二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)事業に関する法案が、今国会で審議されている。試掘や貯留事業の許可や規制など制度を整える。法案が成立すれば、国内での取り組みが本格的に動き出す。ただ適地選定、インフラ構築、コスト低減も含めたビジネスモデルの確立など課題は多い。持続的な支援を講じつつ機運を高め、事業者の参画を促せるかが焦点だ。(編集委員・政年佐貴恵)

「CCSの概念図」

CCSはCO2を回収し、地下に閉じ込める技術だ。省エネルギー化、再生可能エネルギーや水素利用などでも脱炭素が難しい領域を対象に、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に不可欠とされる。豪州のシンクタンクのグローバルCCSインスティテュートによれば、2050年までに年数十億トンのCO2を貯留する必要があり、世界で投資が活発化。CCSプロジェクト開発数は17年以降、35%以上の年平均成長率で伸びているという。

経済産業省は50年に年約1億2000万―2億4000万トンのCO2貯留を視野に、30年までの事業開始を目指している。主に発電所や製鉄所、化学プラントなどの排出ガスからCO2を分離、回収してパイプラインや船舶などで運び、海底に貯留することを想定。30年時点で600万―1200万トンの貯留量確保にめどをつける方針だ。そのためには26年度中に事業者や投資案件を決める必要があり、事業促進には制度整備が課題だった。

CCS事業長期ロードマップ

そこで経産省は今国会に「CCS事業法案」を提出した。貯留層が存在する可能性がある区域を「特定区域」と指定した上で、事業者を認定。貯留層の確認のために掘削できる「試掘権」や、CO2を貯留できる「貯留権」を設定する。事業計画は認可制とし、貯蔵したCO2の漏えいなどの監視義務や必要な資金の確保も求める。

一方、貯留したCO2の挙動が安定しているなど一定要件を満たした場合は管理業務をエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)に移管できるようにするなど、参入障壁を下げる。

課題は事業性だ。CO2回収や輸送、貯留にかかる投資負担は重い。経産省は「先進的CCS事業」でプラントなどのCO2回収源と輸送手段、CO2貯留地域を組み合わせて実証事業を支援することで早期の事業モデル確立を狙う。23年度は海外2カ所を含む7件を選定した。このほか設備投資支援などの予算措置や優遇税制なども検討していく方針だ。

米国はインフレ抑制法(IRA)でCO2貯留に対する税額控除を拡充するなど、各国ではCCSを商機にしようと支援策を強化している。国内でCNを実現できる環境を整えなければ、産業立地や誘致での競争力が劣るとの懸念もある。経産省幹部は「30年から本格化する商用化の波に乗り遅れれば、日本の選択肢が狭まる」と危機感を示す。政策支援の充実や制度設計のほか、地域の理解なども含めて事業化に向けた議論を深めることが重要になる。