今、結婚相談所が熱い——。結婚願望を持つ人や婚姻率が年々低下の一途を辿り、新婚夫婦の実に1/4がマッチングアプリ婚といわれる現代。逆風に見舞われてばかりの相談所かと思いきや、実態はまったくもって異なるのだ。事業者数も会員数も、右肩上がりの業界なのである。
 しかし結婚相談所での活動は、マッチングアプリより費用がかかるうえ、心理的ハードルも高いはず。会員たちは一体どんな人物で、なにを決め手に入会するのだろう。

 今回インタビューを行ったのは、東京は青山に構える結婚相談所「マリーミー」。『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)2月放送分の「結婚したい彼と彼女の場合 〜令和の婚活漂流記2024〜」での密着も話題となった、人気の相談所だ。

 同代表の植草美幸氏と、会員のAさん(34歳男性・会社経営者)から話を伺い、“相談所のリアル”に迫っていく。

◆「家族を作りたい」と思い、入会を決意

——まず入会したきっかけについて教えてください。

Aさん(以下、A):昔は抱いていなかった結婚願望が芽生えたから、というのが一番の理由ですかね。3年前に祖父が亡くなって、祖父母で健在なのは母方の祖母1人になりました。こうして家族が減っていくことに寂しさを覚えて、自分も結婚して家族を作りたいなと思うようになったんです。

植草美幸氏(以下、植草):Aさんは会員になってまだ1ヶ月。けれど、入会して最初の2週間で13人もの方とお見合いされるなど、かなり精力的です。

A:少々飛ばしすぎてしまった感も否めませんが(笑)。2人の方と仮交際に進み、うち1人とは今も継続中です。

◆「年収1500万円の会社経営者」は引く手数多?

——事前に共有いただいたAさんのプロフィールが《34歳・東京在住・会社経営者・年収1500万円》。一見すると好条件なので、植草先生が日頃発信されている「清潔感・コミュニケーション能力」に課題がある方かと想像していたものの……。初対面で不躾ながら、これまで交際相手に不自由されることはなかったのでは?

A:そんな、とんでもないです……! ただ、交際経験はたしかに人並みにあるとはいえるのかも。直近の恋人とはマッチングアプリで出会って、昨年の2月頃から3〜4ヶ月ほど付き合いました。

植草:写真や条件面で女性受けしやすいうえに、Aさん側がお相手にNGをあまり出さない。年齢の希望も「同年代〜少し年下」と幅がありますから、はじめの2週間が怒濤のお見合いスケジュールに。1日に数件組んでいたので、調整が大変でした(笑)。

——やはり(笑)。「鳴かず飛ばず」ゆえに、日常生活での出会いやマッチングアプリ経由の出会いをあきらめる男性も多い一方、Aさんは成功体験もお持ちです。なぜ結婚相談所に舵を切り替えたのでしょうか。

A:過去の交際相手と結婚の話をしたことはないんですよね。当時、願望がなかったためかもしれませんが……。マッチングアプリについても、どうしても恋愛ベースといいますか。会話やデートの楽しさのようなものが主軸になりがちだと感じて。

植草:さすがの慧眼です。当然のことではありますが、結婚相談所の大きなメリットのひとつが、結婚観のすり合わせから始められることです。

◆Aさんの“意外な”弱点は…

A:私の場合、2人の子供に恵まれたい思いがありまして。お互いが考えるタイミングが合うかどうかや、あるいはそもそも子供が欲しくない方もいらっしゃいますよね。そうした結婚後の人生設計を前提に、話し合いながら相手を探せるのがいいなと思っています。

植草:そうなんです。にもかかわらず、「ロマン」「ときめき」といった恋愛感情を優先してしまう会員の方も結構いらっしゃって……。そうした方には「恋愛じゃなくて結婚をしに来たんですよね」「結婚生活を営むなかで恋愛感情がついてくる相手を探すんですよ」と、口を酸っぱくして諌めています。

——マッチングアプリと結婚相談所では、「モテ」云々ではなく「目的」が違うわけですね。とはいえ、Aさんならすぐに見つかりそうに感じます。隠れた弱点だったり、難しすぎる理想があったりするのでしょうか。

植草:実は「年収」が弱点です。年齢などほかの要素を加味した際、Aさんの数字上の年収はもちろん高い。ですが、法人成りして間もない経営者なので、どうしてもアップダウンはありますし、その収入を会社員や公務員と同じような感覚では使えません。

 そうした実態をわからない女性会員が、年収だけを見てお見合いを申し込んで「思った感じと違う」となってしまう場合も発生しやすいです。反対に、そうした実態を理解している女性会員だと、はなから敬遠されてしまうことも。年収より雇用形態を重視する人も多いのです。

A:実感していますね。もともと、大学を卒業後に新卒で入った会社を5ヶ月で辞めて、個人事業主に。徐々に拡大していき、今年ついに法人成りしたのですが、経緯として少々チャレンジングですよね。なので、安定志向が強い方や、依頼心が強すぎる方だと相性が悪いのかなと。むしろちょっと変わったタイプの方……好きなものがしっかりあって、私の趣味も理解してくれるような方が理想です。

◆「車を運転できる」条件を求める女性の存在

——もしや突飛な趣味、あるいはお金や時間のかかる趣味をお持ちなんでしょうか?

A:いえ(笑)。楽器演奏が趣味でして、毎日練習したいんです。今は日中の音出しがOKの賃貸物件に住んでいるのですが、2人では手狭なので引越すか事務所を新たに借りる必要はあるかなと。けれど仕事場の方で練習すればいいと思っているので、新居選びに防音の縛りはないですし、練習時間を含めても家を空ける時間は一般的なサラリーマンよりもやや短いかもしれません。

植草:趣味よりもネックになりやすいのは、車の運転が苦手なこと。都内は交通機関が発達しているので必ずしも車は必要ないのですが、それでもご自身が育った環境なのか、子供の送迎や買い出しなど、「男性に運転してほしい」という女性が一定数いるのが実情です。

A:仕事的にも首都圏から離れたくないので、車の練習はあまり気が進まないですね……。相手がアウトドアな趣味を持っていてもいいのですが、「一緒に来て」と言われたら断りますし(笑)。

——男性にも「家事能力」が問われる時代だと植草先生は啓発されていますが、そのあたりはいかがですか。

A:料理は好きですし、自炊も長年しています。ただ、整理整頓は苦手意識があるので、分担時に考慮してもらえると助かります。

植草:Aさんが家計の主体となることは問題ないようですが、貯蓄分などのためにも共働きが前提と聞いています。ですから、家事・育児をいかに主体的に行えるかのアピールはしっかりと行っていきましょう。

◆婚活女性は「怖そう」だと思っていたけど…

——入会してから驚いたことや、変えたことなどはありますか?

A:SNSやメディアの印象で、婚活している女性は「怖そう」「大変そう」と思っていたのですが、そんなことは全然なかったですね。紹介された方はいい人、素敵な人ばかりで、かえって驚きました。お会いした13人中、1人だけ遅刻したのにまったく悪びれない人もいましたが(笑)。

植草:日常生活でも、10人いれば1人ぐらいは感じの悪い人はいるもの。相談所でも同じことなんです。私がAさんに最初にアドバイスしたのは、ワイシャツとネクタイの購入。会社員ではないこともあってフォーマルな服をお持ちでなかったのですが、初対面であるお見合いではスーツスタイルがもっとも無難ですから。

A:相談所の女性がどう感じるのかを教わっていますね。仕事柄、清潔感は入会前からも大切にしていましたが、より気を遣うようになりました。

植草:今後、女性からのフィードバックがどんどん出てくるので、いかに対応していけるかどうかが焦点になります。Aさんの成婚目標は半年から1年。引き続き二人三脚で、婚活に取り組んでいきましょう!

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 結婚相談所には、“ワケあり”な人間しかいない——というのは、大きな間違い。「恋愛経験がないからなど、駆け込み寺のように入会される方もいますが、合理主義ゆえに入会されるタイプも多いんです」と植草氏は語る。

 過去には「存在しないもの」として扱われてきた多様な個人の在り方が、徐々にだが認知・肯定されつつある過渡期たる現代。結婚して当然の時代が終焉した今だからこそ、「結婚したい」もの同士で出会える相談所が活況を呈しているのだろう。

<取材・文/海原あい>



【海原あい】
コンビニで買えるビール類はほぼ全制覇しています。本は紙派。さらに調味料と服とスペースエイジ系のインテリアを収集しているため、収納不足に陥りがちです。好きな検索ワードは「備忘録」