乃木坂46、1期生の高山一実が小説家デビューを果たした同名小説をアニメーション映画化した『トラペジウム』が、5月10日(金)より公開される。本作は、“絶対にアイドルになる”ため、「SNSはやらない」「彼氏は作らない」「学校では目立たない」「東西南北の美少女を仲間にする」と、自らに4箇条を課して高校生活を送っていた東ゆう(声:結川あさき)を主人公とした青春物語。ロボット研究会に所属する理系の大河くるみ(声:羊宮妃那)、お蝶夫人に憧れるお嬢様の華鳥蘭子(声:上田麗奈)、ボランティア活動に熱心な亀井美嘉(声:相川遥花)ら別々の高校に通う東西南北の“輝く星たち”を仲間にしたゆうが、高校生活のすべてを賭け、追いかけ続けた夢の行方が描かれる。

MOVIE WALKER PRESSでは、本作のテーマにちなみ、2019年の「女芸人 No.1 決定戦 THE W(以下、THE W)」での優勝という大きな転機を経て、人気トリオとして目覚ましい活躍をする「3時のヒロイン」の福田麻貴、ゆめっち、かなでにインタビューを実施。ゆめっち、かなでに声を掛けトリオを結成した経験を持ち、アイドルグループのプロデュースも手掛けている福田は、グループ内の意識の温度差に悩む、主人公ゆうの気持ちがよくわかるという。「芸人になりたい」という夢を叶えた3時のヒロインの3人は、それぞれどんな悩みに直面したのか?いまだからこそ言える本音や、新たな夢についてもたっぷりと語ってもらった。

■「グループ活動においては、温度差のあるメンバー間を取り持って、上手いこと回していく人も絶対に必要」(ゆめっち)

――まずは『トラペジウム』をご覧になった、率直なご感想をお聞かせください。

福田「この映画って、アイドルになりたくて頑張っている女の子たちの物語というよりは、むしろ苦悩や苦難のほうに重きを置いている。一見キラキラした世界の話に見えるし、実際にほんわかしたムードもあるのに意外と生々しくて。そこが、いわゆる“アイドルを目指す系”の作品とは違ってめちゃくちゃリアルだし、やっぱり高山さんにしか書けないものだったんじゃないかなと思いました。あとは、メンバー間の熱量の差とか、仲間と歩調を合わせる難しさにもすごく共感できて。『ゆうは、あの頃の自分や!』って」

ゆめっち「私自身は、“東西南北”のメンバーの誰にも当てはまらない…というか入りたくても東西南北には入れないと思うので、強いて言うなら、“南南東”ぐらいの感覚なんですが(笑)」

福田「南南東!(笑)」

ゆめっち「意識の高いゆうちゃんを前にして、『もう無理だ〜』となっているくるみちゃんのことを、『頑張ろうよ!』『大丈夫、大丈夫!』って励ます蘭子さんのポジティブさが、すごくすてきだなって感じました。グループ活動においては、温度差のあるメンバー間を取り持って、上手いこと回していく人も絶対に必要なので」

かなで「私も東西南北には入れないんですが(笑)、彼女たちがアイドルとして人気が出始めた矢先に、あるメンバーに実は彼氏がいることが発覚して…。ゆうちゃんが『恋愛って、そんなに大事?』と問いかける場面があるんです。それに対してほかのメンバーが『大切な人ができればわかるよ』みたいに返すんですが、そのやり取りにすごく共感しました!」

福田「それは“恋愛好き”なかなでちゃんならではの視点やな(笑)」

■「『トリオをやってみたいかも』と思い立った時に、後輩のゆめっちとかなでちゃんの顔が浮かんだ」(福田)

――福田さんがメンバーに声を掛けて3時のヒロインを結成した時の状況と、ゆうが東西南北のメンバーをスカウトしていく姿とで、どこか重なる部分はありましたか?

福田「私の場合はちょうど別のコンビを解散した直後だったこともあって、最初はもう誰とも組まずに1人でやろうと思っていたんです。お笑いのネタって、独自のスタイルができ上がるまでにすごく時間かかるから、1回ダメになっちゃうとまたゼロからやり直すのはかなりキツいんです。でも、『もし次組むとしたら、トリオがいいな』って、なんとなく頭の片隅にはあって。『ま、組まないけどね』みたいな気持ちでしばらくいたんですけど、ある時ふと、『トリオをやってみたいかも』と思い立った時に、後輩のゆめっちとかなでちゃんの顔が浮かんで、誘ってみたって感じでしたね」

ゆめっち「その話、何回聞いてもうれしいです(笑)。私は密かに『麻貴と組めたらいいのにな』と思ってはいたんですけど、麻貴から『もう誰とも組まない』って聞いていたから、私と組むわけないだろうなと諦めていたら、『トリオをやってみたいんだけど、どう思う?』って声を掛けられて。『うわ、絶対やりたい!!』と思って、かなでちゃんも説得しに行きました」

福田「でも、かなでちゃんを説得するのに3か月から半年近くかかって…」

――かなでさんは、なぜ躊躇されたんですか?

かなで「私も相方を探していたのですが、コンビを想定していたんです。誰かとトリオを組むっていう選択肢が自分のなかにはなくて、一度は断ってしまいました」

■「ちょっと怖じ気づいたというか、そこまでのハングリー精神はなかったかもしれない」(かなで)

――なるほど。だから3時のヒロインにも東西南北と同様、スタート地点からしてすでにメンバー間に意識の差があった、と。

福田「いや、東西南北の場合は、ゆうが上手いことやって、ほかのメンバーをアイドルのほうに引っ張り込んだところがあるから、意識の差が生まれるのもわかるんです。別にみんながみんな、ゆうみたいにアイドルになりたくてなったわけではないから、そこにリアリティがあったんですけど、ゆめっちとかなでちゃんの場合は、もともと芸人がやりたくて吉本に入ったはずなのに、なんであの時の私はこの2人をまとめるのにあんなに苦労していたんだろう…?って。そう疑問に思う瞬間が、この映画を観ながら実は何度もあったんですよ(笑)!それこそ、THE Wの決勝進出が決まった時も、ほかの芸人たちが優勝を目指して必死になっている時に、かなでの心は7割くらい恋愛に持っていかれてたんで」

かなで「『テレビに出たい』とか『売れたい』っていう気持ちはもちろんあったんですけど、いざそこに足を踏み込むとなったら、まだそこまでの覚悟ができてなかったというか…。怖じ気づいたというか、そこまでのハングリー精神はなかったかもしれないです」

福田「ハングリーじゃないどころか、『売れたくない』って言ってた時期もあったんですよ。その時はいっぱいいっぱいになっていたのもわかってたけど、私にとってその言葉はかなりダメージが大きくて。『ほんならなんでお笑いやってるん?』って。だからこそ、いまも恩着せがましく『売れてよかったやろ?』って2人に言い続けているんだと思います(笑)」

――福田さんは、どうやって2人のやる気を駆り立てたんですか?

福田「『このトリオで優勝できるチャンスがあるとしたら、もう絶対今年しかない』と思ったから、THE W決勝の2か月前に『優勝する人のマインドになろう』という話をしました。わかりやすく噛み砕いて、2人に話した記憶があります。覚えてる?」

ゆめっち「もちろん覚えています。周りがネタ合わせしながらずっと稽古しているような時に、うちらは優勝するためのマインドを作る時間に、3時間くらい充てていましたからね」

福田「東西南北の場合、ゆうちゃんは『アイドルになりたい』と思ってからが長いし、自分からいろんなチャンスを掴みに行っているけど、ほかの3人はあんまり努力せずに売れちゃっているんですよ。そこも3時のヒロインとちょっと似ているなと思っていて。私だけ2人より芸歴も長くて年齢も上で、同期はみんなテレビに出ていたけど、ゆめっちとかなでは、同期のなかでは、たぶん1番とか2番くらいの早さで売れている。思ったより簡単に夢が手に入ってしまったがゆえの弊害もあるのかもしれないなって思ったりすることもありました」

■「優勝してからは、あれよあれよという間にいろんなテレビ番組に出させていただくようになった」(ゆめっち)

――本作には、アイドルグループ「東西南北」として活動するものの、テレビのクイズ番組で答えられずに落ち込む場面や、SNS上でのコメントや評価に一喜一憂する場面などもありました。皆さんもTHE Wで優勝してから、ご自身を取り巻く環境が急激に変化されたのでは?

ゆめっち「確かに、私たちも優勝してからは、あれよあれよという間にいろんなテレビ番組に出させていただくようになって。キラキラしたことが本当に一夜で始まって、全然実感がなかったです。小さい頃からテレビで見ていた大御所MCさんにせっかく話を振ってもらえても、実力がないから上手く返せなくて。キャラ設定で迷走していた時期もありましたね」

福田「いきなり『めっちゃ筋肉つける』とか『坊主にする!』って言いだしてたな」

かなで「優勝して、1日に何本もテレビの収録が入った時は『こんな状態で自分のメンタル持つのかな?』と思っていました。私はメンヘラだから、1回スベっただけでも1日寝込むのに、1日に何回もスベったら、キャパオーバーするんじゃないのかな?って」

福田「それこそ優勝するまでは、SNSで“3時のヒロイン”って入れて検索しても、ライブに来てくれた人のポジティブな感想ぐらいしか上がってなかったのに、一気に批判とかアンチとかも出てくるようになって。それまで習慣的にしていたエゴサの景色と全然違うんですよ」

かなで「テレビに出始めた頃は、SNSにいろいろ書かれた時期があって。全部嫌だけど、全部見ないと気が済まなくなっちゃって、“かなで 嫌い” “かなで つまらない”みたいに、いろんな悪口のバリエーションで検索しては、それを見て泣くっていう、意味のわからないことを繰り返していて(笑)。“かなで 見てられない”とか」

福田「うわ、”かなで 見てられない”で検索してたの!?オモロ(笑)」

ゆめっち「きっとその当時はキツいコメントしか刺さらなかったんだよね。私もすっかりエゴサが癖になっちゃって、スマホを触っている時間はほぼずっとエゴサをしているんですけど、なんとも思わないです(笑)。ただ、ネットニュースの画像だけはかわいいのを使っていただけるとうれしいなって」

福田「あと、言い訳じゃないけど自分の言い分を伝えたくて、ゆうが(SNSの投稿に対する返信を)一瞬書きかけてやっぱり消すところも、すごくいまっぽいですよね。ああいう葛藤って、アイドルに限らず、人前に出る仕事の人なら誰もが抱えていて。『いや、本当は違うねんけど、いろんな事情があっていまはなんも言われへんねん!』って、喉まで出かかることはたくさんあるんです」

■「客観的な視点で観て、鼓舞してくれる大人が周りに1人いるだけでも秩序が保たれる」(福田)

――福田さんはアイドルのプロデュースもされていますが、東西南北に必要だった要素はなんだと思いますか?

福田「自分がメンバーじゃないからこそ言えることって、結構いっぱいあるんですよ。でも、東西南北にはプロデューサーが実質不在じゃないですか。ゆうがプロデューサーも兼ねているようなものだから、ああいうふうになるんですよね。客観的な視点で観て、鼓舞してくれるような頼れる大人が周りに1人いるだけでも、秩序が保たれた気がします。それこそ私も昔は、ゆうちゃんみたいに『なんで私ばっかり裏方作業しなきゃいけないの?』って、不満に思っていたような時期もあったので。でも2人には、私にはない“華”があるから、フィーチャーされるのはいつも2人だし…みたいなコンプレックスもあったかもしれない。ある時期からは、いい意味で割り切れるようになってきて。半分くらい諦めて、楽屋の居心地をよくすることに努めるようになってからは、上手くやれるようになった気がします」

ゆめっち「まさに、いい意味で麻貴がうちらに期待しなくなってくれたから、いまはそれぞれがのびのびやれているというか。それぞれの価値観の違いをお互いに認め合うことが、グループ活動を円滑に進めるうえではなによりも大事なんだなって、この映画を観て学びました」

■「4人は高校生でアイドルに挑戦したからこそ、自分が本当にやりたいことが明確になった」(かなで)

――ちなみに、『トラペジウム』では、メンバーそれぞれの進路や夢も描かれますし、原作者の高山さんも、元アイドルにして作家というキャリアを歩まれています。「芸人になる」という夢はすでに叶えた皆さんが、いま新たに抱く夢はありますか?

福田「私は文章を書くことも好きなので、いつか本を出せたらいいなと思っているんです。それこそ高山さんの『トラペジウム』みたいに、それが映画化されたら最高だなって(笑)。とはいえ、かれこれ1年以上エッセイを更新していないので、今年はちゃんと書きます!」

ゆめっち「3時のヒロインって、歌ったり踊ったりするのも得意なチームだと思うんですよ。3人そろった時のうちらの爆発力って、エグイものがあるじゃないですか(笑)。まだ世に出しきれていない3時のヒロインの魅力を開花させて、これからはアーティストとしても一花咲かせたいと思っています。誰も見たことがない3時のヒロインをお見せします!」

かなで「私は舞台を観るのが大好きで、『いつかミュージカルに出たい!』という夢があるんです。去年ブロードウェイのミュージカルを観に行ったのですが、個性全開でエネルギッシュに表現されている海外のパフォーマーの方たちの姿を目の当たりにして、日頃スベって病んでる自分のことが、本当にちっぽけに感じたんです。私も観た人に、『3時のヒロインみたいになりたい』と思ってもらえるくらいキラキラしたいです」

――では、最後に改めて『トラペジウム』の見どころをお願いします。

福田「いま振り返ると学生時代の思い出は輝いて見えるけど、当時は悩んだりドロドロしていた部分もあったりしたと思うんです。そういう意味でも、アイドル好きな方はもちろん、アイドルに興味がない人も、自分に置き換えて共感できる要素がある映画だなと思いました」

ゆめっち「本当にキラキラした甘い蜜だけじゃなく、ゆうちゃんたちがいろんな挫折を乗り越えて成長していく姿が観られる映画ですよね。青春時代、自分自身はなににも挑戦しないまま大人になってしまったという人でも、彼女たちと一緒にもう一度、夢が見られるんじゃないかなと。アイドルだけじゃなく、いろんな人生の選択肢が詰まっているから、『たとえ上手くいかなかったとしても、別に道は1つだけじゃないんだな』って、きっと励まされるはず!」

かなで「東西南北の4人って、高校生でアイドルに挑戦したからこそ、自分が本当にやりたいことが人生の早い段階で明確になったんだと思うんです。このまま突き進むか、別の道を歩むか、観る人も自分自身の夢を見つめ直すきっかけになるんじゃないでしょうか」

取材・文/渡邊玲子