いつの時代にも、職場恋愛は絶えない。
筆者(綾部まと)は新卒でメガバンクに入行し、地方や都内の営業店で法人営業を経験した。そこで数々の行内恋愛を目にしてきた。

銀行では、店内恋愛は禁止である。会社の風土が「懇意な仲になると、お金の融通をしてしまうのでは」と疑う性悪説だからだ。そのため、片方が異動して別の店に行ってから「実は付き合っています。交際時期は、もちろん異動してからです!」とバレバレの嘘をつく者が多い。

つまり、体裁だけが整っていれば良い。しかし、いくら禁止をされていても恋に落ち、周りが見えなくなる者もいる。今回はメガバンクにおける「不倫がバレた瞬間」をご紹介する。

◆①茶封筒を店内で手渡し

茶封筒あることがきっかけで上司の不倫が発覚したと、新入行員のAさんは語る。

「急いでいる案件があり、決裁をもらうために上司を探していた時のことです。オフィスから少し離れた廊下で、リテールの女性行員が彼に茶封筒を渡している姿を目撃しました。僕の視線に気付くと、二人とも『しまった』という表情を浮かべました」

銀行で使用される封筒には、必ずロゴマークが入っている。その茶封筒は無地だったので、余計に違和感を覚えたという。当時は業務に忙殺され、うやむやにしたまま日々を過ごしていたが……。

◆中身は「妊娠関係の書類」

「数週間後に、女性行員が退職することになりました。後を追うように、上司も異動。銀行では異動日が決まっているのですが、あまりに急な辞令で、誰もが驚いていました」

Aさんは後に、女性行員が出産したとの噂を同期から聞いた。「相手、誰か知ってる?」という同期に首を振ると、「Aの元上司だよ」と返されて驚いたらしい。

「上司はお子さんもいたのですが、離婚して彼女と結婚したみたいです。あの封筒の件があったから納得しましたが、他は『リテールとの帯同が多いな』と思うくらいでしたね」

リテールと帯同してくれる上司は稀なので、当時はありがたいと感じていたとのこと。「上司は法人だけでなくリテールの目標にも熱心で、尊敬していたんですが……そういう理由だったんですね」と肩を落としていた。

◆②飲み会に、二人揃って遅れて来る

飲み会恋は、何歳になっても落ちるものだ。年功序列の銀行では、年齢と共に役職も上がる。しかし恋は、責任ある立場であることを忘れさせてしまうことも。

「リテールや外為の女性行員と、法人部門の男性行員の組み合わせは、よくあります。でも最近、支店長と副支店長がダブル不倫していたことが発覚しました」

支店の歓送迎会には、支店長と副支店長は必ず参加することになっている。日程調整も、まず支店長と副支店長の都合が優先される。残りの行員はかつてのように参加が必須ではないので、出欠状況はまばらだ。

「次課長や行員が急な対応で飲み会に遅れることは、たまにあります。でも、支店長と副支店長が遅れることは、他店ではあまり見られません。銀行では、遅刻はご法度ですからね」

ただでさえ遅れることが少ないはずの二人だが、よく飲み会に遅れて来たのだという。しかも同じタイミングなので、Aを始めとした行員たちは不審に思っていた。

◆ラブホから出てくる瞬間を激写されて……

「店の先輩が、支店長と副支店長のラブホから出てくる瞬間を激写しました。その写真を本部に送って、一発アウト。本部では、行員同士のメールをのぞける部署があるんです。彼らは会社ドメインのメールを使ってやり取りをしていたみたいなので、言い逃れができませんでした」

しかし、店内では、二人を憐れむ声も多かったのだという。

「確かに飲み会に遅れて来ることは多々ありましたし、不倫はいけないことです。でも二人とも仕事もできましたし、いつも機嫌が良かったんです」

Aさんも実際に何か迷惑をかけられたわけじゃないので、先輩のタレコミを『そこまでしなくても』と感じたという。しかし、行内恋愛と不倫は異様なほどに毛嫌いをする行員が、一定数いるのだとか。

◆プライベートでも「リスク管理能力」が試される

銀行の出世は椅子取りゲームなので、自分より上の立場の人間を蹴落とそうとする風習が強い。そのため新入行員、パートタイム、派遣スタッフについての通報は少ないらしい。昇進すると、プライベートでも「リスク管理能力」が試されるのだろう。仕事柄、外に出会いを求めにくいかもしれないが、羽を伸ばすのは銀行外にした方が、安全なのかもしれない。

<文/綾部まと>



【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother