原田眞人監督によるクライムサスペンスエンタテインメント『BAD LANDS バッド・ランズ』(公開中)で、あらゆる悪意と欲望が渦巻く世界を生き抜こうとする姉弟役として、安藤サクラと山田涼介が初共演を果たした。姉のネリ(安藤)と弟のジョー(山田)による絶妙な掛け合いも本作の大きな見どころとなっているが、ネリのことが大好きでたまらないジョーを演じた山田について、安藤は「めちゃくちゃカッコよくて心を持っていかれました」と大絶賛。一方の山田も「安藤さんとお芝居する時間が、楽しくて仕方がなかった」と撮影の日々を愛おしそうに懐かしむ。最高にクールで、最高にヤバい姉弟を演じた2人が、お互いへの信頼を明かした。

■「自分にとって挑戦すべき作品なのではないかと感じました」(安藤)

黒川博行の傑作小説「勁草」を映画化した本作。特殊詐欺に加担するネリと弟のジョーがある日、思いがけず“億を超える大金”を手にしてしまい、金を引きだすだけのはずが、様々な巨悪に追われていく姿を描く。姉弟を取り囲む面々はいずれも曲者ぞろいで、誰が味方で敵なのかわからない騙し合いバトル、次第に明らかとなるネリとジョーの過去など、予測不能のスリリングな展開で観客を魅了する。

――安藤さんは、原田眞人監督作品に初参加となりました。本作のオファーが舞い込んだ時の感想を教えてください。

安藤「原田監督の現場には憧れがありながらも、勝手に『私には一生お声がかからないんじゃないかな?』と思い込んでいたんです。だからこそお話をいただいた時には、武者震いするようでもあり、自分にとって挑戦すべき作品なのではないかと感じました。同時に不安もあったので、『私で大丈夫ですか?』と監督に相談に行って(笑)。自分自身、新しい刺激を求めていた部分もあるので、山田くんとバディとして共演できるということもとてもうれしかったです」

――原作では男性だった主人公ですが、脚本も担当された原田監督がネリという女性に大胆に脚色しました。ネリについて、監督とはどのような話し合いをされたのでしょうか。

安藤「脚本を読んだうえで、原田監督にお会いした時に『キャラクターの印象が強いわけではないのに、観終わったらなぜか彼女の存在が心に残っている。そんな主人公がいいと思いました』と伝えさせていただきました。たくさんインパクトのあるキャラクターが出てくるからこそ、印象の薄い主人公を演じられたらいいなと。監督にもその想いを受け取っていただいて、撮影に臨みました。またちょっとした言葉のニュアンスからも感じられるネリの優しさは、演じるうえで大事にしたいなと思っていました」

――山田さんは、『燃えよ剣』に続いて2度目の原田組への参加となります。

山田「前回もとても刺激的な現場を経験させていただいたので、また原田監督にお声がけをいただいたら迷わず出演させていただくというのは、自分の中では決まっているようなところもありました。作り上げる世界観を含め、それくらい魅力的なものを持っている監督だと思っています。原田監督の現場は、自分が進化していくうえで絶対に大切な場所になると確信しているので、今回も迷わず参加させていただきました」

――今年30歳を迎えた山田さんですが、危険な魅力を持ったジョーは、ご自身にとってもまた新境地となるようなキャラクターだったのではないでしょうか。

山田「30歳になって、ドラマでは王道ラブストーリーのキラキラとした役柄をやらせていただいたり、本作のジョーのような役柄があったりと、幅が広がってきたのかなと思う部分もあります。僕自身もいつも新しい姿を見せたいと思っていますし、本作をご覧いただく皆さんにも、俳優として『こんな一面もあるんだ』と思っていただけたらとてもうれしいです」

――ジョーという難役を預けた、山田さんへの信頼度の高さも感じます。

山田「原田監督は、俳優のことをすごくよく見てくれているんですよね。実は今回、あるシーンでなぜだかものすごく緊張してしまったシーンがあって。その時には、原田監督から『涼介、緊張しているだろう』と言われました(笑)」

安藤「そんなに緊張していたシーンがあった?私がいなかったシーン?」

山田「いました。ネリとジョーで、ある家のピンポンを押すシーンです」

安藤「なんで、あのシーンで緊張しちゃったんだろう」

山田「それが全然わからないんですよね(笑)。でも原田監督はそんな僕を笑っていじってくれたりして、本当に愛情深い監督だなと思っています」

■「安藤さんと姉弟という関係性でご一緒できて、勉強になることばかりでした」(山田)

――お二人は本作で、姉弟役として初共演を果たしました。特別な絆を持つネリとジョーとして対峙してみて、いかがでしたか。

安藤「山田くん、本当にすばらしかったです。こんなに美しいのに、ジョーとしてのだらしなさもちゃんと表現されていて(笑)。山田くん演じるジョーには、そのすべてが愛おしくなるような人間臭さがありました。現場では、監督からの要求に応える瞬発力と度胸に驚きました。それは私にはない、賜物です。また瞬発的に出てくるお芝居を見ていると、『とても頭のいい方なんだろうな』と思って。試写で作品を観ても、めちゃくちゃカッコよくて心を持っていかれましたね。撮影でジョーとやり取りをして、ホテルに帰ってテレビをつけたら、ちょうど山田くんが歌ったり踊ったりしていたんですよ!そのカッコよさはもちろん知っていましたが、本作は山田くんの芝居にシビれる映画。ぜひこの山田涼介を観ていただきたいです。試写を観終わって監督に言いましたもん。『山田涼介、ヤバい!』って」

山田「そんなふうに言っていただけるなんて、本当にうれしいです。安藤さんとは今回が初共演ですが、実はプライベートでたまたまお会いしたことがあったんですよね」

安藤「すごく昔のことだよね」

山田「かなり前のことですよね。バーのカウンターでたまたま隣になって、挨拶をさせていただいて。そうしたらものすごくフランクに話をしてくれて、僕はもうその瞬間に安藤サクラさんという人が大好きになったんです。いい人!って」

安藤「いい人だった(笑)?私はそんなに外出するタイプではないのですが、たまたまお店に行ったら山田くんが隣にいて。緊張しちゃって、どう接したのか覚えていない!」

山田「ものすごくいい人でしたよ。その後に日本アカデミー賞の授賞式で、またお会いすることができて。そこでも『わー!』と駆け寄るようにして話してくださって。またまた『なんていい人なんだろう』と思ったんです。そんな安藤さんが僕は人としても大好きですし、女優さんとしても尊敬すべき大先輩です。いつか共演してみたいなと思っていましたが、姉弟という関係性でご一緒できて勉強になることばかり。毎日が刺激的でした。安藤さんとお芝居する時間が、楽しくて仕方がなかったです」

■「最強のバディ!と思っています」(安藤)

――ネリとジョーによる絶妙な掛け合いが本作の大きな魅力になっていますが、特に印象深いシーンはありますか?

安藤「監督からは、山田くんに対する無茶振りも多かったよね。『涼介、これやってみて』『これ言ってみて』とかいっぱい無茶振りされていた気がします。でも山田くんはそれをすぐに受け入れて、迷いなくお芝居として返してくることができるんです。『すごいな!』と思いました。また、大雪が降った日も印象的です。『こんなに雪が降っているのに、映像に収められないのはなんだかもったいないね』と話していたら、原田監督が『いいじゃん!撮りに行こう』と言ってくださって。すごくいいシーンになっていると思います。本作では、監督の息子さんである(原田)遊人さんが編集を組み立てていらっしゃっているので、そういった決断ができるのも、家族ならではの信頼関係があるからこそなせる技だったのかなとも感じていて。私も家族で映画や現場を作ることがあるので、そういった関係性や絆にとても安心感がありました」

山田「滋賀県の彦根市で撮影をした時に、大雪が降ったんですよね。原田監督と安藤さんと僕でホテルを出た時に、『すごい雪だな…』と驚いたんです。かなり積もっていて、車で進むこともできないので、歩いて行って撮影をしました。『それを活かそう』ということになった時も、やっぱり監督は安藤さんを信頼しているんだなと感じました。安藤さんの一言がなかったら、そのシーンはないわけですから。また今回、関西に生きる人々の生っぽいやり取りができたのは、セリフを被せていくような会話を心がけていたことも大きく影響しているのかなと。原田監督からは、『もっと速く』とセリフのスピードについて演出していただいたことをよく覚えています」

――改めて、ネリとジョーはどのようなコンビになったと思いますか?

安藤「最強のバディ!と思っています。ポンコツだけれど、すごくいいバランスの2人ですよね。そこに宇崎竜童さん演じる曼荼羅が加わって、いいトリオになっています!」

山田「曼荼羅は、本当にいいスパイスになっていますよね。ジョーはとにかくお姉ちゃんのことが大好きで、『ネリ姉のためにあれをしよう、これをしよう』『いまのネリ姉のためになにができるか?』ということをずっと考えながら生きている人なんです。ジョーは自分のことを『サイコパス』だと言っていますし、予告編や作品カットを見ているとクールなやつに見えるんですが、全然そんなことないんですよね」

安藤「全然クールじゃない(笑)!」

山田「陽気な弟です(笑)」

安藤「でも本当にとてもカッコいいので。皆さんにもぜひシビれてほしいです!」

取材・文/成田おり枝