さまざまな事情を抱えた人たちが利用するラブホテル。一般的には、ドキドキ、ワクワクしながら、ときにはヒソヒソと向かう場所だ。
 学生時代にラブホで清掃員としてアルバイト経験もある前田裕子さん(仮名・20代)。前田さんが働いていたラブホには、一定数の割合で“困った客”がいたというが、ごく稀に“神客”も訪れたとか……。果たして、その正体とは?

◆ラブホの“神客”

「まず、困った客というのは、タオルなどの備品を持ち帰ったり、部屋を散らかしたり……そこは普通のホテルと同じかもしれません。最も多かったのは、シーツの汚れですね。

 ただ、シーツは毎回取り替えますし、マットに染み込まないようにラバーシーツというものも忍ばせてあるので、思う存分暴れちゃって結構。ラブホなので、はっきり言ってそのへんは許容範囲ですね」

 ただし、あまりにひどいと清掃に時間がかかるので、その部屋はしばらく使用禁止になって稼働率に響くそうだ。そんななかで、2回ほど“神客”に遭遇したこともあるそうだ。

◆ベッドに寝た形跡がなく、風呂場に水滴もない

浴室 なんとフリータイムでの利用にもかかわらず、ベッドに寝た形跡もなく、風呂場に水一滴落ちていない。清掃員としては、まさに神様のような客だ。

「じつは、“神様”ではなく“女王様”が使用されたお部屋だったんです。どうやら、入室してすぐにシャワーも浴びずに始まるようで……。さまざまなお客さんをモニターで確認することがあるのですが、私にはどのカップルが女王様と奴隷の組み合わせかは分かりませんでした。

 ただ、歴の長い先輩であれば、なんとなく察することができたみたいで、男性は手ぶら、女性がキャリーケースを転がしているパターンが多いらしいです」

 ある日、「なぜ、“女王様”が使用した部屋はキレイなのでしょうか?」と先輩に聞いてみたという。

「彼女たちはプロなので、自前のラバーシーツを持っているんです。お客様をベッドや椅子に座らせるのではなく、床に敷いたラバーシーツの上に正座させる……。前もってどんなプレイを望むのか打ち合わせ済みらしく、その範囲内でお仕事をされ、お片付けをするまでがプレイなんだそうです」

 もちろん、いくら部屋がキレイでも清掃員は掃除すると前田さんは言う。

◆高齢者カップルは「顔も隠さないし、堂々としている」

光の扉とシニア夫婦の後ろ姿 土日や夜間は若者が多いラブホだが、平日の昼間は高齢者のカップルも少なくないという。

「高齢者というか、年齢が高めのカップルが多数いるんです。実際にはカップルかどうかわかりませんけれど……。平日に高齢者のカップルがいなかったら、土日や夜間に満室になるラブホでも経営難になるでしょうね」

 また、高齢者のカップルには、若者にはない“すごい一面”があると、前田さんは打ち明ける。

「高齢者はタッチパネルが苦手なので、スタッフが必ず呼ばれるのですが、対面式のフロントでも、誰かと乗り合わせたエレベーター内でも、顔を伏せたり恥ずかしがったりすることがないんですよね」

 若いカップルのような恥じらいを持っておらず、むしろ堂々としているそうだ。

◆「“衛生サック”が足りないから持ってきて」

 高齢者のカップルはポイントカードも持っており、“〇時までに入ればワンドリンクにモーニングが付く”などのプランにも妙に詳しいという。そして、何よりもフロントへの連絡が多い。

「あ、ごめんね。“衛生サック”が足りなくなったから追加で……」
「衛生サック……?」

 受話器を持ったまま固まる前田さんに、ベテランの先輩が横から口を出す。

「避妊具のことよ! まったく部屋に3個も置いてあるのに……。持っていってあげて!」

 現在、医療福祉関係の仕事をしている前田さん。そんな学生時代のバイトのおかげか、高齢者の性に関して免疫ができたという。

「施設の高齢者さんを車に乗せてラブホ街を通るときは、『この派手な建物は何をする場所なの?』と聞かれることもありますけど、落ち着いた対応ができますね」

 前田さんは、稀に高齢者から“連れ込みホテル”などというフレーズが飛び出すと、ラブホでバイトしていた頃が懐かしくなると目を細めるのだった。

<取材・文/資産もとお>

―[ラブホの珍エピソード]―