穏やかな性質で知られるボノボだが、オス同士の攻撃的な行動は、チンパンジーより多いという驚くべき研究が、4月12日付けで学術誌「Current Biology」に発表された。

 コンゴ民主共和国でボノボの観察に取りかかった最初の週、「森の中で、ふたつの毛玉が我を失ったように互いを追いかけている」光景を見たのを鮮明に覚えていると、米ボストン大学の人類学者モード・ムジノー氏は言う。

「あれは朝の5時で、ボノボたちはちょうど目覚めたところでした。フィールドアシスタントが『これは攻撃行動ですね』と言い、私の頭の中は『ちょっと待って、ボノボは穏やかな性格じゃなかったの?』という思いでいっぱいになりました」とムジノー氏は言う。

 ボノボは互いに仲が良いと一般的に思われている理由のひとつは、彼らが不和を解消するために頻繁に行う交尾行動だろう。ボノボはまた、チンパンジーとは異なり、友人だけでなく、初対面の個体とも積極的に食べものを分かち合う。

 ムジノー氏は以前から、ボノボの性質はそうしたお決まりのイメージから想像される以上に複雑なのではないかと考えていた。それでも、野生のボノボとチンパンジーの合計5つのコミュニティーを対象に、記録に残っている攻撃行動の数を比較してみたときには、その結果をにわかに信じることができなかったという。

「あまりに意外だったため、重複がないよう、攻撃行動を一つひとつ確認しました」

 ムジノー氏らが発表した今回の論文によると、研究者がコンゴのココロポリ・ボノボ保護区にすむオスを追跡し、互いを追いかける、殴る、蹴る、噛むなどの攻撃行動を記録したところ、2047時間で521件の攻撃行動が見られた。

 一方、チンパンジーの研究を60年以上続けているタンザニアのゴンベ・ストリーム国立公園では(同園での研究はナショナル ジオグラフィック協会も支援している)、7309時間で654件の攻撃行動が確認された。つまり、ボノボの方がチンパンジーより2.8倍もの頻度で攻撃行動が見られたことになる。

「驚くような結果ですが、データには説得力があります」と、米ハーバード大学の霊長類学者リチャード・ランガム氏は言う。

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