「人を壊すのも救うのも人」石原さとみ主演『ミッシング』に“人間描写の鬼”吉田恵輔監督が託した願いとは
吉田監督に「いままでの自分を壊してほしい」と出演を直談判をしたという石原が演じるのは、ある日突然いなくなった幼い娘の帰りを待ち望みながら、自分たちの力ではどうにもできない現実との間でもがき苦しみ、事件をめぐるマスコミと世間の声に翻弄される母親役。共演には中村倫也や青木崇高、森優作、小野花梨、柳憂怜、美保純ら実力派キャストが顔を揃えている。
このたび入手した場面写真は2枚。沙織里が掲示板に貼られた娘の捜索を呼びかけるチラシを直す姿では、ややおぼつかない手元とぼんやりした横顔から、娘を捜し続ける日々のなかですり減っていく彼女の心の内が浮かび上がっている。またもう一枚は、中村演じる地元テレビ局の記者・砂田と向かい合いながら焦燥感と苛立ちを禁じえずにうつむいている様子が切り取られている。
本作の脚本を書くにあたって吉田監督は、単にリアリティだけを追い求めていたのではないと明かしている。様々な事件や事故に遭遇してしまい、それに折り合いをつけられない人や、つけてはいけない人が“どうすればいいか”に思いをめぐらせ、セリフを書きながら全部の役を演じ、時には涙することもあったのだとか。
「死にたいぐらい追い込まれた時に、なにか“すがる先”があればいいけれど、そこにも難しさがあると思う。すがるってどういうことなのか、僕も明確な答えはない。ただやっぱり、人を壊すのも人を救うのも人だなと。人との関係は難しいけれど、人を救うのも人でしかないよなと思うと、人とのつながりみたいなものを大事にしないとと思うのです」。
そうして各キャラクターを通して誰もが思い当たる感情や風景を伝えることによって、リアルかつ繊細であり、観る者の心を激しく揺らすような人間描写を作りあげた吉田監督。「この映画を観たお客さんがちょっとでも優しい気持ちになれたらいい」という願いと共に、作品に込められた一筋の光を劇場のスクリーンで見つけてほしい。
※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記
文/久保田 和馬