映画が始まってすぐ、1980年代の“あのころ”にタイムスリップし、いろいろな熱い想いがこみ上げてきた。その映画とは、2週間限定で3月1日より公開中の『チェッカーズ 1987 GO TOUR at 中野サンプラザ【デジタルレストア版】』のこと。映像には、当時絶大なる人気を誇った人気バンド、チェッカーズの輝きが鮮度そのままで焼き付けられている。本作でチェッカーズの“時代に愛されたバンド”ならではの力強いエナジーを感じつつ、いまもなお色褪せることのない楽曲とパフォーマンスの魅力をかみしめた。

※以降、映画の核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■人気絶頂期のチェッカーズの“幻のライブ”

1983年にデビューし、日本の音楽シーンを席巻後、1992年に惜しまれながら解散したチェッカーズ。デビューから40周年を迎えるなかで公開となる『チェッカーズ 1987 GO TOUR at 中野サンプラザ【デジタルレストア版】』。本作に収められた「GO」ツアー、中野サンプラザ公演は、当時一部のファンしかチケットを入手できなかった“幻のライブ”ともいわれていた公演だ。これまでに発売された「GO」関連の映像商品にも、中野サンプラザでの演奏は3曲しか含まれておらず、そのほとんどが未発表のため、現在まで幻であり続けてきたライブだ。

また、同ツアーは、チェッカーズがメンバーの自作曲で固めたアルバム「GO」を引っ提げて行った、最も脂ののっていた時期のライブでもある。登場するチェッカーズのメンバーは、藤井郁弥(※現在は藤井フミヤ、リードボーカル)、藤井尚之(サックス)の兄弟に、武内享(ギター)、高杢禎彦(サイドボーカル、パーカッション)、大土井裕二(ベース)、鶴久政治(サイドボーカル、キーボード)、徳永善也(ドラムス)の7人。まずは冒頭で、コンサート開始前に撮影したと見られる、楽屋でのメンバーたちによるオフショット映像が流れる。

そこにはタバコを輪に吹く郁弥らしい仕草や、2004年に舌癌で他界したクロベエこと徳永の弾けるような笑顔などが映し出されるが、その後の彼らの未来をわかっているからこそ、感極まるものがあった。ほどよい緊張感と、ライブに懸ける彼らの意気込みなどが伝わるなか、スタッフたちも含めての円陣が組まれ、いよいよステージへ。徳永のドラムスが鳴った瞬間に会場から黄色い歓声が上がり、郁弥の声掛けでライブが幕を開ける。1発目は郁弥作詞、鶴久作曲の「Revolution2007」で、未来は自分たち次第だ!というパワフルなメッセージを歌い上げてつかみOKとなる。

久しぶりに映像でチェッカーズのパフォーマンスを目にしたが、いまさらながら、そのスキルの高さとエンタテインメント性にうなった。特筆すべきは郁弥のキレキレなダンスパフォーマンスだ。当時、憧れの人にエルヴィス・プレスリーの名を挙げていたが、セクシーかつシャープな動きに目がクギづけとなる。令和のいまの時代、よくネタにされがちな肩パッド入りの衣装を、あそこまでクールに着こなせる芸能人がいるだろうか?また、サイドボーカルの高杢、鶴久との三位一体となるパフォーマンスも最高だし、なによりも歌や演奏などの総合力を再確認させられた。

ちなみに彼らのデビュー曲は、その後、名刺代わりとなった1983年の「ギザギザハートの子守唄」だが、その名を一躍広めたのは、翌年リリースした売野雅勇の作詞、芹澤廣明の作曲&編曲という黄金タッグによる「涙のリクエスト」だった。以降、このコンビがチェッカーズに提供した「哀しくてジェラシー」「星屑のステージ」「ジュリアに傷心」「あの娘とスキャンダル」などが大ヒットしていき、チェッカーズが無双の“アイドル”と化していく。ただ、彼らにとってその枠は、おそらく窮屈だったのではないか。

実は業界の目利きや、黎明期からチェッカーズを追いかけてきたファン、LPアルバムの購入者たちは、多くの楽曲で作詞を担当してきた郁弥を筆頭に、メンバーの多くが作詞作曲の才があることを認識していた。そんななか、チェッカーズが大きく違う方向に舵を切ったのが、前述の売野&芹澤コンビによる大ヒット曲「Song for U.S.A.」のあとにリリースされた、郁弥の作詞、尚之の作曲という兄弟コンビが放つ「NANA」だろう。チェッカーズにとっては、メンバー初のオリジナル作品となった記念すべき12枚目のシングルだ。

エロスが漂う「NANA」の歌詞には、郁弥たちが“Revolution”を起こしてやるといわんばかりのただならぬ気迫とチャレンジ精神のようなものを感じた。令和の時代なら、間違いなくBPO (放送倫理・番組向上機構)にひっかかりそうな歌詞だし、昭和の時代でさえNHKでは放送禁止となり、実際に大ヒットに届く数字は残せなかったが、チェッカーズを愛する根強いファンからは、彼らの熱いスピリットが支持されたし、コンサートでも度々歌われているおなじみの楽曲となった。
■チェッカーズの燦然たる輝きに酔いしれる…

ほかにも今回のセットリストに注目してほしい。「NANA」を歌う前に披露するのは、その対極にあるような清純派のナンバー「MY GRADUATION」である。余談だが、このタイトルを聞いて、SPEEDの「my graduation」を思い浮かべるかどうかで、チェッカーズのファンかどうかがわかる(笑)。「MY GRADUATION」を歌い終えたあと、郁弥のMCによるメンバー紹介が始まるが、それらはメンバーたちへの底しれぬ愛にあふれていて、ファンとしては涙を禁じ得ない。

「MY GRADUATION」では“制服のボタン”という卒業モチーフの青春マストアイテムが登場するが、歌い終えたあと、MCを務めた郁弥が「この曲はプラトニックな物語ですが、16、17、18のころ自分たちは、ろくなもんじゃなかった」と、“ちっちゃなころから悪ガキ”だった自分たちを引き合いに出して苦笑い。その後、幼稚園からのつきあいだという高杢を「幼稚園のころからひげがあった」とジョークを飛ばしたあとで、武内のあだ名が“先輩”だったこと、大土井が矢沢永吉かぶれだったこと、鶴久たちと紙コップでカンパイしたことなど、愛あるイジリが続き、会場は和やかなムードに包まれる。

また、最後に半ば強引に勧誘したという徳永について郁弥は「うちのバンドに入らんやったら山に埋めるぞ」と脅したという、いまでは笑い草となっているエピソードも披露し、会場は大爆笑となる。続けて、郁弥いわく「クロベエは、いまではメンバーのなかで一番の危険人物になりました」と言われ、満面の笑みを浮かべる徳永の姿にも泣ける。そこからダンスパーティーで知り合ったという彼らのルーツを感じさせるダンスパフォーマンスと共に「NANA」を歌い上げるという計算された流れが胸アツだった。

その後も多くの楽曲が披露され、観ている側のボルテージもさらにアップ。アンコールは秋元康、Michael Kenner作詞、Michael Kenner作曲「NEXT GENERATION」に始まり、大ヒット曲「ジュリアに傷心」「ギザギザハートの子守唄」「I Love you, SAYONARA」という王道のラインナップで締めくくられた。

チェッカーズは1992年に解散したが、それをきっかけにメンバー間でいろんなすったもんだが続いたのは周知のとおりだ。本映像で郁弥が「デビューして4年、7人ともわがままで欲ばり」と楽しそうに言ったあと、自分たちについて「ポリシーは楽しけりゃそれでいい」とも言っていた。しかし彼らがビッグアーティストとして活動していくなかで、メンバーそれぞれがその胸にいろんな想いを抱いてきたことは容易に想像できる。

もともとチェッカーズは福岡県久留米市という同じ地元出身のメンバーたちで組まれたバンドで、上京してからもきっと多くの困難や喜びを分かち合ってきたかけがえのない仲間たちだ。事あるごとにいろんな報道もされていたが、その真実をうかがい知ることはできない。でも、少なくとも本作に収められているチェッカーズの燦然たる輝きも、まぎれもない真実のひとつだ。彼らは、選ばれたアーティストのみがまとうことを許されるオーラに満ちあふれているし、楽曲たちはいまもなお、多くの人々に愛され続けている。

映画化に際し、4K画質相当の映像アップグレーディング、Dolby ATMOSの音声という最新鋭の技術によって蘇った伝説のライブ。昭和、平成生まれのチェッカーズのどんぴしゃ世代が本作を観れば、きっと自分がまだ青かった時代に引き戻され、無心になって入り込めそう。でも、個人的には令和世代にも、一時代を一世風靡した人気バンド、チェッカーズの唯一無二なパフォーマンスをぜひこの機会に大スクリーンでご覧いただきたい。

文/山崎伸子

■『チェッカーズ 1987 GO TOUR at 中野サンプラザ【デジタルレストア版】』セットリスト

Revolution2007
クレイジー・パラダイスへようこそ
恋のGO GO DANCE!!
TOKYO CONNECTION
悲しきアウトサイダー
俺たちのロカビリーナイト
Free Way Lovers
ウィークエンドアバンチュール
WA WA WA
MELLOW TONIGHT
Song for U.S.A.
裏どおりの天使たち
WANDERER
MY GRADUATION
NANA
YOU'RE A REPLICANT
GO INTO THE WHOLE
HE ME TWO(禁じられた二人)
おまえが嫌いだ
BLUES OF IF
〈アンコール〉
NEXT GENERATION
ジュリアに傷心
ギザギザハートの子守唄
I Love you, SAYONARA