トヨタ自動車などが材料データを持ち寄って探索地図を作る共創活動を進めている。X線回折(XRD)などの計測データを人工知能(AI)技術で地図化し、誰がどんな材料を持っていそうか探せるようにする取り組みだ。各社にとって研究データは“虎の子”で社外に出せるような代物ではない。そのためデータ連携の敷居を極限まで下げた。物質の名前や化学組成さえ共有しない。それでも性能予測式で連携相手を探せる。(小寺貴之)

「材料研究の成功率は1%もない。だからこそ同じ失敗を各社で繰り返すことは避けたい」とトヨタ先端材料技術部の平田裕人部長は説明する。成功率1%の裏を返すと、99%の材料は特定用途でこそ花開かなかったが、誰かが合成に成功した素性の良い材料といえる。

各社が作るデータセットと特性予測式のイメージ

例えばチタン酸ストロンチウムはセラミックコンデンサーにも水分解触媒にも使われる。燃料電池車の水素吸蔵合金は車載電池の負極に応用された。開発材料が当初の想定と違う用途に応用される例は少なくない。誰かの99%の中から次の材料を探せれば開発効率は飛躍的に向上する。

だが企業間で研究データを共有するのは極めて難しい。競合相手でなくとも“虎の子”を社外に出すのははばかられる。秘密計算やAIの連合学習などデータを秘匿したまま計算する技術は出てきたが、そもそも自社がどんなデータを持っているかさえ開示できないのが普通だ。そこで計測データとAIで地図作りを始めた。

XRDのスペクトル(波形データ)とX線光電子分光(XPS)のスペクトルを持ち寄り、AI技術で類似度マップを作る。XRDは物質の結晶構造、XPSは電子状態の情報を含んでいる。

材料探索の地図作りのイメージ

そして各社はAIで性能の予測式を作る。磁石メーカーなら磁気特性、触媒メーカーなら反応活性などと、ほしい性能の物質がどんなXRD・XPSスペクトルになるか予測して、地図の中から当たりを付ける。材料保有者が見つかったら連携を持ちかける。各社の探索や交渉にトヨタは関わらない。

平田部長は「ほしい性能ごとに予測式が変わる。その分野で材料を深く研究している人ほど恩恵を受けるインセンティブ設計になっている」と説明する。トヨタ社内では材料地図で触媒に転用可能な物質を見つけ、実際に性能が1・6倍に向上した。

現在、世界では材料研究の「マテリアル大航海時代」と呼ばれ、自動実験装置で広大な未調査領域の探索が進んでいる。その地図を作る挑戦になる。


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