統合
・排ガスに含まれる粒子の検出粒径下限値の変更
・自動車のコンポーネントシステムの耐用年数の設定
・ブレーキ時に排出される汚染物質排出規制

 排出ガス規則の統合により、これまで乗用車・小型商用車(バン)と大型車(トラック、バス)で別規則だったのを、ユーロ7でひとつの規則に統合し、車種ごとの排出基準などを定めた。ただ、規則を統合したものの、排ガスに含まれる汚染物質の排出測定限界値は、ユーロ6から変更がない。この点が、環境保護団体の第一の不満となった。

 排ガスの汚染物質の排出測定限界値は変更しないものの、粒子数(PN)検出の粒径の下限値を現行の23nmから10nmに引き下げた。これにより、今まではスルーしていたより小さな粒子まで規制の対象となる。

 自動車のコンポーネントシステムの耐用年数の設定に加え、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の場合、バッテリーの寿命が設定される。5年または10万kmでの容量が元の80%、8年または16万kmでの容量が元の72%が下限値となる。現在多くの自動車メーカーでは、

「8年、16万km、容量70%」

の保証を採用しており、現状に合わせた形といってもよいだろう。

 ブレーキ時に排出される汚染物質の排出規制は、ユーロ7ではパワートレイン別に定められている。EVのPM10(10マイクロメートルの粒子状物質)制限値は3mg/km、EV以外は7mg/kmとなる。

2024年3月25日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)

ユーロ7実施に向けて残された課題

 3月に採決されたのはあくまでも制限値を定めた一次立法にすぎず、詳細はこれから決めるという。自動車工業団体によると、適用開始までのリードタイムが確保できたものの、依然として技術面、資金面での課題が残るという。

 ブレーキ粉じんの粒子状物質(PM)排出試験は、国連による国際試験方法GTR No.24に基づくとされているが、詳細は未定だ。またPM10制限値は、ユーロ7ではパワートレイン別に制限値を設定しているものの、2035年からは一律3mg/kmとなる予定。さらに2030年から追加の粒子数制限値が設定される計画もあるが、詳細は決まっていない。

 このほか、ユーロ7では、走行距離計、噴射システム、排ガスシステムの制御ユニットを外部から操作できなくする仕組みが必要であるが、もちろん実施規則は決まっていない。排出超過を検出するオンボード監視システムの搭載も規定されているものの、もちろんその要件は未定だ。

 一部の自動車メーカーやサプライヤーは間に合うとしているが、本当に実装に間に合うのかという懸念が残るのが現状だろう。

欧州の道路(画像:写真AC)

板挟みのユーロ7

 当初案より緩くなったユーロ7に環境保護団体は不満であるが、2035年にゼロエミッションの乗用車しか新車販売できなくなるにも関わらず、今更ながらガソリン車・ディーゼル車へのさらなる技術開発や投資が迫られる矛盾に対し、自動車メーカーやサプライヤーが弱腰になるのはわからないでもない。

 また、車両1台あたりの追加費用も議論の的となっていた。欧州委員会は、ユーロ7(当初案)の実装には、1台あたり平均して80〜180ユーロ(約1万3000〜3万円)の追加費用を試算していたが、自動車工業団体の試算では4倍から10倍になり、世界的にみてヨーロッパ自動車産業の競争力が低下する懸念があると主張。当初案の緩和で追加費用の議論はひとまず下火となったが、細部まで決められていない規則が数多くあり、額の大小はあるものの追加費用は避けられないかもしれない。

 そもそも環境保護に向けて基準は厳しくなる反面、高価格となる自動車をいったい誰が喜ぶのだろうか。

 環境委員会のメンバーであるチェコの副議長は、ヨーロッパの産業と市民の両方に害を及ぼす環境政策を追求することは逆効果であるとし、

「環境目標と製造業者の重要な利益のバランスを取ることに成功した」

と、欧州会議の採決後に述べている。環境保護団体は不満だろうが、現実的というか、至極まっとうな感想と思えなくもない。