イオの空から見つけた証拠

 科学者たちはイオの潮汐加熱がいつ始まったのかを知りたがっていたが、イオの火山活動が非常に活発で、表面は溶岩流に何度も繰り返し覆われているため、古代の地質学的プロセスの証拠は埋もれてしまっている。

「イオの表面を見ても、100万年以上前に何が起こったかを知ることはできないのです」とデ・クレア氏は言う。そこで氏のチームはイオの空に注目した。

 イオの火山から噴出した物質の多くは、薄い大気を通り抜けて宇宙空間に到達する。失われる大気も合わせると、イオからは毎秒3トンもの物質が宇宙空間に逃げ出していると見積もられている。

 その結果、イオの大気中に含まれる火山噴出物は、重い同位体(質量数が異なる元素)が多くなっているはずだ。なぜなら、大気の上層部にある軽い同位体は宇宙空間に逃げ出しやすいからだ。

 そこで、現在の大気中の火山噴出物と、原初の状態を保っている物質で、それぞれの同位体の比率を測定できれば、現在のような状態になるまでにどのくらいの時間がかかるかを計算できる。

 デ・クレア氏のチームは、チリのアルマ望遠鏡を使って、イオの大気中のガス、特に硫黄を含む物質を観測した。彼らはまた、太陽系が誕生した当初の平均的な化学組成を保存している古い隕石などを利用して、イオの「本来」の同位体比も推定した。

 その結果、イオは本来持っていた硫黄の94〜99%を失っていることがわかった。木星やイオを含む内側の衛星の進化に関する既存のモデルと合うように、この数字を説明するには、イオの噴火がおそらく45億年前からずっと続いていると解釈するしかないという。

イオからエウロパへ

 NASAのジェット推進研究所(JPL)の惑星科学者ジェームズ・タトル・キーン氏は今回の研究には参加していないが、「一般に、衛星の軌道の力学は非常に混沌としたものになります」と説明する。衛星は安定した軌道を出たり入ったりすることがあり、時には衝突したり、太陽系から放り出されたりすることもある。

 だが、イオとガニメデとエウロパは何十億年もの間、同じような軌道で踊り続けてきたようだ。「イオは、その長い歴史のどの時点を見ても、今日と変わらない姿をしていたようです」とキーン氏は言う。

 このことは、イオの隣人であるエウロパにとっても重要な意味を持つ。この氷の衛星は、凍った殻の下に液体の水の海があるだけでなく、その水は潮汐加熱によって温かく保たれていると考えられている。つまり、イオの火山活動が何十億年も続いてきたとすれば、エウロパの海も同じくらい古くから存在している可能性があるのだ。

「今回の発見は、エウロパに生命が存在する可能性をめぐる議論に影響を及ぼすかもしれません」とデ・クレア氏は言う。エウロパの海に生命が存在するかどうかはまだわからない。しかし、もし生命がいるとすれば、それはイオを火山の炎で燃え上がらせているのと同じ永遠の力に支えられていることになる。