かつてナポレオンは、英国は「商人の国」だと言った。もしナポレオンが現代に生きていたら、「アマチュア考古学者の国」だと訂正したかもしれない。

 英国では現在、ゴム長靴や移植ごて、金属探知機を取りそろえた一般市民が埋蔵された宝物を探し求め、かつてないほど国土を掘り起こしている。そして、鉄器時代の金貨、古代ローマの青銅、サクソン人の銀、バイキングの戦利品、中世の指輪、腕輪、ロケット、ブローチなど、驚異的な数の宝物を探し当てている。次から次へと発見されるため、大英博物館の学芸員たちは勤務時間の半分をその対応に費やしているほどだ。

 英国における考古学的な発見を記録している大英博物館の「小型の古代遺物スキーム(PAS)」の年次報告によれば、2022年、宝物の発見は過去最高の1384点を記録した。1000点以上の発見を記録したのは9年連続だ。2023年も1000点を超える見込みで、まだ正式な数字ではないものの、これまで発見された7万4506点の遺物に1367点が新たに加わることになっている。

 そして例年と同様、ほぼすべての発見がアマチュアの一般市民によるものだ。プロの考古学者による発見はわずか3%だった。

「一般市民が考古学の分野でいかに大きな貢献をしているかがわかります」と、大英博物館の宝物および小型の古代遺物の責任者であるマイケル・ルイス氏は話す。

遺物は誰のもの?

 こうした発見の中で最も興味深い遺物の一つが、骨に繊細な彫刻を施したロザリオのビーズだ。1450年ごろのものと推定されていて、発見者は「マッドラーカー」の一人だった。マッドラーカーとは「泥と戯れる人」という意味で、潮の干満の影響を受けて水位が変動する河川の岸で、ぬかるみの中を熱心に探し回る人たちにつけられたニックネームだ。

 このロザリオのビーズを発見したキャロライン・ナンネリー氏は、首都ロンドンの中心部にある地区クイーンハイズの近くでテムズ川沿いを調べていた。「四つん這いになって川岸を探し回っていたら、このごく小さなドクロの顔が私を見上げていました。ビーズを拾い上げて裏返すと、反対側には若い美女の顔がありました。これはメメント・モリです。つまり、これを身に着けた人が、時の流れと自分自身の死を忘れないためのものだったのでしょう」

 こうしたアマチュアの人たちによる発見の大多数は、考古学的な遺跡で起きるわけではないので、彼らの成功に対して、学者たちはそこまで反感や嫉妬を抱くことはない。「これらのほとんどは耕作地で発見されています」とルイス氏は話す。「このように金属探知機を使う人たちが発見しなければ、耕作によって失われるだけです」

 さらに、一般市民が宝物を発見しても、歴史家や博物館が見逃す心配はない。英国の法律では、300年以上前の遺物で、金または銀が10%以上含まれている場合、PASの担当者に引き渡さなければならないと定められている。そして、大英博物館の学芸員が発見された遺物を調査し、検視法廷に書類を提出すると、遺物が法的に「宝物(treasure)」として定義されるものかどうかの最終判断が下される。

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