反響の大きかった記事を厳選して届けてきた大反響トップ10。今回は2023年の大反響270本を再集計、その上位に輝いたトップ10を発表。あの興奮を再び、第6位の記事はこちら!(集計期間は2023年1月〜11月まで。元記事の初公開日2021年10月30日 記事は取材時の状況です。公開後、たくさんのご支援の声を頂きました。お礼申し上げます) *  *  *

 絶望を生きる非正規雇用に焦点を当て、住むところも失い車上生活する40代男性の実態から貧困問題を考える。密着取材でわかった、飢餓レベルの困窮。これが今のニッポンだ!

◆収入激減で離婚。日雇いでどうにか食いつなぐ車上生活

 宿泊費を抑えられ、宿のないところでも泊まれるというメリットから、車中で寝泊まりする「バンライフ」が旅行好きの間で密かに人気を集めている。しかし、家賃を払うことさえできない貧困者にとっては、車上生活こそ最後の砦だ。

「車で寝泊まりしつつ、ここから工事現場といった日雇い労働に通っています。コロナのせいであまり働けず月に7万〜8万円くらいしかもらえませんが、なんとか食べられていますよ。

 毎日ではありませんが、銭湯に行くくらいの余裕もあります。車は基本的に24時間営業のジムなどの駐車場に止めていて、ここなら警備員に注意されませんから」

 そう語るのは田中良幸さん(仮名・42歳)。中学卒業後、家庭の事情もあって進学することなく社会の荒波へ。

◆肉体労働を転々

 しかし、人間関係がうまくいかず、学歴も普通免許以外の資格もない。能力の低さも自覚していると話す田中さんは肉体労働を転々。

 大病や精神を病んで仕事ができなかった時期もあるそうだが、約2年前までは月収は安定して15万円ほどあり、山手線の内側で屋根と壁があるちゃんとした家に住んでいた。

 なぜ車上生活者になったのか。

◆夫婦揃って非正規。世帯収入は30万円以下

「これでも結婚していたんです。相手は2つ上で、当初は仲が良かった夫婦でした。ただ、お互い就職氷河期世代で夫婦揃って非正規。世帯収入は30万円以下。それなのに、東京に住むことにこだわっていたから、生活はその日暮らしの自転車操業。そんなところにコロナ禍が直撃して……。

 私は仕事がなくなり日雇い労働などをしたのですが、家賃を払えなくなって夫婦仲も険悪になって離婚。コロナさえなければ……と本当に思いますね。

 貯金もない。持ち物はすべて妻に持っていかれてしまった。ただ、中古の車だけ譲ってもらったので、一時しのぎという意味で車上生活を始めたんです」

◆洗濯は公園で

 仕事以外は車中で眠ったりして時間をつぶす。フラットシートにできる車だったのが不幸中の幸い。よく駐車場として利用するジムで洗濯をしているのがバレて怒られてしまい、最近は公園で洗って、洗濯物は車の上に干しているという。

貧困パンデミック

◆ギリギリの生活が1年経過

 住所を失い、日銭を稼ぐギリギリの生活が始まってすでに1年余りが経過。コロナ禍は落ち着く気配を見せているが、田中さんの生活に好転の兆しはまだ見えない。

「今夏の緊急事態宣言のときも仕事を完全に失い、ドン・キホーテなどの格安弁当でなんとか飢えをしのぎました。だけど、本当に死ぬかと思いましたね。車内での孤独死だけはさすがに避けたい。

 だからといって、生活保護は老人がもらうものであり、40代でまだ働ける自分がもらうのは恥だと思っている。親や親戚とも疎遠で頼る人もいません。

 今後が不安で仕方ありませんが、私ができることは早くコロナが収束してくれることを祈るだけです」

◆今の貯金額は?

貧困パンデミック 彼とて、こんな生活を一生続けたいわけではない。

「もちろん、そのうちアパートを借りてちゃんと社会復帰しますよ。そのつもりでお金も貯めている。幸い、切り詰めた生活のおかげで、なけなしの収入でもだんだんと貯金が増えているんです。今の貯金額ですか? ようやく5万円になりましたよ」

 来年には車検が切れてしまうので、この生活ももってあと1年程度だという。

※厚生労働省のホームページでは生活困窮者自立支援制度を紹介、市区町村の相談窓口を案内している

<取材・文/週刊SPA!編集部>