2023年に韓国で観客動員数200万人を超え、ラブコメ映画の興行収入No.1を記録した映画『ラブリセット 30日後、離婚します』(3月29日公開)で、チョン・ソミンと2人でW主演を務めたカン・ハヌル。人気ドラマ「椿の花咲く頃」などで人気を博し、グローバルヒット作「イカゲーム2」の出演も決定したハヌルが、コメディ初挑戦の感想や役作り、映画『二十歳(ハタチ)』(15)以来、8年ぶりに再共演したソミンとの撮影裏話などを語った。

■「チョン・ソミンさんとは『二十歳』の時より確実に仲よくなれた気がします」

『ラブリセット 30日後、離婚します』というタイトルが物語るとおり、本作では離婚を30日後に控えた夫婦が、2人とも交通事故に遭い、同時に記憶を失うという予測不能なドタバタ劇が繰り広げられていく。本作への出演理由についてハヌルは「作品を選ぶ時は、ただ脚本だけを見ます」とキッパリ言う。

「座ったその場所で最初から最後まで一気に読めたら、その作品を選びます。今回共演したチョ・ミンスさんが『作品を選ぶ時は、監督のことも調べて、以前の作品の色や、一緒に仕事をするスタッフのこともきちんと調べておくと、自分の力を上手く発揮できる』と助言してくれましたが、100%そのとおりですし、いい言葉だと思います。でも僕にとっては当てはまらないことで、僕は監督の過去作などは気にしないし、脚本がおもしろければ出演を決める、ただそれだけです」

自称知的でイケメンの弁護士だが、実にどんくさいノ・ジョンヨル役のカン・ハヌルと、名家出身のお嬢様でバリキャリの映画プロデューサーだが、かなり破天荒なホン・ナラ役のチョン・ソミンが、絶妙な掛け合いを見せていく本作。今回演じたジョンヨル役についてカン・ハヌルは「交通事故のシーンを撮影する時、事故の前までのつながりに空白ができたので、僕とチョン・ソミンさんとで役を作りました」と、チョン・ソミンの協力を得ながら役作りをしていったと言う。

メガホンをとったのは、『偉大な願い』(16)や『色男ホ・セク』(20)などを手掛けたナム・デジュン監督だが、監督の演出について「コメディだからより難しいというわけではなく、演技はいつも難しいのですが、コメディの時は、より監督と話すことが多いです。コメディはタイミングによって左右されることがあり、あと1秒長く見せるかどうかで笑えるかどうかが決まります。それを監督が判断するので、監督のスタイルをキャッチして演じます」と語った。

「僕は『デッドプール』(16)や『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(10)でのユーモアが好きですが、そういう感覚が監督と合っていてよかったです。僕が関わる作品のほとんどが、現場で作り上げられる場合が多くて。いくら考えて行っても、撮影現場に着いてみると動線が変わったり小道具が変わったりするので、通常は基本的な枠組みと台詞だけを頭に入れておきます」

チョン・ソミンとは2度目の共演となったが、カン・ハヌルは「今回会った時、以前とは違い、チョン・ソミンさんからは、これまでの経験を積み重ねたことによる余裕が感じられました。僕はすぐドタバタしてしまいますが、チョン・ソミンさんは演技をする時もふだんも、落ち着きから来る安定感がありました。そういう見ている人を不安にさせないところがステキだと思いました」とその印象を語った。

「『二十歳』の時より確実に仲よくなった気がします。あの時は、どうしてもメインとなる内容にキム・ウビンさんとジュノさんのシーンが多かったので、そこまで親しくはなれなかったんですが、今回は互いのことをより理解できるようになりました。最近MBTI(16Personalities性格診断テスト)が流行っていますが、チョン・ソミンさんがMBTIにすごく詳しくて、その話をしながら親しくなりましたね」と、さらに交流を深められた様子。

■「結婚願望が強くない理由のは、運命の人に出会っていないから」

結婚の経験がないなか、離婚目前の状況を演じたことについてカン・ハヌルは「もう少し若かったら、夫婦役を演じるのは、ちょっと難しかったかもしれないです。でもいまは周りに結婚した友達も多くて、聞こうとしなくても聞こえてくる話がたくさんあるので、結婚生活について特に聞かなくても演技ができました」と述懐。

本作に出演したことで、結婚についての見方が変わったか?と質問すると、「ジョンヨルを演じて、結婚について特に別の見方をするようになったとか、あるいは深く考えるようになったとか、そういうことはありません。ただ、一緒に暮らせば、こういう問題があるんだろうなとは思いました」と答えた。

「撮影しながら、結婚している友達の様々な姿を思い浮かべました。変わらず仲よく幸せに暮らしている人もいれば、いつも夫婦ゲンカしていて僕に相談してくる友達もいます。今回思ったのは、『出会うべき人には、なにがあっても出会える』ということ。でも僕だったら、別れた恋人と再び交際することはできないと思います。もし2人とも記憶喪失になっていたらできるかもしれませんけどね(笑)」

結婚に対する夢が壊れたのでは?と聞くと「すべての夫婦がそうだというわけじゃありませんからね」と笑う。

「私の母と父はそれぞれの時間を尊重していたのだろうと思いました。僕自身、結婚したことはありませんが、恋愛をするとそれが一番難しいです。両親の暮らしを見て、僕もああいうふうに暮らせたらいいなと思ったことがあります」

結婚願望が強くない理由については「1人暮らしがとても長いせいか、特に恋愛が必要だとは思っていませんし、自分だけのルーティンがあるので邪魔されたくないという気持ちもあります。でももっと大きい理由は、まだ運命の人に出会っていないから、でしょうね。この先、生きていれば結婚したいと思う相手がきっと現れると周りから言われますが、僕にはまだ現れていないようです」という。

■「撮影現場でもいつも笑顔で、楽しい雰囲気を作ろうとしています」

本作でコメディに初挑戦したカン・ハヌルに、「プレッシャーを感じていたのでは」と聞くと、「コメディだからって、ほかのジャンルより緊張したりすることは特にありませんでした。顔の筋肉も上手く使えたと思うし、何よりも口が大きいのはメリットだと思いましたね。(韓国には)『笑った顔には唾を吐けない(愛想のいい人に邪険なことは言えないという意味)』ということわざがありますが、その通りだと思いますので、常に笑顔でいることを心がけていますし、撮影現場でもいつも楽しい雰囲気を作ろうとしています」と答えた。

そんな気配りがきくカン・ハヌルは“美談製造機”というあだ名を持つが「いつもそんなにいい人というわけではありません。ただインタビューであれ撮影であれ、せっかく時間を割いて会う場ですから、しかめっ面をすることなく、笑顔で過ごすほうがいいと思っているし、誰かにとって“一緒にいたい人”になりたいだけです。よく『我慢すると病気になる』と言われますが、それは誤解であり、僕は我慢しているわけじゃなく、ただ、感情があまり揺れないタイプなだけ。想定外のことが起こるとむしろ楽しいと思えるし、『こうなるのか』というおもしろみもあります。いわば僕は、完璧主義者じゃないだけです」と語った。

2007年にデビューして以来、ジャンルを超えて様々な作品で走り続けてきたカン・ハヌル。その原動力について問うと「特にありません。僕にも休暇は必要なので、休暇のために働いているようなものです」とおちゃめに言ったあと、「演じることがとても好きだから作品を続けていると思われる方もいらっしゃるようですが、それよりも僕は本当に運が良かっただけだと思っています。謙遜して言っているわけじゃなく、こうやって途切れることなく作品を続けていられるのは、運があるからです」と、どこまでも謙虚だ。

本作のあと、Netflixシリーズ「イカゲーム」のシーズン2も待機中だが「出演できることに感謝していますし、楽しくなりそうです。でも、僕にとって『イカゲーム』が『ラブリセット 30日後、離婚します』より大事というわけではありません。どの作品も同じように意味のある作品です」というコメントも実にカン・ハヌルらしい。話題作が目白押しのハヌルだが、まずは今週公開される『ラブリセット 30日後、離婚します』をお楽しみいただきたい。

文/山崎伸子